(『天然生活』2017年11月号掲載)
料理研究家、横山タカ子さんが暮らす長野のお宅へ
料理上手、暮らし上手で評判の横山タカ子さん。日々の生活のなかで、どんな工夫をしているのでしょう。30年住んでいるというお宅に、おじゃましてみました。
玄関に一歩、足を踏み入れると、手づくりのもの、自然の風情を感じさせるもの、使い込まれて家にすっかりなじんだものたちが、やさしく迎えてくれます。初めてなのに、どこか懐かしい印象です。
さまざまなものが、暮らしのなかで自然に循環している
「私は、物を大切にしなさいといわれて育った世代ですから、捨てるなんて絶対に無理」と笑う横山さん。しゃれたデザインの包装紙をとっておいて封筒にしたり、お酒の空き瓶で乾物を保存したり、雨水をためて水やりをしたり、さまざまなものが、暮らしのなかで自然に循環しています。
でも、「義務感でやっているわけではないのよ。物を捨てずにとっておくのは、それが次にどう展開するかに期待しているから」といいます。
日常は、ささいなことの積み重ねで成り立っている
「こういう小さな工夫が、私にはとても楽しく思えるの。日常は、ささいなことの積み重ねで成り立っています。それを“雑用”と呼ぶ人もいるけれど、私は雑だとは思わないわ」
封筒を手づくりするのは、「もともと既製品が好きではなくて、何でも自分でつくりたいほうだから」。しゃれた柄の包装紙に型紙を当てて、「この柄をどう生かそうかしらって、思案する時間の楽しいことといったら」と、目を輝かせながら語ってくれます。
空き瓶を保存容器として再利用する理由も、密閉性が高くて、立てて並べられて便利なだけでなく、「瓶には、どこか風情があるでしょう?」と横山さん。そういわれてガラス越しに食材を眺めると、豆もごまも色や形が美しく見えて、大切に使おうという気持ちが自然にわいてきます。
庭づくりのポイントは、「庭と台所が一体になっていること」
庭には、たくさんの木々が植わっています。横山さんの庭づくりのポイントは、「庭と台所が一体になっていること」。梅、桜、桑、柏、柿、山椒、山葡萄、黒文字など、気がついたら、食べられるもの、食事に使えるものばかりになっていたそう。
山葡萄や柿の葉に料理をのせたり巻いたり、山椒の枝ですりこ木やようじをつくったりするのも、お手のものです。残った木屑は、茶香炉で焚いて香りを楽しんでいます。
そして台所の生ごみは、庭の木々の下に埋めて、コンポストに。暮らしと自然が、実にいい関係を保っているのです。
横山タカ子さんの10の知恵
1 植物は雨水が好き。雨水は、ためて、植物の水やりに。
家の玄関ポーチには、大きなかめがふたつ並んでいます。そこに雨水をためて、庭木の水やりに使っています。水道水には塩素が混ざっていて、植物によくないのだそう。
「そういうことは、子どものときに親から教わりました。畑の野菜はすべて雨水で育つんだ、雨水が好きなんだ、って」
雨どいに注ぎ口を付け、雨が降ると、それをかめのほうに向けて水をためる仕掛けは、横山さんの手づくり。庭木が多いので、たっぷりの雨水も、あっという間になくなります。
「雨水をためるのが無理なら、水道水を2日ほど汲み置きして、塩素をとばしてから使うといいですよ」
2 山椒の枝から、ようじと、すりこ木づくり。木屑は香炉で燃やして。
信州育ちの横山さんは、子どものころから樹木を身近に感じて育ちました。
「遠足でお弁当のお箸を忘れたときは、木の枝で手づくりしていましたね。土用の丑の日にはカヤの枝を取ってきて、それをお箸にしてそう麺を食べるのが、育った土地の慣わしでした。子ども心に、毎日こういうお箸で食べたいな、なんて思っていたわ」と、当時を懐かしみながら、庭の山椒の枝から、慣れた手つきですりこ木やようじをつくってみせてくれます。
残った木屑は香炉で焚いて、季節の香りを楽しみます。自然の香りに、心が安らぎます。
3 もらい物タオルは、染めて台ふきに。
お店の屋号が入った粗品のタオルが、あなたの家にもありませんか? 野暮ったくて使いたくない、という声をよく聞きますが、横山さんは、それを好みの色に染め、刺し子もして、素敵な手ふきや台ふきに生まれ変わらせています。
もともと大の染め物好きで、子どもたちが小さいころは、ランニングやTシャツ、運動靴なども染めていたそう。縫い物もお得意で、刺し子は、仕事で通う東京への新幹線の中でちくちくと縫ってしまうのだとか。
手ふき、台ふき、雑巾と使い下ろし、最後は玄関のたたきやポーチをふいて使いきります。
4 水を汚さないと決めて。洗い物は、廃油石けんと漁網だけで。
台所では、環境に負荷のかからない廃油石けんを使っています。これと漁網で、食器から換気扇にいたるまで、汚れをきれいさっぱり落とすのです。
故郷の生家の目の前には、北アルプスの雪解け水でできたきれいな小川があり、幼いころは、そこで顔を洗ったり、鍋を洗ったりしていたそう。
「光を浴びてきらきらと光る小川の美しさが、私にとっての水のイメージ。結婚して一主婦になったとき、水をできるだけ汚さないよう心に決めました。漁網は、スポンジよりもすすぎやすくて乾きやすく、清潔に使えます」
<撮影/本間 寛 取材・文/美濃越かおる>
横山タカ子(よこやま・たかこ)
料理研究家。生まれも育ちも長野県・長野市。長寿県・信州長野の食文化を家庭料理を通じて紹介し、地元の農産物を広める活動にも尽力。大の着物好きで、トップの写真は京都西陣のデニム着物。「洗濯機で洗えて普段着にいいのよ」
※トップの写真について
土地の露地野菜は自然からの贈り物。「食べきれない分は、漬物にしたり干し野菜にしたり、冬の保存食にします」。写真の干しなすは、皮と実を別々にして塩水にひたし、ざるに並べて3日干したもの
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです