花のありように寄り添って生ける
今月の表紙は、フラワースタイリストの平井かずみさんによる、水仙の花しつらい。
特集の「小さな暮らし」をキーワードに、「暮らしを彩る 小さな花しつらい」を提案してくださったなかからの1枚。
生ける手間も小さいから、ふだんの暮らしのなかでも無理なく手軽に取り入れられるのが魅力の、小さくしつらえる草花のアイデアが満載です。
その撮影でのお話。
撮影にはいつも、なんとなくのイメージはもったうえで臨む平井さんですが、花は“生きもの”。
「あ、この角度がかわいらしい」と感じたなら、その花のありように寄り添って、花生けのスタイルは柔軟に変わっていきます。
花は、ちょっとした角度で表情が大きく変わるもの。
この表紙のカットも、「花の形がよく見えるように」と、はじめは真上から撮影の予定だったのですが……。
高い位置から見下ろしてみたり、しゃがんで真横から見たり、「この花の、一番素敵な表情を引き出したい」とさまざまなアングルから花を見つめるうちに、平井さんのイメージが徐々に、そして具体的になっていきます。
「真上でなく、少しだけ斜めから見ると、花の形もきれいに見えるし、中心の黄色い部分(副花冠)の立体感も出せそうですよね」
さっそくフォトグラファーの徳永彩さんが、ファインダーを注意深くのぞき込みながら、絶妙な位置を探っていきます。
「いかにも、な感じで斜めからは撮りたくないですよね」
「そうですよね。花の形は真上に近い感覚でほぼ完璧に見えて、黄色い部分のふわりとした立ち上がりを表せるように撮れると素敵なんですけれど……」
平井さんの描くイメージを、いつも的確な1枚で表現してくださる徳永さん。
試行錯誤を経て、撮影された会心の1枚が、こちらの表紙なのです。
花を一番素敵なかたちで、花が心地よく感じるように
さらに、平井さんのひらめきが光った1枚がこちら。
「小さな花束を贈るって、さりげない感謝を伝えられていいですよね」
ということで、野に咲く草花を束ねていただいたのですが、花器に見立てたボウルなどに入れて写真に撮ってみると、どうも、その“小ささ”が伝わらないのです。
茎をより短くしたり、角度を変えてみたりなどしたものの、どうしても“小さな可憐さ”が表せない……。
肉眼で見ると、たしかに小さいのに、写真になると、通常サイズのブーケに見えてしまいそう。
「何か、ひと目で大きさを表せるアイテムはないかしら?」
そう思い悩んでいると、「見つけた!」と平井さんが満面の笑みで持ってきたのが、ワイングラス。
「どんな人もサイズ感を知っているものだし、このささやかな感じが伝わるんじゃないかしら?」
そこに存在する花を、一番素敵なかたちで、何より花自身が心地よく感じるように。
日常の器を使う平井さんの花生けには、いつもハッとするようなアイデアが満ちあふれているのです。
=おまけ=
花は、どれもかわいらしくそれぞれの魅力があります。
今回の花の写真はどれも素敵なものばかりだったので、デザイナーと一緒にこんな遊びをしてみました。
みなさんのお好みの1枚、教えていただければうれしいです。
※ 平井かずみさんの記事「暮らしを彩る 小さな花しつらい」は、『天然生活』2023年2月号、P.6~12に掲載されています
<スタイリング/平井かずみ 撮影/徳永 彩 取材・文/福山雅美>
平井かずみ(ひらい・かずみ)
フラワースタイリスト。花の教室「木曜会」や全国でのワークショップを開催。2022年から新たな出会いの場として東京・恵比寿に「皓 SIROI」と名付けたアトリエをオープン。
https://www.hiraikazumi.com/
* * *