(『天然生活』2021年12月号掲載)
歳を重ねたからこそ新しい暮らし方を愉しめる
随筆家・山本ふみこさんは、住み慣れた東京を離れ、埼玉県熊谷市へと引っ越してきました。
夫の生まれ育った家は、築150年を超す古民家。その家を、引き継ぐことにしたのです。
肩の力をほどよく抜いて、新しいスタートを切れたのは、3人の子どもたちが、それぞれに巣立ち始めたいまだからこそ、と山本さんは話します。
「もしこれが30代や40代のころだったら、子どものために、新しい場所で友達をつくらなくちゃ、と必死になっていたかもしれません。でもいまは、自然に仲間ができていくのも愉しいなと、のんきに構えていられます。都内に暮らす子どもたちも、この新・熊谷の家を気に入ったようで、ときどき泊まりに来てくれますし、これまでとは違ったかたちの距離感を愉しめているかな。暮らしも、子どもたちとの関係も、いろいろと先に考えすぎたり、心配しすぎたりしないように、移住を大げさにとらえすぎないように。私の場合は、そう目標を立てて正解でした」
日々の愉しみ
大切なものを生かす
30代のとき、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで手に入れた書家の作品と、義母が遺した手づくりの革細工の鏡や嫁入り道具の下駄箱。
大切にしていきたいものたちが長い時間を経て、山本さんの新しい暮らしにすっと溶け込みました。
「なんでも取っておくのは考えものですが、大切にしたいものは、こうしてちゃんと生きるときが来るのだと、若い人たちにも伝えたいですね」
日々の愉しみ
不便も面白がる
「面白がる」ことが得意な山本さん。収納の少ないこの家で、食器棚代わりに選んだのは義祖母の嫁入り道具だという下駄箱です。
さらに、駅や商店が遠いいまの環境も、電動アシスト自転車で快適に。
「これまでは歩くことを心がけてきましたが、こうやってぺダルを漕いで股関節を動かすことも体にいいんですって」
不便になったとなげくより、「面白がる」精神で暮らしを明るくしています。
日々の愉しみ
土や自然に親しむ
農家だった義両親の畑を受け継ぎ、これまでは「手伝い」だった田畑仕事が、少しずつ暮らしの一部になり始めています。夏には、山本さんのイラスト入りラベルを添えて、ブルーベリーの出荷も。
ここ2年は米づくりをお休みしていましたが、「このあたりは小学校が近く、通学路でもあるので、耕作放棄地になるのはもったいない」と、来年からは本格的に米づくりを再開する予定です。
<撮影/有賀 傑 取材・文/藤沢あかり>
山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
暮らしの機微をつぶさに、「面白がり」ながら、独自の視点で照らす随筆家。「ふみ虫舎通信エッセイ講座」主宰。著書に『家のしごと』(ミシマ社)など。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
* * *
第1章 これからの「おいしい生活」のつくり方
料理家・大庭英子さんには、いまの自分にちょうどいい、レシピ6品と台所仕事の工夫を、スタイリストのchizuさんには、気負わず楽しむ、テーブルコーディネートのコツを教えていただきました。
第2章 おしゃれは心のビタミン!
中野翠さんのエッセイと、ぬ衣さん、山下りかさんの春夏秋冬のコーディネートを紹介します。
第3章 豊かな人生のための幸せの支度
山本ふみこさん、ユキ・パリスさん、中島デコさん、松場登美さん、横尾光子さん、坂井より子さんの暮らしの流儀を紹介します。
第4章 心身とお金を整えるために
家で簡単にできる体操や、節約のこと。
第5章 人生の豊かな「しまい方」
石黒智子さんがはじめた終活と、井上由季子さんが経験した家族の介護について、お話を伺いました。