1年でいちばんといっていいほど、気持ちの良い日が続いています。風が強く吹く日もありますが、それはそれで、すべてが洗い流されるようで、気分が一新します。そこで今回は、「風」をテーマに3冊セレクトしました。
『ぞうくんのおおかぜさんぽ』
(なかのひろたか作・絵 福音館書店)
![画像: ぞうくんの鼻先にかめくんが。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/6e1925936ee283be915b522c001f0e38a5042306.jpg)
ぞうくんの鼻先にかめくんが。
大風が吹いて、ごきげんなぞうくん。
さっそく散歩に出かけることにしました。
途中、池の中にいるはずのかばくんに声をかけるものの、
かばくん、大風に吹かれてころがってしまったみたい。
向こうから飛んできました。
「ぞうくん とめて」
![画像: 受け止められるか!?](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/9e1ed1323beb5f3fdd1754e9854b7512b0241621.jpg)
受け止められるか!?
ぞうくん、かばくんをおして向かい風の中、散歩を続けます。
すると、今度はわにくんが。
「ぞうくん とめて」
ぞうくん、かばくんとわにくんをおして、散歩を続けます。
そして最後に向こうからやってきたのは……。
![画像: かめくん、ちいさいけれど、最後の一撃感あり。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/9f356363f1a51dd4e6ae2872380b82accce56b2c.jpg)
かめくん、ちいさいけれど、最後の一撃感あり。
風に吹かれて飛んでくるかばくん、わにくん、かめくんを受け止めるぞうくん。
くり返しのリズムは小気味よく、動物たちの目の動きはユーモアたっぷり。
風に向かってぐんぐん進んだその先は、爽快感でいっぱいです。
『かぜ』
(イブ・スパング・オルセン作 ひだに れいこ訳 亜紀書房)
![画像: ものが吹き飛ばされる中、風に向かうきょうだい。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/2befe260c049c7642a79356d59bbbad170f3eb27.jpg)
ものが吹き飛ばされる中、風に向かうきょうだい。
この絵本の主人公は、マチルダねえさんと、おとうとのマーチンです。
ふたりが原っぱで遊んでいると、すごい風が吹いてきました。
「風がどこからふいてくるか、みにいこう」とマチルダ。
「風のいきさきが しりたいな」とマーチン。風がマーチンの風船を吹き飛ばしてしまったからです。
飛んでいっちゃったものは、返ってこないというマチルダに従い、風にむかって、ふたりは歩き出しました。
![画像: バイバイ、風船。マーチンの手を引っ張って、足をふんばり歩いていくマチルダ。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/65527abcf1ed6c470bca6fb3275348cd370a674b.jpg)
バイバイ、風船。マーチンの手を引っ張って、足をふんばり歩いていくマチルダ。
「ねえ、おじさん、おばさん、風はすき?」
向かい風の中歩きながら、マチルダは道ゆく人にたずねます。
「こんな風、さいあくよ」
どうやらみんな、むかい風はきらいみたいです。
風に向かって、必死で翼を羽ばたかせていたツバメは、くるりと向きを変え、追い風に乗って、飛んでいきました。
「やっほー」と叫びながら、追い風に背を押されて歩く人も。
みんな、追い風は好きみたいです。
![画像: ツバメは気持ちよさそうに風に乗って飛んでいきます。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/f73b898ae423295d80641d06051f70bfc845de54.jpg)
ツバメは気持ちよさそうに風に乗って飛んでいきます。
いたずらな風、いじわるな風、やっかいな風、すずしい風、うれしい風、たのしい風。
風は変わらないのに、受け取り方によって、ずいぶん違うんですよね。
向かい風に立ち向かうのもよし、追い風に乗ってすいすい歩むもよし。
すべては自分次第なのよね、なんて思うのは、わたしが大人だからでしょうか。
このあと姉弟は、風がどこから吹いてくるのか、想像の翼を羽ばたかせます。
すがすがしくて、自由な風が吹いている、人生の深みものぞかせてくれる絵本です。
『かぜはどこへいくの』
(シャーロット=ゾロトウ作 ハワード=ノッツ絵 まつおか きょうこ訳 偕成社)
![画像: ちいさな男の子は、何を見ているのでしょうね。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/2c17118eebf2f1f71cdc13b632e6ad64849bae98.jpg)
ちいさな男の子は、何を見ているのでしょうね。
大きなお日様が朝からずっと空を照らしていましたが、ついに1日が終わろうとしています。
昼間がおしまいになることを、ちいさな男の子は残念に思いました。
夜、寝かしつけにきてくれたおかあさんに、男の子は聞きます。
「どうして、ひるは おしまいになって しまうの?」
するとおかあさんは、こう答えました。
「よるが はじめられるようによ。」
![画像: やさしいタッチの鉛筆画で描かれています。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/8ca262cff965f0d78f596e61068b608cb3077912.jpg)
やさしいタッチの鉛筆画で描かれています。
「おひさまはどこへ いっちゃうの?」
子どもの好奇心に満ちた問いかけに、べつのところを照らすのだとおかあさんは答えます。
「おしまいに なってしまうものは、なんにもないの。べつのばしょで、べつのかたちで はじまるだけのことなの。」
かぜは やんだら、どこへ いくの?
みちは みえなくなったら、どこへ いくの?
なみは、くだけてしまったあと、どこへ いくの?
![画像: たんぽぽのふわふわは、どこへ行くんでしょうね。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/27/3da0c159bab6ac5d65b18c197332e5c19b5812b8.jpg)
たんぽぽのふわふわは、どこへ行くんでしょうね。
この世界におしまいはなく、ぐるぐるぐるぐる続いていく。
季節も道も、風も波も。
終わりに見えても、別の場所ではじまっている。
子どもにとってそれは、不思議なことであると同時に、とても安心できることだと思うのです。
日々は不確かで、ともすると迷子になったような心もとなさを感じますが、この親子のやりとりには、温かさと確かな手触りがあります。
![画像: 『かぜはどこへいくの』 (シャーロット=ゾロトウ作 ハワード=ノッツ絵 まつおか きょうこ訳 偕成社)](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/05/30/ab498a9d8eae9511ecae76d369f0b42d7aa1092e.jpg)
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>