※お店は2022年9月に移転。こちらの記事は、移転前に書かれたものです。
“想い”を伝える場をつくりたくて
器のオンラインショップのなかでもとびきりのセンスで魅了する「はれいろはれや」、覗いたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。その「はれいろはれや」が、2019年12月、東京の蔵前に、「deps.(デプス)」という名で実店舗として生まれ変わったのは、心躍るニュースでした。
以前は広告業界で働いていたという、店主の小島めぐみさん。仕事が多忙を極め、結婚を機に、やはり好きなことを仕事にしたいと強く思うようになったそう。そのとき頭に浮かんだのが、子どもの頃から好きだった器でした。仕事柄、オンラインに馴染みがあったため、まずはオンラインショップを立ち上げることに。

小島さんお気に入りのアンティークショップ「DOUGUYA」で揃えた棚やテーブルが並びます。西洋のものかと思いきや、意外にもすべて和家具なのだそう

注目の木工作家、北山栄太さんの作品も取り扱いあり。草木染めを施し、ガラスコーティングされた木の器は、洗練されつつも使い勝手がいい品です

「蔵前には、これぐらいの規模の特徴のある個人店が増えていて、その仲間入りができたらいいなと思って、この地を選びました」と小島さん

窓際を彩るのは、ガラス作家、津村里佳さんの花器。かわいらしくも美しいフォルムが秀逸です
それが前述のオンラインショップ「はれいろはれや」。器に料理を盛ったときのイメージを掲載できるようにしたいと、昔から憧れていたフードコーディネーターの資格をとったそう。すると、仕事が舞い込むようになり、一時はフードスタイリストの活動のほうに気持ちが向き、仕事の中心になっていたのだとか。
「オンラインは細々という状態でした。そんななかでも、作家さんとの関係性を深めていくと、作家さんの物づくりへの想いや、製作の背景、職人技の凄さなどを知ることになり、もっとしっかりと向き合いたいと思うようになって。そして、作家さんから見聞きしたことをお客さんに直接伝えられる場所が必要とも考えるようになりました」
そうして、念願の実店舗をオープン。器屋を活動のメインに据え、プライベートでは3歳のお子さんの育児に奮闘しながら、お店を切り盛りしています。

1点1点の美しさが引き立つ陳列。「ある程度、緊張感のある配置を意識しています」と小島さん

作家さんの展示は、2カ月に1回かそれ以上のペースで開催。こちらはアンティークな佇まいが素敵な、竹俣勇壱さんのカトラリー
五感を刺激する、自分に心地いい器を
そんな小島さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、岐阜県土岐市で作陶する村上雄一(むらかみゆういち)さんの茶器です。

朝顔の花をモチーフにした可憐なティーカップ「白磁朝顔カップ」と、揃いのソーサー
「村上さんはお茶が好きで、学生の頃、日本各地のお茶を飲み歩く旅をされていたそう。中国茶や台湾茶の茶道具も多く手掛け、向こうでも評価されて個展をやられていますね。陶器も磁器も両方やる方なんですが、お茶をいかにおいしく飲むかを大切にされ、陶器より磁器のほうがお茶の香りがくっきりと匂い立つというので、茶器は磁器でつくっていらっしゃいます。
カップもソーサーも朝顔に見立てたもの。あえて不純物を混ぜて、真っ白じゃないニュアンスのある白にされています。カップの縁に釉薬の流れがわずかにあるんですが、主張しすぎない、作家性を少し残してくれているような、そういう加減が上品でお上手な方ですね」

こちらは「白磁12角カップ」と、揃いのソーサー。12角といってもどこか柔らかく、上品さを纏います

ふたつのカップ&ソーサーを真上から。ゆらぎのある造形の美しさに魅了されます

こちらは村上さんの陶器の作品で、ファンの多いシリーズ。食洗機OKの丈夫さで、オーブンでも使えるものもあるのだとか(写真のものは耐熱)
お次は、佐賀県有田町で作陶する川口武亮(かわぐちたけりょう)さんの器です。

