(『天然生活』2015年3月号掲載)
整理 → 収納 → 片づけ
「夜、寝る前、ぽっかりとできた時間。そんなときにできる、ちょっとした収納の段取りについて教えてください」
そう切り出すと、本多さんは、ちょっと困ったような申し訳なさそうな顔をして、いいました。
「うーん。少しの時間で収納に取り組むのは難しいですね……」
整理収納コンサルタントとして多くの人の家をさっぱり気持ちよく整えてきた、本多さおりさん。
数々の著書では、世の片づけ下手の女性たちの片づけモチベーションを、ぐいぐい上げてきました。
自身の住まいは、そんな整理収納テクニックの見本帖のよう。けっして広いとはいえない2Kの住まいを実に機能的に整え、すっきりと住みこなしています。
そんな本多さんの整理収納に対する考え方は、こうです。
「片づけというのは物を元あった場所に戻す単純作業で、人の習慣みたいなものなんです。その 片づけをスムーズにできるためにすること が収納です」
家にあるすべての物には、所定のしまい場所があります。それを本多さんは「物の住所」と表現しました。その住所を決めてあげるのが、収納の作業。
たとえば、台所。
引き出しがあり、吊り戸棚があり、食器棚があります。それぞれの場所に、ちょうどいい物をちょうどいい量に納めるためには、一度、持ち物を残らず出して、全体を把握すること。
そこから、よく使う “一軍” と、そうでもない “二軍” とに仕分けをします。
一軍は取り出しやすい場所に、二軍はちょっと奥や上段に、と定位置を決め、収納していくのです。
「だから、上の引き出しだけとか、限定した場所の収納作業をしても、あまり意味がないと思うんです」
引き出し一段の収納を整える段階で、余分な物や、その場所にあったほうがいいと思う物が出てくる。そうすると、別の場所から物の移動が必要に。
暮らしの道具類はあちこちに点在していると使いづらく、用途や形状、目的によってグループ化し、まとめて収納する。これが 収納の極意。
そうすると、おのずと作業範囲は台所全体に及んでくるというわけです。
「収納作業をするのならば、空間単位で一気にやってしまわないと」
短期作業に向いているのは出入りの多い物たち
ちょこちょこと、コツコツと。そんな構えで収納に立ち向かうのは無理ということが、話を聞くにつけ、わかってきました。
これは、カレンダーに「収納見直しの日」と大きく印をつけ、2~3日、腰を据えてやらないといけません。
じゃあ、夜の家仕事で家を整えるのはあきらめないといけないでしょうか? すると本多さん、一瞬の間をおいてからいいました。
「ちょこちょこと作業をするのは、“整理” が向いていますよ」
え? 整理って、収納と同じではないんですか?
「整理と収納、似た言葉のようで、全然違うと私は思います。整理は持ち物を取捨選択する作業。物を整理してから、収納場所を定め、そこに片づける。整理→収納→片づけという順番ですね」
本多さんが目指しているのは、片づけやすいよう物を納めること。その前の整理作業は絶対不可欠。ただ、いま持っている物を整理するには、やはり、すべて出して点検する作業が必要です。
ぜひ今度、まとまった時間をとって臨んでください。では、何を整理いたしましょう?
「新しく入ってくる物です」
手紙、書類、写真、食材、本、情報……そういった物は日々、増えていき、たまりがち。
それらを、ちょこちょこ、コツコツ整理していくことは、暮らしを気持ちよくしていくためにとても大切だと、本多さんはいいます。
お財布の中をパンパンに膨らませているレシート、捨てるに捨てられない手紙類、撮りっぱなしでPCに保存されていく写真データ……。放っておいたら、どんどん増えていきます。
それらを横目に「いつか整理しなければ」と、“もやもや” した気持ちを抱えてはいませんか?
そんな “もやもや” は、なによりも苦手だという本多さん。“もやもや” がある程度たまってきたら、スパッと整理して、すっきりした気持ちを味わうのだといいます。
「たとえばカードの請求書類など。届くたびに仕分けるのは、さすがに面倒。なので、“とりあえず” の箱に入れておきます。そして、“もやもや” が増殖してきたら、その箱を開け、いる・いらないで分け、必要なものはカテゴリー別のクリアファイルに仕分けです」
その作業は、いたって単純。頭を使わずできるので、没頭しやすい。黙々と作業をしているうちに、物理的にだけでなく、気持ちの “もやもや” がすうっと晴れていくような感じになるではありませんか。
さあ、皆さん。いざ、整理作業へ突入です。
本多さんが取り出したのは、一冊のノート。
A4より大きいサイズのノートは、ずいぶんと分厚く膨らんでいます。一ページごとに、手紙やはがき、カードが適当にレイアウトされて貼られていました。
「手紙って捨てられないですよね。この方法にたどり着くまでは、ずっと、箱にごそっと入れてしまっていました。でも、それだと、見ることはほとんどない」
なんかいい方法はないかな? そう思ったときに、この方法を思いついたのだといいます。
届いた便りは、とにかく貼る。
積み重なっていくだけだった手紙やはがきが一冊のノートにまとまることで、見返す機会が増えました。
引っ越しした友人の住所、おいしかった頂き物のお菓子の栞、親戚の子どもの年齢……。日々の暮らしのなかで流れていってしまいそうな小さな情報が一冊のノートにとどまり、出番を待っています。
人からもらった手紙によって、「あのとき自分はこうだった」「あんなことを感じていた」と思い出すこともでき、日記のような役目も果たしてくれるかもしれません。
手紙の整理を通じて、気持ちまで整えてくれるようです。
物を整理することで、心の淀みもなくなっていく
整理収納コンサルタントというと、部屋が片づくノウハウ重視と思われがちです。でも、本多さんが目指すのは、片づいた先にある、風通しのよい暮らしそのものです。
ごちゃごちゃして物が取り出しにくい引き出し、ギュウギュウに物が詰まりどこに何があるかわからない棚、いつも物が散乱している机……。
そんなありさまでは、暮らしの動線は滞り、“もやもや” はたまっていくばかり。
「何かしようとしたときに、“あれどこだっけ?” って、立ち止まるのが嫌なんです。思いついたら、即、行動に移したい」
だから本多さんは、今日もせっせと片づけます。そして、いらないと思ったものは潔く捨てる。
「この家はそんなに広くないし、収納も多くない。だからといって、しまい場所を増やすのではなく、家の広さに見合うだけの分量に持ち物を減らしました」
突きつめて考えると、暮らしていくうえで必要なものは、そうそうないと、引っ越しのときに気づいたといいます。
取材からの帰り道、本多さんは衝撃的なひと言を口にしました。
「多すぎる収納は人を不幸にするんですよ」
収納場所があれば、とりあえず使わないものも入れてしまう。奥にしまい込んでしまったら、なかなか使わなくなる。悪循環なのです。
高い家賃を、使わない物のために払っていることになってしまうんですよ、と肩をすくめます。
想像してみてください。家の中に、なくなって心底、困るものがどれほどありますか?
その程度のものなら、手放しても大丈夫。そんなことに思いをめぐらせながら、まずは、今日の夜、机の上の書類から整理してみませんか?
〈撮影/中島千絵美 構成・文/鈴木麻子(fika)〉
本多さおり(ほんだ・さおり)
整理収納コンサルタント。片づけがラクに続く収納の仕組みや、暮らしをラクにまわすための工夫を提案。新刊『暮らしをまわす ―ためず、まよわず、よどみなく―』(エクスナレッジ) amazonで見る が1月23日に発売。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです