• 日本には心惹かれる器をつくる作家さんが大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。埼玉県北本市の、デザイナー一家が営む「gallery & cafe yaichi(ギャラリー&カフェ やいち)」は、そんな器屋のひとつ。生活道具をこよなく愛する店主、矢部さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    長年募らせた想いを、家族でカタチに

    ギャラリー内のあちこちに置かれているのは、時を深く刻み込んだアンティークの家具。そんな趣ある家具に溶け込むように、作家の作品や古道具が美しく陳列されています。埼玉県・北本市の「gallery & cafe yaichi(ギャラリー&カフェ やいち)」は、デザイナーでもある矢部龍治さんが、家族で営むギャラリーです。

    息子さんたちもデザイナーという矢部家は、まさにデザイナー一家。カフェを併設するギャラリーは、普通の民家を自分たちでデザインし、リノベ―ションしたものだといいます。

    画像: 2009年オープン。1階にギャラリーとカフェ、2階に矢部デザイン事務所がある

    2009年オープン。1階にギャラリーとカフェ、2階に矢部デザイン事務所がある

    画像: アンティークにも精通する矢部さん。ギャラリーでは古い器や家具、照明なども販売する

    アンティークにも精通する矢部さん。ギャラリーでは古い器や家具、照明なども販売する

    画像: 北本駅から徒歩1~2分と駅近だが、一本路地に入っているため静かな環境

    北本駅から徒歩1~2分と駅近だが、一本路地に入っているため静かな環境

    もともと矢部さんは、東京・青山などにデザイン事務所を構え、都内の百貨店やインテリアショップの売り場演出を手がけるVMDとして、30年ほど働かれていたのだそう。でもその当時感じていた違和感が、北本市でギャラリーを始めることへとつながりました。

    「売り場演出の仕事では、たとえば8月にもうクリスマスの準備をしたりとか、どうしても季節を先取りすることになります。家庭用品や食品売り場を担当していたのですが、生活に関わる仕事なのに季節感がないことに疑問を持ち始めて。自分としては、お野菜を無農薬で育てたり、お花も自分で育てたものを活けたい、季節の移り変わりを身近に感じられる場所で、生活と仕事が一体化するような暮らしをずっと思い描いていました」

    そうして、お子さんたちが大きくなったのを機に、もともと自宅があった、矢部さんの出身地である北本市にデザイン事務所を移すことに。さらに、かねてから地元でギャラリーを開きたいと考えていた矢部さんは、同じ建物内にギャラリーを開設。食べることも好きだったため、カフェを併設することとなりました。

    画像: 北本産のそば粉を使った「ガレットコンプレット」はカフェの名物。野菜は基本的に自分の畑で、家族で育てている無農薬野菜を使用

    北本産のそば粉を使った「ガレットコンプレット」はカフェの名物。野菜は基本的に自分の畑で、家族で育てている無農薬野菜を使用

    画像: カフェには茶釜があり、その湯でコーヒーやお茶を淹れている。漆喰造りのカウンターは内田鋼一さんが手がけたもの

    カフェには茶釜があり、その湯でコーヒーやお茶を淹れている。漆喰造りのカウンターは内田鋼一さんが手がけたもの

    画像: カフェでは、安藤雅信(あんどうまさのぶ)さん、岡田直人(おかだなおと)さん、大谷哲也(おおたにてつや)さんほか多数の人気作家さんの器を使用。使ってみたい器があれば、リクエストに応えてくれる

    カフェでは、安藤雅信(あんどうまさのぶ)さん、岡田直人(おかだなおと)さん、大谷哲也(おおたにてつや)さんほか多数の人気作家さんの器を使用。使ってみたい器があれば、リクエストに応えてくれる

    つくり手を映し出すような魅力あふれる器を

    そんな矢部さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。まずは、三重県四日市市で作陶する内田鋼一(うちだこういち)さんのボウルです。

    画像: 加彩という彩色を施した「加彩ボウル」は、独自の技法によるもの。内田鋼一さんは2018年度の日本陶磁協会賞を受賞した注目の作家

    加彩という彩色を施した「加彩ボウル」は、独自の技法によるもの。内田鋼一さんは2018年度の日本陶磁協会賞を受賞した注目の作家

    「まず、形が愛くるしい、手取りがいい。耐久性もすごく高いです。マルチボウルと呼ぶ人もいるくらいで、ご飯もよそえますし、飲み物でもなんでも和洋問わず使えます。お茶碗で使う場合は、少しサイズが大きめなので、山菜ごはんや栗ご飯みたいな炊き込みご飯なんかを盛るのにすごくいいですね。

