器で心穏やかになる時間を
1998年に表参道にオープンしてから20年以上、器好きから愛される「うつわ楓」。入居する建物が老朽化で取り壊しになるため、今年3月、南青山3丁目から南青山4丁目に引越しました。
新店舗は、情緒あふれる建物の1階部分で、かつて木桶を製作する作業場として使われていたそう。なかに入ると、畳敷きの小上がりがあり、周りを囲むガラス戸からは日差しが気持ちよく差し込みます。

風情あふれる外観。個展は、暑い時季を除き、月2回のペースで開催されています

前の店舗より、広さは3倍に。ゆったりと器選びができます

「お手持ちの器とあまり喧嘩しない、長く使っていただけるもの」という視点で選ばれた、落ち着きのある器が揃います

店主の島田洋子さん。上品ななかにも可愛らしさが垣間見える素敵な方です
若い頃から、器にとても惹かれたという島田さん。
「土物の器がなぜかすごく好きで、手の届くところに並べたり、触っているとほっとできたというか。母が料理好きで、庭の植物をちょっと取ってきてお皿に添えたりしてくれたんですが、目からおいしさが伝わってくるように感じていました。そういったことが、私の器好きに影響しているのかもしれません」

店内奥にもたくさんの器が並びます

下段に並ぶのは、加藤財さん、小山乃文彦さん、上野剛児さん、上田浩一さん、塩鶴るりこさん、松宮洋二さんによる急須。中央奥のしのぎが入った急須は、別名「財ポット」と呼ばれる、加藤さんの人気作品

常設時には、ランプシェード、花瓶、大壺、カトラリーなどが揃います
「『器によって心が穏やかになる』、そんな感覚をほかの方にも持っていただけたらと思ったのが、お店を持ちたいと考えるようになったきっかけで、それが30代始めの頃でした」
しかし、物件探しや資金の工面など開店準備に時間がかかり、ようやくオープンにこぎ着けたのが、40歳を過ぎた頃だったそう。それでもそれから後は順風満帆、20年以上も続く器の名店となりました。

店先には、小さなお庭が。青山通りの一本裏手の通りを、さらに脇道に少し入るので、都心とは思えない静けさが広がります

釉薬の濃淡が美しい「台形鉢」は、有田の作家、二井内覚さんによるもの
長く喜ばれる器を並べたくて
そんな島田さんに、いち押しの作家さんの作品をご紹介いただきました。
まずは、岐阜県多治見市で作陶する、菅野一美(かんのかつみ)さんの器です。

花びらのような口縁が愛らしい「掻き落とし花文鉢」。使っていくと次第に貫入が入り、味わいが増します
「菅野さんは、30代で独立するときに、さまざまな技法のある織部を中心に飴釉、灰釉の器をつくっていらしたそうですが、その後、中国の磁州窯の白と黒で表現された焼き物に惹かれて、これを自分の仕事にしていこうと思われたのだそうです。
試行錯誤しながら完成したものが、この掻き落としの器(白化粧の上に黒い絵具で模様を描いてから、引っ掻いて下の白い色を出していく技法)で、それを持って訪ねてくださったんです。白と黒のぱっきりした感じや、それでいてかわいすぎずシックなところに魅力を感じました。

手前から右回りに「掻き落とし牡丹文角小付け」「掻き落としぐい飲み」「掻き落とし高台杯」
『最初の頃と比べると器に描かれる動物の種類が増えていったり、表情がどんどん豊かになったりして、楽しい感じですよね』とご本人に伝えたら、『僕もそう思います』って(笑)。そんな気取らないお人柄や勉強熱心なところ、そして作品に惹かれました」
お次は、都内で制作されている、ガラス作家、田村悠(たむらゆう)さんの器です。

