• 2018年の年末に、東京・等々力での営業を終了した、家具と雑貨のお店「巣巣(すす)」。店主の岩崎朋子さんは、新しい場所で、新しいお店を現在準備中です。その場所とは、富山県立山町。この連載は、岩崎さんのお引越しのいろいろ、物件探しから、お店オープンまでのさまざまな出会いや出来事の日々の記録です。今回は、岩崎さんが16年営んだお店を閉めて、お引越しを決めるまでのお話を。

    はじめに

    この文章を書き始めた2020年3月下旬現在、富山県でも新型コロナ影響が出始めてきました。多くの方が日々の生活に大きな影響が出ている今の状況で、この連載を始めさせていただいていいのだろうかと、とても悩みました。移転後のお店自体も、予定通りオープンできるかどうかは非常に微妙な情勢です。そんなことも含めて率直にお伝えし、みなさんのおこもりのひと時に、読んでいただけたら幸いです。富山で出会った素敵なお店や、おすすめの場所など、富山の魅力もどんどん紹介していこうと思います。そして、新コロナ禍が終息し、のびのび旅行や外出ができるようになった時に、新しい巣巣にお立ち寄りいただけましたらば。それまで店を整えてNew巣巣でお待ちしています。

    お引越しを決めるまで

    世田谷の等々力で2003年に始めた家具と雑貨の店「巣巣」を一度閉めようと決心しました。2018年5月、ちょうど15周年を記念したイベントが一段落した時でした。

    34歳で始めた店を50歳でCLOSE。そう決心した理由はいろいろあります。

    一番大きな理由はなんとなく生活の環境を変えてみたくなったこと。世田谷での巣巣は月曜定休で、週6日営業。年末年始と夏休み、買い付けで海外に行く時以外はずっと店にいました。

    それは全く苦ではなく、日々巣巣を楽しんでそうしていたのですが、流石に一つの所に長くとどまり過ぎているのではという思いが出てきました。

    画像: インドネシアチークの古材のダイニングテーブル

    インドネシアチークの古材のダイニングテーブル

    長く続けていると経営的なほころびも少しずつあらわれてきました。16年弱の間に、自分自身にも社会にもいろいろ大きな出来事が起きるものです。リーマンショック、東日本大震災、突然の父の闘病と死、消費税増税。これは自分の力ではどうにもならない。と思ってしまうような事態に何度か直面し、くじけそうになったこともありましたが、「それが生きて行くということなのよ」と仕事でおつきあいのあった、少し年上の女性の経営者の方に言われたこともありました。

    店をスタートした当時は、今では信じられないくらい呑気にしていましたが、社会の変化に伴って、きちんと売上をあげるということに、次第に大きなエネルギーを必要とするようになってきました。世田谷はさすがに家賃もそれなりにかかり、月々のランニングコストが結構な額になります。

    50歳になるのを機に、この売上を伸ばすという、お店を続ける上では必要不可欠な大切なエネルギーを、何か新しいことのスタートに使えないだろうかと思ったのです。

    巣巣は、無垢材のオリジナルデザインの家具を、福井県や、中国、インドネシアなどの国内外の提携工房で製作・販売する店としてスタートしました。旅先で出会った雑貨、海外で作られたもの、作家さんの手作りの品なども徐々に取り扱うようになりました。わたし自身の“好き”が詰まった空間でした。

    オープン当初は、家族にだけ助けてもらっていましたが、続けて行くうちに次第にたくさんの人たちとのつながりができました。音楽のライブをしたり、ワークショップをしたり、作品展をしたり。来てくれた皆さんとともに、わたし自身が本当に楽しい時間をたくさん過ごすことができました。

    お店をオープンした時には意識していなかった、場と物を介した人とのつながり。心機一転して、その部分をもっと深めたいような気がしたのです。

    画像: インドのタラブックス「大きな木」展

    インドのタラブックス「大きな木」展

    取り扱っている無垢材の家具が、一人で扱うにはかなり重く感じるようになってきたというのも、閉店を決めた理由の一つです。

    遠方に住む母を訪ねる時間を、もう少し取りたいという思いもありました。

    そんないくつかの理由で閉店を思い立ち、思い立ったら吉日。2018年の年末にはお店をたたみ、その後1、2年ぐらいかけて、新しく挑戦することと、新しく店をオープンする場所を探してみようとスケジュールを決めました。できれば、この先また長く店として続けられるような環境を整えたいと考えました。等々力で店を続けながら、新しい物件探しと、閉店、移転、新規オープンを同時に進めるのは難しいなと思い、まずは閉店をすることに。

    自分の中では新しくまたお店を始めるつもりもあり、2018年の秋に大きなイベントが重なったことなどもあり、閉店の告知が閉店ひと月前と、あまりに直前になってしまって、みなさんをびっくりさせてしまいました。でもみなさんが暖かく見守って下さって、心の支えになりました。

    2018年のクリスマスイブ。毎年恒例の山田稔明さんのライブが等々力での巣巣の最後の営業となりました。わたしが参加しているバンド「草とten shoes」も役得で出演。イラストレーターの福田利之さんのライブペインティングもあり、友人たちが手伝いに駆けつけてくれて、お客さんもたくさん来てくれていっぱいの笑いでおしまいに。

    新しい場所でまたみんなと会えることを願って等々力での営業を終えました。


    画像: お引越しを決めるまで

    巣巣 岩崎 朋子(いわさき・ともこ)
    世田谷の等々力で「巣巣」という家具と雑貨の店16年営み閉店。現在富山県立山町に移住して新しい店を準備中。バンド「草とten shoes」リーダー。著書に「小さな巣をつくるように暮らすこと」(SBクリエイティブ)。

    <撮影/馬場わかな(プロフィール写真)>


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