三島という技法でつくられた「碗」。灰釉による独特の色合いが、食卓に映えます
「川口さんは有田の生まれ。有田といえば有田焼で、磁器で絵付けですよね。それでも、川口さんは磁器ではなく陶器を選び、刷毛目や三島を中心に作陶されている珍しい方です。『有田焼の大量生産の現場を見ていて、自分は真逆の方に気持ちが動いた』とおっしゃっていました。
最近は灰釉のものを多くつくられています。灰釉とは草木の灰が主原料の釉薬で、川口さんはリンゴや藁、樫の木などで灰釉をつくっています。この『碗』の色合いもとてもきれいですよね。三島は普通、白い化粧土をかけるのですが、三島に灰釉を使っていて、すごく新鮮でした。いまは灯油窯に挑戦されていて、ひとつ一つかなり表情が違っていて、面白いです。
川口さんは、この器を『碗』と呼んでほしいそう。深さがあるので、茶碗としてだけでなくいろいろなものに使ってほしいですね」

鉢としても使いやすい形。お客さまの中には、「抹茶をたてるのにもよさそう」と言って買っていかれた方も
最後は、岐阜県瑞浪市で作陶する打田翠(うちだみどり)さんの花器です。

楽焼の手法でつくられた「花器」。形も表情もさまざまで、どれもはっとする美しさがあります
「打田さんは手びねりで作品をつくられていて、柔らかい曲線を出されます。『見ていて美しいものをつくりたい』とおっしゃっていて、少しアート的な物づくりをされていますね。
こちらの花器は、手びねりで成形した後、低温で焼成する楽焼という手法でつくられたもの。さらに粘土に金属粉を混ぜることで、こういう美しい表情になっています。ほかに『ランドスケープ』というシリーズも手掛けていらっしゃるんですが、空の景色や地層の遠景をイメージしたもので、そちらもすごく素敵です」
凛とした美しさを漂わせる器が多く並ぶ「deps.」。どのような基準で作家さんを選んでいるのでしょうか。
「店で扱うのは普段づかいの器ですが、美意識を強く感じる作家さんを選んでいるように思います。ラインの出し方や釉薬づかいが美しかったり、貫入があるもの、独特の風合いを感じさせるものなんかが好みですね。目で見る美しさや、質感の面白さなど、五感が楽しくなるというか、そこを大切にしています」

料理やお菓子づくりが好きで、器にも気を配るお母さまの影響で、自然と料理や器が好きになったのだそう
店の中をぐるりと見渡すと、一見違うタイプの作家さんの作品が隣り合わせに。たとえば、木工作家の北山栄太さんと川口武亮さんは、作風がまったく違いますが、不思議とおふたりの作品が調和し、共通項のようなものが感じとれます。それは、小島さんの一貫した美意識で、選びとっているからこそ。
最後に器をどう選んだらいいか、素敵なメッセージもいただきました。
「器を選ぶ際に、『実際に盛る料理が何品か思い浮かぶものを買うといい』というようなアドバイスも的確だとは思うのですが、私はたったひとつの目的のためだけに器を選んでもいいのかなと。たとえば、日曜の朝にあのハーブティーを入れてゆっくり飲みたい、そのためだけのマグカップがあってもいいなぁと思っていて。料理との相性もありますが、それより洋服のコーディネートをその日の気分で選ぶように、器も使ってもらえたら」
どう自分に心地よく響くか、それだけで器を選んでも大丈夫、そんなアドバイスのおかげで、これからは気負いなく器選びができそうです。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

<撮影/山川修一 取材・文/諸根文奈>
deps.(デプス)
03-6823-8807 ※問い合わせは、営業日営業時間内にお願いします
11:00~17:00
不定休(基本営業日は、木・金・土) ※営業日は公式HPにてご確認ください
東京都台東区三筋2-5-7 2F ※2022年9月に左記の住所に移転しています
最寄り駅:都営大江戸線・つくばエクスプレス「新御徒町駅」A4出口より徒歩5分、都営浅草線「蔵前駅」A0出口 より徒歩8分、都営大江戸線「蔵前駅」A5出口より徒歩8分
https://depstokyo.com/
https://shop.depstokyo.com/(ネットショップ)
◆梅本勇さんの個展を開催予定(3月27日~4月10日)
◆大森健司さん・降幡未来さん・鷲塚貴紀さんの三人展を開催予定(4月17日~4月24日)

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