耐熱ガラスでできた「急須」と「カップ&ソーサー」。電子レンジでも蒸し器でも使用可能です
「田村さんは、酸素バーナーで熱を加えながら形をつくり上げていく『バーナーワーク』という方法で、器や照明、アクセサリーなどをつくっています。多摩美術大学で吹きガラスを学ばれたあと、化学実験の道具をつくる会社に就職し、そこで耐熱ガラスでできた精密機器の製作を習得されたそうです。
『何ccちょうど入る器がほしい』というお願いを形にしてくれたり、こだわりのある料理屋さんのお客さんがいて、そのお店がほしいものを、何度もやり取りしてつくり上げたりといったことを、面倒がらずにやってくださる方です。そういった細かな要望に応えられる技術をお持ちということでもありますね。

「急須の持ち手のところが、“あみあみ”になっていて、風が通るような感じが美しく、光が通ると影もすごくきれいなんですよね」と島田さん
カップは、高台の部分が急須とお揃いの“あみあみ”になっています。茶碗蒸しなど蒸しものの器としても使えるようにと、あえて持ち手をつけていないそう」
最後は、茨城県鹿嶋市で制作する塗師、小林慎二(こばやししんじ)さんの器です。

凛とした形と美しい塗りが魅力の「飯椀」。色は「赤」「黒」「赤溜(あかため)」の3色
「小林さんは赤木明登さんの2番弟子だった方で、14年前に独立され、そのときからのおつきあいです。漆の器は高価で、普段はしまっておくという方がまだまだ多いんですが、小林さんの器はシンプルで、ほかの器とも相性がいいですし、あまり構えないで使っていただけると思います。
漆は使うほどに艶が増すので、毎日使って育ててみてください。師匠の赤木さんがお直しを無料でされているのがきっかけで、小林さんも同じように無料でお直ししてくださいます。それもあって、普段使いでたくさん使っていただけるかと。
こちらは『飯椀』ですが、汁物を入れてももちろん大丈夫。横から見ると台形をしており、モダンな雰囲気がスープにも合います。このほかに『汁椀』、高台のないコロンとした形が可愛らしい『繭椀(まゆわん)』などがありますよ」
島田さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「お客さまと長くおつきあいするのに、売り切りではなくて、なるべく定番を持ちたいと思っているので、定番品をつくり続けていただける方ですね。『気に入ったので、買い足したい』『今度はプレゼントにしたい』といったお客さまの声がすごくうれしいですし、作家さんにもお伝えしています。
もうひとつは、たとえば、お話ししながら形を決めていくようなことを面白がってくださるような方ですね。作家さんの個性を壊さずに、ご自分なりのものをつくっていただいて、そこから話し合い、素材のできることやできないことも含めて、欲しい形に近づけていけたらと思っています。
でもその過程で、どうしても目線が狭まっちゃって私自身の好きなものに偏ったりするので、『こんなの面白いと思うんだけど、どうですか?』って、新しい気づきをもらったりできるのもありがたいです」

窓辺に、グリーンを挿したガラスの器が。「『器にもお水をはれば、花を楽しめますよ』という提案もしていきたい」と島田さん
「ワークショップなどはされていますか?」とたずねると、
「できれば私は器だけを紹介していきたいので、ワークショップなどはあえてしないんです」というお返事が。
そんな言葉からも、根っからの器好きなのが伺い知れました。作家さんと対話しながら、自分が欲しいもの、お客さんが望むものをと模索し続ける店主のこだわりが詰まった器に、ぜひ触れてみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
うつわ楓
03-3402-8110
12:00~19:00
月・火休み(個展会期中は火曜のみ休み) ※営業日は公式HPの営業日カレンダーにてご確認ください
東京都港区南青山4-17-1-1F
最寄り駅:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道駅」より徒歩7分、東京メトロ銀座線「外苑前駅」より徒歩7分
http://utsuwa-kaede.com/
https://www.instagram.com/utsuwakaede/
◆上田浩一さん・樋上純さんの二人展を開催予定(9月15日~9月20日)
◆上野剛児さんの個展を開催予定(10月13日~10月18日)

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