• いまある資源を生かし、未来につないでいくために。徳島県神山町で「幸せな循環」に取り組むNPO法人「まちの食農教育」理事・森山円香さんを取材しました。今回は、森山さんの循環する暮らしについて伺います。
    (『天然生活』2023年12月掲載)

    土地にあるものを生かし次の世代へつないでいく

    車がやっと通れる山道を上ったところ、目の前に広がるのは集落を見晴らす絶景。

    「このあたりで一番てっぺんにある家なんですよ」と、森山円香さん。前の住人がリノベーションした古民家を引き継ぎ、夫と暮らしています。

    画像: 住まいから集落を一望。神山町は林業を主にすだちの産地としても知られる

    住まいから集落を一望。神山町は林業を主にすだちの産地としても知られる

    「かつておじいさんがにわとりや牛を飼い、自給自足していた家なんです。にわとり小屋は自分たちで直して仕事場兼サンルームに。納屋の1階はまだ手つかずですね」

    森山さんが暮らすのは、徳島県神山町。山間の小さな町ながら、IT企業のサテライトオフィスやお店が次々と生まれ、魅力的な場所が人を呼び、移住を促進。いい循環が生まれています。

    画像: 7カ月にわたる旅を経て、大学院進学を決めた森山さん。集中したいときはここで。「夏場は暑いので、洗濯物干し場になりました」

    7カ月にわたる旅を経て、大学院進学を決めた森山さん。集中したいときはここで。「夏場は暑いので、洗濯物干し場になりました」

    画像: 緑に囲まれたリビング。“ポツンと一軒家”なので、「音楽を思いきり楽しめます」

    緑に囲まれたリビング。“ポツンと一軒家”なので、「音楽を思いきり楽しめます」

    昨年退職し、どう生きていくか考えたくて、夫婦で世界各地を旅してきたばかり。農業や環境保全の現場を見て回りました。

    画像: 教育分野からキャリアをスタートし、農業高校の立て直しに取り組んだことで、農と食を考える機会をもった森山さん。食農教育に力を注ぐ

    教育分野からキャリアをスタートし、農業高校の立て直しに取り組んだことで、農と食を考える機会をもった森山さん。食農教育に力を注ぐ

    「あらためて感じたのは、水と土の大切さ。日本は水に恵まれますが、神山町では近年水量が減少しているんです。里山の環境を保つにはどうすればいいか。私に何ができるか、考えていきたいです」

    01_循環する暮らし
    にわとり小屋をサンルームに

    画像: 「モノストック」で譲り受けたレトロな窓やトタンを生かし、半壊していたとは思えないほどかわいく再生

    「モノストック」で譲り受けたレトロな窓やトタンを生かし、半壊していたとは思えないほどかわいく再生

    朽ちかけていたにわとり小屋をサンルーム兼ワークスペースに改修。素材のほとんどが廃材の再利用です。

    「神山町には空き家の片づけで出た建具や古道具などを集めた倉庫『モノストック』があって、オープンデーには在住者・在勤者に限り、気持ち分の寄付で持ち帰れるシステムなんです。捨てずに生かせばごみを減らせます」

    02_循環する暮らし
    灰を捨てないで畑づくりに生かす

    五右衛門風呂やBBQで出た灰は捨てずにためておき、畑にまきます。灰には土壌をアルカリ性に保つ働きがあり、カリウムやカルシウムの補給や害虫や病気の予防にも。

    画像: 畑の脇につくった五右衛門風呂。伐採した敷地の木を薪にして使う

    畑の脇につくった五右衛門風呂。伐採した敷地の木を薪にして使う

    「種いもを植え付けるときは、切り口の表面に灰をまぶしておくと、湿り気が取れて腐らず根づきます。五右衛門風呂は開放感抜群で、友人に喜ばれますね」

    画像: 灰を肥料代わりにし、自生するように伸び伸び育てる。大きな葉っぱは里いも。「地元の農家さんから種いもを分けてもらいました」。顔の見える関係を大事に

    灰を肥料代わりにし、自生するように伸び伸び育てる。大きな葉っぱは里いも。「地元の農家さんから種いもを分けてもらいました」。顔の見える関係を大事に

    03_循環する暮らし
    微生物の力で分解。生ごみを出さない

    画像: 「キエーロ」はベランダにも置ける生ごみ処理機。木箱の中に黒土が入っていて土中の微生物が生ごみを分解。ふたを開けてもにおいがなく、生ごみが跡形もなく消える。分解後の土は堆肥としても使える

    「キエーロ」はベランダにも置ける生ごみ処理機。木箱の中に黒土が入っていて土中の微生物が生ごみを分解。ふたを開けてもにおいがなく、生ごみが跡形もなく消える。分解後の土は堆肥としても使える

    神山町では、数年前まで生ごみ収集がなく、ごみを出さない習慣が根づいているそう。1日一人当たりのごみの排出量は、全国の自治体で3位の少なさ(2021年度)。

    森山さんは微生物の力で生ごみをなくす「キエーロ」を設置。野菜くずや卵の殻はもちろん、食用油もOK。

    画像: 「キエーロ」にハンドペイント。畑の看板のようで、愛着がわく

    「キエーロ」にハンドペイント。畑の看板のようで、愛着がわく

    「においもなく、手間がかからないので助かります」

    04_循環する暮らし
    地元の恵みをおいしく楽しむ

    学生時代、島根・海士町にある島でインターンを経験した森山さん。

    画像: すだちをスライスして、半量の砂糖に漬けてシロップに。香りさわやか

    すだちをスライスして、半量の砂糖に漬けてシロップに。香りさわやか

    「つくった野菜を交換したり、もらったいかを塩辛にしたり、手づくりや顔の見える関係の豊かさを感じました」

    画像: すだちシロップは炭酸で割って。しそジュースなども手づくり

    すだちシロップは炭酸で割って。しそジュースなども手づくり

    画像: 山で拾った栗を渋皮煮に。大粒でおいしい。「春はわらび採りも楽しみ。神山町はおいしいものの宝庫。胃袋をつかまれています」

    山で拾った栗を渋皮煮に。大粒でおいしい。「春はわらび採りも楽しみ。神山町はおいしいものの宝庫。胃袋をつかまれています」

    神山町はすだちの産地。分けていただくことも多く、新鮮なうちにシロップに。地元の恵みを食べることが、農業や食文化を守ることにつながります。



    <撮影/辻本しんこ 取材・文/宮下亜紀>

    森山円香(もりやま・まどか)
    1988年、岡山県生まれ。地域開発コンサルティングファームに勤め、徳島県神山町の地方創生に携わり、2016年に移住。農業高校のカリキュラム開発や学科再編に取り組み、その経験を基にした著書『まちの風景をつくる学校 神山の小さな高校で試したこと』(晶文社)も。https://note.com/gachapiyoyoyon2/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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