(『天然生活』2023年12月掲載)
土地にあるものを生かし次の世代へつないでいく
車がやっと通れる山道を上ったところ、目の前に広がるのは集落を見晴らす絶景。
「このあたりで一番てっぺんにある家なんですよ」と、森山円香さん。前の住人がリノベーションした古民家を引き継ぎ、夫と暮らしています。
「かつておじいさんがにわとりや牛を飼い、自給自足していた家なんです。にわとり小屋は自分たちで直して仕事場兼サンルームに。納屋の1階はまだ手つかずですね」
森山さんが暮らすのは、徳島県神山町。山間の小さな町ながら、IT企業のサテライトオフィスやお店が次々と生まれ、魅力的な場所が人を呼び、移住を促進。いい循環が生まれています。
昨年退職し、どう生きていくか考えたくて、夫婦で世界各地を旅してきたばかり。農業や環境保全の現場を見て回りました。
「あらためて感じたのは、水と土の大切さ。日本は水に恵まれますが、神山町では近年水量が減少しているんです。里山の環境を保つにはどうすればいいか。私に何ができるか、考えていきたいです」
01_循環する暮らし
にわとり小屋をサンルームに
朽ちかけていたにわとり小屋をサンルーム兼ワークスペースに改修。素材のほとんどが廃材の再利用です。
「神山町には空き家の片づけで出た建具や古道具などを集めた倉庫『モノストック』があって、オープンデーには在住者・在勤者に限り、気持ち分の寄付で持ち帰れるシステムなんです。捨てずに生かせばごみを減らせます」
02_循環する暮らし
灰を捨てないで畑づくりに生かす
五右衛門風呂やBBQで出た灰は捨てずにためておき、畑にまきます。灰には土壌をアルカリ性に保つ働きがあり、カリウムやカルシウムの補給や害虫や病気の予防にも。
「種いもを植え付けるときは、切り口の表面に灰をまぶしておくと、湿り気が取れて腐らず根づきます。五右衛門風呂は開放感抜群で、友人に喜ばれますね」
03_循環する暮らし
微生物の力で分解。生ごみを出さない
神山町では、数年前まで生ごみ収集がなく、ごみを出さない習慣が根づいているそう。1日一人当たりのごみの排出量は、全国の自治体で3位の少なさ(2021年度)。
森山さんは微生物の力で生ごみをなくす「キエーロ」を設置。野菜くずや卵の殻はもちろん、食用油もOK。
「においもなく、手間がかからないので助かります」
04_循環する暮らし
地元の恵みをおいしく楽しむ
学生時代、島根・海士町にある島でインターンを経験した森山さん。
「つくった野菜を交換したり、もらったいかを塩辛にしたり、手づくりや顔の見える関係の豊かさを感じました」
神山町はすだちの産地。分けていただくことも多く、新鮮なうちにシロップに。地元の恵みを食べることが、農業や食文化を守ることにつながります。
<撮影/辻本しんこ 取材・文/宮下亜紀>
森山円香(もりやま・まどか)
1988年、岡山県生まれ。地域開発コンサルティングファームに勤め、徳島県神山町の地方創生に携わり、2016年に移住。農業高校のカリキュラム開発や学科再編に取り組み、その経験を基にした著書『まちの風景をつくる学校 神山の小さな高校で試したこと』(晶文社)も。https://note.com/gachapiyoyoyon2/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです