• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、秋を感じる絵本を紹介します。
    画像: 「秋」を感じる絵本|ずっと絵本と。

    短くも暑かった夏が終わり、空気に秋を感じますね。今回は「小さい秋見つけた」。秋を感じる3冊です。

    『もりのてぶくろ』(八百板洋子 ぶん ナターリヤ・チャルーシナ え 福音館書店)

    画像: 丁寧に描かれた秋色の絵に、気持ちも落ち着きます。

    丁寧に描かれた秋色の絵に、気持ちも落ち着きます。

    しずかな森に、葉っぱが一枚おちています。

    黄色く色づいた葉っぱは、どこも欠けるところがなく、きれい。

    なんの葉っぱなのでしょうね。

    きのこのそばにある、赤い実、青い実も、いったい何の実なのでしょう。

    画像: 外国らしき森には、見慣れない植物も。

    外国らしき森には、見慣れない植物も。

    そこへ、ねずみがやってきて、葉っぱにそっと手を当てました。

    「ぼくのてより ずっと おおきいや」

    つぎにうさぎがやってきて、葉っぱに手を当てると

    「わたしのてより おおきいわ」

    こんなふうに次々と動物たちがやってきては、

    自分の手より大きいとか、小さいとか言いながら、比べています。

    画像: 動物たちがいきいきと描かれています。

    動物たちがいきいきと描かれています。

    最後にやってきたのは、おかあさんと男の子。

    そして男の子が葉っぱに手を当ててみると……。

    赤や黄色に色づいた、美しい葉っぱを見つけたら、ついつい拾ってみたくなるもの。

    今年は葉っぱのオブジェやブローチを作りたいと思っています。

    『きょうはそらにまるいつき』(荒井良二 作 偕成社)

    画像: どんな季節も満月は美しくうれしいものですが、とりわけ秋は、明るく大きく見えます。

    どんな季節も満月は美しくうれしいものですが、とりわけ秋は、明るく大きく見えます。

    「あかちゃんがそらをみています きょうは そらに まるい つき」

    バレエの練習が終わった女の子が見ている空にも、

    遠い遠い山で、遊び疲れたクマが見ている空にも、

    丸い月が浮かんでいます。

    画像: 男の子がスニーカーを買った帰り道にも、空には丸い月が。

    男の子がスニーカーを買った帰り道にも、空には丸い月が。

    猫たちが集まる野原にも、

    クジラが大きく跳ねた海にも、

    空の上では、お月さまがぽっかり。

    画像: 幻想的でノスタルジックな荒井良二さんの絵は、想像力をかきたてます。

    幻想的でノスタルジックな荒井良二さんの絵は、想像力をかきたてます。

    それぞれが、別々の場所で見上げている空の上には、

    おんなじ、まん丸のお月さま。

    それはまるで……。

    顔をあげて月を見る。そのひとときは、わたしたちが今日生きたことへの、祝福に満ちています。

    『名前のない人』(C・V・オールズバーグ/絵と文 村上春樹/訳 河出書房新社)

    画像: 目を見開いてスープを見ている男性は、いったい何者なのでしょう。

    目を見開いてスープを見ている男性は、いったい何者なのでしょう。

    夏から秋へと移り変わっていく頃が、お百姓のベイリーさんがいちばん好きな季節。

    口笛を吹きながら、いい気分で車を運転していたら、

    「どすん」

    こりゃ、大変だ、鹿をはねちまったぞ、と思ったら、なんと倒れていたのは鹿ではなく、人間の男ではありませんか。

    画像: 美しい秋の風景が、色彩豊かなパステル画で描かれます。

    美しい秋の風景が、色彩豊かなパステル画で描かれます。

    ベイリーさんは男の腕をとり、家に連れて帰り、医者に見せました。

    男は頭にこぶを作り、記憶を失っています。

    言葉も話せず、服の着方もわからず、スープの食べ方もわからない様子。

    名前のないその人はなんだか不思議な男でしたが、働き者で、動物たちに好かれ、子どもにも懐かれています。

    2週間経っても、名前のない人は、記憶が戻らず。

    でもベイリーさん一家は、それでもかまいませんでした。

    もう家族の一員のようになっていたからです。

    画像: 歌い踊るベイリーさん一家と、名前のない人。楽しそうです。

    歌い踊るベイリーさん一家と、名前のない人。楽しそうです。

    それからまたしばらく経つと、周囲の様子がおかしいことにベイリーさんは気がつきました。

    秋がすぐそこまで来ていたはずなのに、ちっとも季節が進まないのです。

    夏の陽気が続き、かぼちゃは見たことがないほど、大きく育っています。

    あるとき、名前のない人は丘にのぼり、北のほうを見て面食らいました。

    遠くのほうは、すっかり秋になっていたからです。

    その日の夕食どき、名前のない人は目に涙を浮かべています。

    この家を出て行くんだな、と気づくベイリーさん一家。

    名前のない人が、ベイリーさんの家を出て行くと……。

    この男がいったい何者だったのか、最後まではっきりとは明かされません。

    でも季節の移り変わりを担う、秋の使いのようなものなのかなと思いました。

    夏が終わり、秋がはじまるときのひゅうっとした寂しさと、豊かな実りへの期待とが入り混じった不思議な感覚に、ぴったりと寄り添ってくれる絵本です。



    画像: 『名前のない人』(C・V・オールズバーグ/絵と文 村上春樹/訳 河出書房新社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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