誰もが気軽に器を買える場所を
香川県高松市の田んぼや畑に囲まれた長閑な風景が広がるエリアに、「暮らすうつわ とうもん」はあります。
店主の植村れいこさんがセレクトするのは、ふだんの料理を盛りつけしやすい、使い勝手のいい器たち。そんな器選びと植村さんの実直なお人柄があいまって、お客さんから愛され続けるお店となっています。
以前は、会社勤めをし、技術職に就いていたという植村さん。器屋さんを始めたきっかけはなんだったのでしょうか。
「以前は奈良に住んでいたのですが、結婚を機に高松市に引っ越すことになったんです。『引っ越したら、器を揃えよう』と簡単に考えていたんですが、いざ引っ越してみると、ふらっと入って器を買えるような店がない。奈良にいた頃は、大阪や京都の器屋さんに気軽に立ち寄れたので、そのギャップに驚きました。高松市に限らず、地方都市ってどこもこういう感じなのかもしれないと思って」
ちょうど当時は、ネットショップが日本に生まれ始めた頃で、植村さんは、ネットショップなら田舎に住んでいる人でも気軽に器を買うことができるんじゃないかと考えました。そうして、ネットショップを始めるのに一役買ったのが、親戚の陶芸家の方の存在でした。
「親戚に陶芸家の人がいて、ちょうど引き出物用の器をつくってもらっていたんです。その延長という感じで、その方の作品を販売するところから、始めました。ありがたいことにほどなく完売したんですが、今度は売る物がなくなってしまって。陶芸の器は完成まで時間がかかるので、作家ひとりではだめだと思い、ひとり増やして、またもうひとり増やして、そうしていまに至ります」
20年以上続いているネットショップは、とても充実した内容で、ひとつ一つの作品を植村さんの言葉でていねいに紹介しているのが印象的です。「新しい器と出合ってほしい、こんな風に使ってもらえるといいかも」そんな植村さんの想いが詰まった文章は、器にさらなる愛着を感じさせてくれます。
買って後悔しない、使いこなせる器を
そんな植村さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、長野県上田市で作陶する、阿部春弥(あべ・はるや)さんの器です。
「阿部さんといえば、花の模様を施した陽刻(浮き彫りにした文様のこと)シリーズのイメージがありますよね。こちらは、一見シンプルな輪花のお皿。でも、釉薬の掛けムラで色の濃淡ができていて、とても表情豊か。1客ずつその表情も違い、そんなところが陶器ならではの魅力だなと思っています。
以前は、おもに白磁、黄磁、瑠璃の3色展開だったのですが、2、3年前に急にピンクもつくられるようになって。初めて見たのが阿部さんのSNSだったんですが、『ピンクだ~!』って衝撃を受けて。絶妙な色合いにすごく感動し、すぐさま阿部さんにお願いしました。
甘すぎないピンク色なので、意外といろいろな料理に合いますよ。私は、エスニックの料理や、魚のムニエルに付け合せのお野菜といったメニューにもよく使います。使うたびに撮影して写真を送ってくださるお客さんもいらっしゃるくらい、『こんな料理にも合いました!』というのをつい共有したくなる器だと思います」
お次は、香川県高松市で制作する、黒川登紀子(くろかわ・ときこ)さんの器です。
「黒川さんは地元のガラス作家さんです。出産後、ガラスの仕事は中断されていて、その頃にたまたま私が黒川さんのお住まいの近くに引っ越してきました。だから、最初はご近所さんとしてお付き合いしていたんです。お子さんが大きくなると活動を再開され、それから数年で、押しも押されもせぬ人気作家になりました。陰ながら応援してきたので、とても嬉しいです。
淡い色からヴィヴィットな色まで、実に多彩な色で作品づくりをするのも黒川さんならでは。新しいデザインだったり、新たな技術でつくったものなど、毎年ブームがあるようで、『今年はこんな感じでいきたい』と提案があり、年に1回新作を届けてくれます。
このマッシュルームのような形の『ぺたんコンポート』は、たしか昨年のブーム。お客さんたちは『きのこちゃん』と呼んでいます(笑)。普段は飾っておいて、いいお菓子をいただいたときなんかに出してきてコンポート皿として使うという方が多いですね」
最後は、京都府亀岡市で作陶する、黒木泰等(くろき・たいら)さんの器です。
「黒木さんのつくる飴釉の器は、見るたびに引き込まれるような本当に美しい飴色をしています。見込みのフラットなところは漆のような漆黒を感じさせ、そのほかのところは、とろけるような飴色に仕上がっていて。10年以上取り扱っていますが、ずっと変わらず美しいです。
『白釉スープボウル』は、個展に伺ったときに初めて拝見したんですが、飾りのような小さな持ち手がものすごくかわいくて、たちまち魅了されました。色はグレー味を帯びた白ですが、トマトベースのスープやかぼちゃのポタージュなんかの色の濃いスープを入れても、色がついたりしません。黒木さんの器は薄手のものが多くこちらもそうですが、欠けたりせず丈夫です。
黒木さんがつくる器は、端整で凛としていて、すごく上品。ご本人も、ひとつの事に真面目に向き合っている感じで、とても誠実な印象です。そんなお人柄が、作品にも表れているようですね」
植村さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「作家さんを選ぶというよりは、まず作品から入っていきます。『これ、すごくいい!』と感じる器があったら、どんな方がつくっていらっしゃるんだろうとなって。そして、その作家さんといい関係を築けていけそうか、相性のよさみたいなものが大切なポイントになります。
どんな器に惹かれるかというと、盛りたい料理がすぐに思いつく器ですね。お店で悩まれているお客さんにもよくお伝えするのですが、飾っておくだけでもいいというぐらいの強いパッションがあればもちろん買って正解だと思いますが、使いこなせるかという点で悩んでいるなら、料理が3つほどパッと思い浮かべば、買って後悔しないと思います」
お店のSNSには、お手製の料理が並ぶ食卓の写真が多数アップされているのですが、「盛りつけやすさ」を求め続けてきた植村さんの手によるだけに、どのおかずも器とピタリとはまり、とびきりおいしそう。盛りつけのセンスのよさもさすがのひと言で、とても参考になります。
お近くの方はぜひお店に足を運んで、遠方の方はネットショップを通して、その選び抜かれた器をどうぞ手に取ってみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/植村れいこ 取材・文/諸根文奈>
暮らすうつわ とうもん
087-843-0474
11:00~17:00
不定休
香川県高松市春日町682-3
最寄り駅:JR高徳線「木太町駅」から徒歩約20分、ことでんバス「春日川」下車徒歩約5分
http://www.toumon.com/
https://www.instagram.com/toumon/
◆田井将博さん(ガラス)・高島大樹さんの二人展を開催予定(11月3日~11月12日)