• 「マギーズセンター」をご存じですか。ここは、がんの治療中の方やその家族、友人など「がんと共に生きる人」すべてが気軽に立ち寄って、相談できる場所です。東京・豊洲にある、日本では唯一のマギーズセンター「マギーズ東京」を訪ね、お話を伺いました。

    患者ではなく、一人の人間としていられる場所を

    マギーズは1996年、イギリスで生まれました。

    造園家のマギー・ジェンクスさんは47歳のときに患った乳がんを5年後に再発。診察室で医師から余命数ヶ月と告げられ、強い衝撃を受けたにもかかわらず、次の患者がいるためにその場にとどまることを許されなかったといいます。

    患者ではなく、一人の人間としていられる場所と、友人のような道案内がほしい

    そう願いながら1995年に亡くなったマギーさんの意思を継ぎ、1996年、夫のチャールズ・ジェンクスさんがエジンバラに「マギーズキャンサーケアリングセンター」を設立。多くの人々の共感を得て、いまではイギリスに20ヶ所以上のマギーズセンターがあり、世界にも広がっています。

    マギーズ東京はマギーズセンターの初めての日本版として2016年にオープン。年間のべ6,000人ほどの利用者が訪れています。

    天然生活4月号の「先輩からのバトン」では、共同代表で看護師の秋山正子さんと、心理士の栗原幸江さんにお話を伺いました。

    画像: 右・共同代表&センター長の秋山正子さん、左・心理士の栗原幸江さん

    右・共同代表&センター長の秋山正子さん、左・心理士の栗原幸江さん

    「時々、カフェと間違えて入ってくる人もいるんです」と秋山さんが話す通り、マギーズ東京の建物は、光がたっぷりと入り、木がふんだんに使われたくつろげる空間です。

    画像: マギーズ 東京は本館とアネックス館が木造の渡り廊下で繋がっているつくり。こちらはアネックス館

    マギーズ 東京は本館とアネックス館が木造の渡り廊下で繋がっているつくり。こちらはアネックス館

    実は世界中のマギーズセンターには、建築に関して以下のような共通のルールがあります。

    ・自然光が入って明るい。

    ・安全な(中)庭がある。

    ・空間はオープンである。

    ・執務室からすべてが見える。

    ・オープンキッチンがある。

    ・セラピー用の個室がある。

    ・暖炉がある。水槽がある。

    ・一人で泣ける広めのトイレがある。

    ・延べ面積は約280平方メートル程度。

    ・建築デザインは自由。

    これらは「相談したり、お茶を飲んだり、本を読んだりできる、第2の我が家のような場所がほしい」と考えたマギーさんが遺した「建築概要」です。

    マギーズ東京も、できる限り英国のマギーズセンターのコンセプトに沿った建築になっています。

    画像: 患者ではなく、一人の人間としていられる場所を
    画像: イギリス各地のマギーズセンターの建築を紹介した本” The Architecture of Hope: Maggie’s Cancer Caring Centres“

    イギリス各地のマギーズセンターの建築を紹介した本” The Architecture of Hope: Maggie’s Cancer Caring Centres“

    「私はそれまでも終末期ケアに携わってきましたが、ソフトウェア、つまり人材さえ充実していればいいと思っていた。イギリスのマギーズセンターを初めて見た時、建物や環境がこんなにも人の自己肯定感を高めるんだと知ったんです」と栗原さんは言います。

    訪れるのは、がんの治療中の方やその家族や友人たち、遺族、あるいは過去にがんを患った人たちなど。

    強いショックや悲しみに襲われ、一時期的に自分の力を失った人々が再び自分の力を取り戻せるよう、医師ではなく、秋山さんや栗原さんのような看護師や心理士が話を聞き、一緒に考えながら答えを探っていきます。

    画像: 室内は優しい色合いで統一されている。リラクセーション、ストレスマネジメントなどに関するグループプログラムを現在はオンラインで開催( http://maggiestokyo.org/calendar )

    室内は優しい色合いで統一されている。リラクセーション、ストレスマネジメントなどに関するグループプログラムを現在はオンラインで開催( http://maggiestokyo.org/calendar

    仕事をどのように続けていったらいいか。活用できる社会資源はないか。ストレスや悲しみへの対処法。

    そもそも心配ごとの根っこにあるものは何なのか。来訪者の話を聞き、必要な場合は一緒に情報を探しながら、その人自身が答えを見つけ、決められるように寄り添うのです。

    画像: 自由に手にとることができる書籍コーナー。来訪者は相談のほか、一人で本を読んだり考えごとをして過ごすことも可能

    自由に手にとることができる書籍コーナー。来訪者は相談のほか、一人で本を読んだり考えごとをして過ごすことも可能

    「これまで、日本ではあまり病を持つ人の“相談”ということが重視されてこなかった側面があります。でも、安心できる場所でリラックスして自分の思いや悩みを話すということは、実はとても大切なことなんです」と秋山さんは話します。

    年々利用者の数が増えているというマギーズ東京。心地よいと感じられる空間で、患者としてだけでなく、一人の人間としてどう生きていきたいかをじっくり考えられる。そんな場の大切さと必要性をひしひしと感じた取材でした。

    画像: 東京湾がすぐ目の前。建物の周りを植栽が取り囲み、季節ごとに育てている花が咲く

    東京湾がすぐ目の前。建物の周りを植栽が取り囲み、季節ごとに育てている花が咲く

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    マギーズ東京のウェブサイト
    https://maggiestokyo.org/

    *新型コロナウイルス対策として、現在はセンターへの来訪前に連絡をお願いしています。また、電話やメール、オンラインでもマギーズ東京の看護師・心理士とつながることができます。

     

    〈撮影/川村恵理 取材・文/嶌陽子〉



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