    プリミティブな感じもあり、それには世界中を放浪されて各国で製作を行ってきたご経歴が反映されているように思います。手の温もりみたいなものもすごく感じますね。両手を添えて飲むと、包み込まれるような感じがして、そんなところも人気の秘密だと思います」

    画像: カフェでは「加彩ボウル」に、抹茶やカフェオレなどをいれて出しているのだそう

    カフェでは「加彩ボウル」に、抹茶やカフェオレなどをいれて出しているのだそう

    お次は、新潟県長岡市に工房を構える木工家、富井貴志(とみいたかし)さんのお皿です。

    画像: 木に色漆をかけた「色漆リム皿」。写真のものは白漆で、このほかに青、黄、赤、黒がある

    木に色漆をかけた「色漆リム皿」。写真のものは白漆で、このほかに青、黄、赤、黒がある

    「独特の質感で、すみずみまで美しいシンプルな形です。うちのカフェでは、このお皿にサラダを盛ってお出ししているんですが、皆さん手で持たれときにはじめて気づかれ、『木でできているんですか』と驚かれます。

    ものすごくタフで、金属のカトラリーでも使っていただきたいほど。ただ、もちろん金属のカトラリーを使えば傷跡は残ります。でもその傷跡も味としてご使用なさっているお客さまはすごく多く、富井さん自身も、傷を気にせず普段使われていらっしゃいます。うちでは200~300年ぐらい前の生活跡のかたまりのような古い木皿を取扱っていますが、富井さんも興味を持たれて、よく観察なさっています」

    最後は、栃木県益子町で作陶する宮澤有斗(みやざわゆうと)さんの鉢です。

    画像: 滋味深い「焼締の鉢」は、美しいフォルムで使い勝手も抜群

    滋味深い「焼締の鉢」は、美しいフォルムで使い勝手も抜群

    「宮澤さんは10年ほど前に大学を出られた若手作家さん。シンプルながら土の表情や特性を大切にした日用使いの器を中心に作陶されています。代表的な作品は焼締の土灰釉で、ほかにはシャープな銀彩の作品などもつくっていますが、焼締も銀彩も、ほかの方の作風とはまたひと味違っていますね。

    宮澤さんは、すごく気持ちのいい青年。こちらに出向いてもらって直接会って話をしながら、新しいものに挑戦してもらっています。店のオリジナルを手がけてくれるときは、サイズ感や手取り感などを話し合うと、すごくきっちりとサンプルをつくってくれます」

    矢部さんの作家さんを見つける機会はさまざま。旅したときや陶磁器の産地に出向いたとき、他所のギャラリーの展示会に足を運ぶことも多いそう。作家さんを選ぶときに大切にしていることをたずねると、次のように話してくれました。

    「物っていいますけど、結局は人ですのでね。つくったものに、その人が表れてくるというものが、やっぱり個性的に感じますので。そのうえで、実際に使ってみていいものを選ぶようにしています。併設のカフェで使ってみることで、高い使用頻度に耐えられるものであれば、お客さんにもお勧めしやすいですからね」

    画像: カフェで使われている内田鋼一さんの「加彩八角皿」。フォークは、金工家の長谷川まみ(はせがわまみ)さんのもの

    カフェで使われている内田鋼一さんの「加彩八角皿」。フォークは、金工家の長谷川まみ(はせがわまみ)さんのもの

    「やいち」では、作家さんにオリジナルの作品をつくってもらうことが多く、その際は、形やデザイン、サイズ感などを綿密に打ち合わせするのだとか。

    「VMDの仕事では、器などの商品のディスプレイもよくやっていました。多くの器に実際に触れてきたからこそ見えてきたものがあって、そのうえで自分がやりたいものがちゃんとあるのでね。それをいまこの店で反映しているところかなって気もします」

    そうやって作家さんと共同で、使い手のことを考えたオリジナルの器を積極的につくり出している矢部さん。さらに、取材中には、中学生の頃から骨董好きで骨董品を集めていたというエピソードも飛びだし、矢部さんの生活道具への愛は、生涯かけて温めてきたものだと知りました。

    北本駅へは新宿駅からも上野駅からも電車で約45分と、東京からのアクセスも便利。店主の器に込めた想いに触れに、ぜひ遊びに出かけてみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/矢部康平 取材・文/諸根文奈>

    gallery& cafe yaichi(ギャラリー&カフェ やいち)
    048-593-8188
    11:00~19:00
    月・第1火休み
    埼玉県北本市中央2-64
    電車:JR高崎線「北本駅」西口から徒歩1分
    www.yabedesign.com
    ◆長谷川まみ展を開催中(11月1日まで)
    ◆後藤義国展を開催予定(11月7日~11月15日)


    This article is a sponsored article by
    ''.