• 二十四節気 処暑(8月23日~9月6日)
    日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
    白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。

    貝の記憶


    窓辺に
    貝がらを飾っている

    いつかの浜辺で
    いつまでも帰りたがらない
    きみが拾った貝がら

    過ぎ去った夏を
    ふり返ると
    どうして胸が痛むのだろう
    楽しかった記憶さえ
    遠く眺めれば
    ほろ苦いのはなぜ

    時の後ろ姿を見送るのは
    いつだって悲しい

    八月の名残りの
    光と影をまといながら
    時の行き先だけを見つめたなら
    この悲しみは運び去られ
    やがてどこかの浜辺に打ち寄せる

    なくした恋のあとかたも
    いつか真っ白い貝になって
    何の記憶からも遠く
    波打ち際に洗われていく
     

    季節の言葉:秋暑し

    残暑はよく聞く言葉ですが、秋暑しというのはあまり聞き慣れない言葉ではないでしょうか。

    暦の秋に入った今時分を、残暑とも秋暑しとも言いますが、秋なのに暑いと言うと、目線が少し先の涼しい季節を向いている感じがします。

    八月二十三日からはじまる処暑には、暑さがだんだん収まってくるという意味があります。本当かな? と首をかしげたくなる猛暑日もあるでしょうし、まだまだ残暑には気をつけなくてはなりませんが。

    また七十二候*では、八月二十三日から二十七日まで「綿柎開く(わたのはなしべひらく)」の候となります。綿の木の実がはじけて、コットンボールの白い繊維が顔を出すころ。ふわふわの雲のような植物の恵み。

    *七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2020年のものです。



    白井明大(しらい・あけひろ)
    詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。近著『歌声は贈りもの こどもと歌う春夏秋冬』(福音館書店)など著書多数。新刊に、静かな旧暦ブームを呼んだ30万部のベストセラー『日本の七十二候を楽しむ ー旧暦のある暮らしー 増補新装版』(KADOKAWA)。

    當麻 妙(とうま・たえ)
    写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)。写真集『Tamagawa』。
    http://tomatae.com/



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