• 支える、支えられる。そんな線引きをすることなく、人が混ざり合う場所。気づけばいつも、その中心には温かな料理がありました。今回は、料理家の枝元なほみさんに、「ビッグイシュー基金」活動のひとつ「大人食堂」や「夜のパン屋さん」についてのお話を伺います。
    (『天然生活』2024年2月号掲載)

    「平等に」よりももっと、大切なこと

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    「チームむかご」としては、生活者と生産者の距離を近づけるための農業支援やフードロス削減活動、発生から12年となった東日本大震災の被災地への支援をしてきました。

    連載を始めたことから関わりが生まれた、ホームレスの人々のサポートを軸とするNPO法人「ビッグイシュー基金」では、いまや共同代表という立場に。

    「ビッグイシュー基金」の活動として、売れ残りそうなパンを引き取って販売する「夜のパン屋さん」や、年末年始の「大人食堂」の運営にも関わっている枝元さん。この活動を通して感じたのは、“空腹を満たすことが、必ずしも最優先ではない”ということでした。

    画像: 「ビッグイシュー基金」のプロジェクトのひとつ、「夜のパン屋さん」

    「ビッグイシュー基金」のプロジェクトのひとつ、「夜のパン屋さん」

    「被災地の避難所でも起こっていたことなんだけれど、外部からやってくる“ボランティア”としては、『みんな、同じだけ困っているのだから、できるだけ平等に』と思うわけです。あっちのお弁当には魚が入っているのに、こっちのお弁当には入っていないなんてことがないように、その場にいる全員に、なるべく同じものが行きわたらなきゃいけないって、思いがち。ヘタすると、『全員分はないから、不公平なので配りません』なんてことになっちゃうこともあったりして」

    「でもなんだか、ちょっとヘンだよね。とくに大人食堂なんて、当日、何人来るのかわからないし、同じおかずを同じ量だけなんて、できるわけないもの。そもそも、みんなが同じ分だけってのも、よく考えたらちょっとヘンなんじゃないかな。おなかいっぱいになる量なんて、本当に人それぞれだものね。だからもう、材料がある分だけどんどんつくって、どんどん出すことにしたんです。もしなくなったら、『ごめんね、もうなくなっちゃったんだけど、代わりにこれをつくったから食べて』って言えばいいや、って思って。」

    画像: 営業終了間際に、売れ残りそうなパンを引き取り、神楽坂の「かもめブックス」をはじめとする拠点で販売する。「各店舗からのピックアップなどで、働く場をつくります。食品ロスの問題も、同時に解消する手立てに」

    営業終了間際に、売れ残りそうなパンを引き取り、神楽坂の「かもめブックス」をはじめとする拠点で販売する。「各店舗からのピックアップなどで、働く場をつくります。食品ロスの問題も、同時に解消する手立てに」

    「要するに、来た人みんながほっとした気持ちになれて、うれしい気持ちになれて、食べられることが、大切なんだよね。そうするとね、おしゃべりなんかも、むしろ弾んじゃうわけです。『ごぼうのおかずはもうなくなっちゃったんだけど、代わりのこの大根、すごくおいしく煮えたから食べてって!』なんてね。黙々と、同じお弁当をみんな無言で受け取って、列がただ目の前を通り過ぎていくよりも、ずっと楽しいなって思ったんです。空腹を満たすよりも、もしかしたらこんななんでもないおしゃべりをすることのほうが、ともに求めているものなのかもしれないなあって」

    ある日の大人食堂に訪れた、ごはんが食べられない状態であるなんて一見してはわからない、いまどきの若者。

    「『オレ、ホントに金ないっス』なんて言っててね。ズボンがビリビリに破けちゃって、それなのにいまはいているこの1本しか持ってなくて、困ってるなんて言うの。そしたら、その場にいたおばちゃんたちが、わあわあ言って針と糸でささっと縫って、その子も『助かるっス』なんて言ってて。あの感じ、よかったな。縫ってるほうもむしろ、うれしいのね。支えるだの、支えられるだの、そんな線引きなしで、みんなが混ざってる。それが一番、いいんだよなあと思う。人がただ、混ざってああだこうだ言ってる。あったかいごはんやおかずがあって、ちょっと擬似家族みたいでね」

    食べ物の力を信じている

    ときには、何かを手渡すよりも、ともに手を動かすことのほうが、だれかの心に寄り添えることもある。そんな場面に、何度も立ち会ってきました。

    「私たちは3・11のあと、被災地でクッキーをつくり、それを非被災地が買い支える“にこまるプロジェクト”という活動をしていました。震災のあとから始めた試みなんですけど、当時、津波被害の大きかった岩手県の大槌町では、作業をすることが難しかったので、少し離れた同じ県内の遠野でつくる場所を紹介してもらいました」

    画像: にこまるプロジェクト。クッキーにはつくった人からのメッセージが書かれたハガキが添えられ、購入した人がそれに返信できる仕組み

    にこまるプロジェクト。クッキーにはつくった人からのメッセージが書かれたハガキが添えられ、購入した人がそれに返信できる仕組み

    「大槌から3、4人の女性たちがやってきて、そこで一緒にクッキー生地をこねてました。やっぱり皆さん、あまり話さない。被害の大きさを考えたら、もっともですよね。こちらも、何も言えない。でも、同じように手を動かしているうち、ポツポツと口を開いてくれる。『こういう作業が好きだった友達がいたけれど、死んじゃったの』とか、面と向かってではなく、手を動かしながらだから、たぶん言えるようなことでもあって。私は胸がいっぱいになってしまったんですけれど、きっと、こうやって少しずつでも口に出していくことが大切なんだろうと思いました。一緒にいて、少しずつでも話しながらみんなで手を動かす、大事な時間でした

    画像: 「支える人も、お金だけでなく気持ちを伝えたい。つくった人も、だれかに確実に届いているという感覚がある。クッキーを介したお互いの気持ちのやり取りが大切」

    「支える人も、お金だけでなく気持ちを伝えたい。つくった人も、だれかに確実に届いているという感覚がある。クッキーを介したお互いの気持ちのやり取りが大切」

    でき上がった生地を天板に並べ、オーブンへ。次第に漂ってくる、バターの甘い香り。

    「すごくつらくて、忘れられるはずなんてないのに、その甘い香りが、一瞬、場の空気をがらりと変えてくれるんですよね。『あ、焼けたね、いいにおいだね』って。そのときに、食べ物の力って、すごいなって思ったの。悲しいけれど、『おいしいね』って言い合えることの大きさっていうのかな。一緒に何かをつくって、それを食べて。もう、それってどんなことよりすごい力があるのね」



    <撮影/川村 隆、浅野一哉 取材・文/福山雅美>

    枝元なほみ(えだもと・なほみ)
    劇団の役者兼ごはん係、無国籍料理店スタッフを経て、料理家に。つくりやすく、オリジナリティあふれるレシピで人気となり、雑誌、テレビ、書籍など多岐にわたって活躍。https://mukago.stores.jp/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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