![画像: 春の気分を味わう絵本3冊|ずっと絵本と。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/20704fe6bc22a0e2827a387bd0e41dc6cbf39bf1.jpg)
立春を迎え、暦の上では春。そこで今回は「春」をテーマにした3冊をセレクトしました。上着を脱いで、温かな日差しを感じられる日も、もうすぐです。
『はるがきた』
(ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 こみやゆう訳 主婦の友社)
![画像: 本書は、名作絵本『どろんこハリー』著者コンビによる作品です。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/09b1a2d7e1329ec81b5166b409c4e72cc2c219fd.jpg)
本書は、名作絵本『どろんこハリー』著者コンビによる作品です。
男の子の住んでいる町では、もうすぐ春です。
それなのに、街路樹は枯れたままだし、
春の兆しは見えません。
街角でもみんな、「春はまだかな?」
「早く春に来てほしい」
と口々に言います。
そのとき、男の子はいいことを思いつきました。
「まってなんか いないでさ、ぼくたちで まちを はるに しようよ!」
春にするって? どうしたらいいのでしょう?
![画像: 街が彩られていきますよ。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/a890ef55e4932019ab8c4b39b8e21af9d1b46613.jpg)
街が彩られていきますよ。
男の子のひとことで、街のみんなは
ペンキと刷毛を手に、絵を描きだしました。
壁にラッパスイセン、ヒナギク、タンポポが咲いていきます。
街じゅう、どこもかしこも、生まれ変わったように
明るく輝き出しましたが……。
![画像: 真っ黒な雲が、雨を運んできました。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/a46c81959b9ed695db92cffe26a2e8e76adca9db.jpg)
真っ黒な雲が、雨を運んできました。
みんなが寝ているあいだに、雨が降り続き、
せっかく描いた絵が、流されてしまいました。
雨が上がり、おそるおそる街に出てみると、
なんと、クロッカスが土から顔を出し、若葉もやわらかい葉を広げています。
この雨が、ほんとうの春をつれてきてくれたのです。
日本の古いカレンダー「二十四節気」では、立春のあとが「雨水」。
この時期、三寒四温でひと雨ごとに暖かくなる、なんて言いますよね。
季節の変わり目の雨は鬱陶しく感じることもありますが、
ここから春になるとわかっているから、
なんだか明るい気持ちにもなれます。
『いちご』
(荒井真紀作 小学館)
![画像: へたがぴんとして、果皮がつやつや。おいしいにちがいない。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/3db1ec0399fb8e518df69bd95a098e4d65b386fb.jpg)
へたがぴんとして、果皮がつやつや。おいしいにちがいない。
いちごのつぶつぶが、ぜんぶ種だということを
大人は知っているけれど、子どもは知らない子も多いのでは?
かくいうわたしも、知ったのはずいぶん大きくなってからで、
とても驚いたことを覚えています。
この絵本では、いちごが苗から育つようすを観察し、
詳細に描いています。
![画像: いちごの花は、のちのちいちごになることが納得のかわいさ。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/0f2a2650b2033ad614ea11a517288d4624535982.jpg)
いちごの花は、のちのちいちごになることが納得のかわいさ。
いちごの苗を植えるのは、秋。
王様のかんむりのような形をした苗の根元から出てきた葉っぱは、
冬のあいだは地面に張り付くような姿で、休眠します。
春になり、葉っぱがぐんぐん伸びて、
5枚の花びらをつけた花が咲き、散りました。
すると……。
花が咲いてから、およそひと月で、いちごが真っ赤に色づきました。
クリスマスケーキに欠かせないいちごですが、
春にかけてのいまが旬。
いちばん安くておいしい時期ですから、
いただかない手はありません。
![画像: いちごの断面図。とてもきれい。種が葉から養分をもらっていたことがよくわかります。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/df94ec78a2aa79e8170a3134a77bfd6e29f9767b.jpg)
いちごの断面図。とてもきれい。種が葉から養分をもらっていたことがよくわかります。
いちご、じつはプランターでも育てることができますよ。
秋に植えた苗がいったん休眠に入ると、
このまま枯れちゃうのでは、と心配になりますが
暖かくなるにつれ葉がぐんぐん生長し、
愛らしい白い花を咲かせて、いちごになっていくようすは、
見ているだけで、うれしくなるもの。
1本の苗からたくさんは収穫できませんが、
かえって、宝石のように大切なものに感じさせてくれます。
『ピンクとスノーじいさん』
(村上康成作・絵 徳間書店)
![画像: ピンクのひれが自慢です。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/938b0b83521cb2a82fd07a1533cf2effcbcc76c1.jpg)
ピンクのひれが自慢です。
この絵本の主人公、ヤマメのピンクは春に生まれました。
ヤマセミに襲われたりしながらも、
大好物のカゲロウを食べ、元気に楽しく過ごした夏を経て、
ついに、川には冬がやってきました。
自然界の厳しさがピンクをおそいます。
![画像: やっと見つけたごちそうを横取りされるピンク。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/f74b92d7543df9d5d6fa338f898a86861e5cef8c.jpg)
やっと見つけたごちそうを横取りされるピンク。
せっかく見つけたごちそうは、
自分より大きな魚に横取りされてしまいます。
しかしその魚も、もっと大きなイワナのスノーじいさんに……。
「いいか もうすぐ たべるものが なにも なくなるぞ。ふゆが きたんじゃ。」
と語るイワナのスノーじいさん。
「つらいぞ、ピンク、まつしか ないんじゃ、はるまでな。」
![画像: 黒い影が、ピンクを狙っています。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/c1ea5a8f7de0557aedc94db3d764171ab60227d4.jpg)
黒い影が、ピンクを狙っています。
体はこちこち、もう何日も何も食べていない。
春はまだ? とピンク。
体に力が入らないピンクは、イタチに襲われてしまいます。
そこへあの怖かったスノーじいさんが助けにきてくれて……。
ピンクはどうなる? スノーじいさんは?
はらはらしながらページをめくると、
ついに訪れる春。このくだりは圧巻です。
自然界の生き物たちにとって、春が来ることの喜びは、
さぞかし大きなものでしょう。
苦しい冬のあとには、必ず春がやってくる。
いろいろあるけど、つらいこともいいことも長くは続かない。
そんなことも巡る季節が教えてくれるようです。
そう、すてきな春が、もうすぐやってきます。
![画像: 『ピンクとスノーじいさん』 (村上康成作・絵 徳間書店)](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2021/02/18/97b111e073fbf718a521a26bc6d44c04c6fcddc7.jpg)
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>