(安藤竜二・著『知って楽しむ ハチ暮らし入門』より)
刺すのはメスバチだけ
ハチであればどんなハチでも人間を刺すと思っていませんか?
この思いこみを覆すために、ハチの観察会などであるパフォーマンスをすることがあります。
巣箱のミツバチを1匹捕まえて口の中に入れ、もぐもぐして見せるのです。そして口を開けて元気にハチが出てきたら手に乗せ、丸いお尻を見せて、これが働きバチ(メスバチ)でなはなく、オスバチであることを明かします。
そして、オスバチは、針をもっていないから刺せないこと、もともとハチの針は、産卵するときに使う管であることを教えています。
ハチの針は産卵管が変化したもので、刺すのは「メスのハチだけ」です。
攻撃的なハチと、温厚なハチがいる
実は基本的には三種のハチしか、人を襲うことはありません。
それ以外のハチたちは触れない限り、もしくはわざわざ手でつかまない限り、ほぼ刺すことはありません。
それなのに「すべてのハチは人を襲う」という誤解がまかり通っているのは、悲しいことです。
人を襲う三種のハチとは、
・スズメバチ
・アシナガバチ
・ミツバチ
です。
ただしこれらのハチですら、ほとんどの場合、巣の近くでしか襲ってくることはありません。
花畑や花壇では、盛んにミツバチが飛び回っていますが人を襲うことはありませんよね。
これはスズメバチもアシナガバチも同じです。
家族を守るために巣に近づいてきた生き物を攻撃するのです。
ですから巣から離れた場所にいる働きハチは、触ったり追い払ったりさえしなければ、襲ってくることはないのです。
刺されやすい動き、服装がある
刺されないための最低条件は下の3点。
・巣に近づきすぎない
・巣の近くで早い動きをしない
・巣に振動を与えない
ただし「巣に近づきすぎない」という距離感は、ハチの種類やその日のハチの機嫌で変わりますから、一概に何mとは言いづらいです。
また、近頃は知られるようになりましたが、巣の近くでは「黒い服は刺されやすい」のも本当です。
たとえばミツバチ。
巣に近づくと威嚇バチが飛んで、甲高い羽音を立てて体にぶつかってきます。
そういう時、養蜂家は、ハチが嫌う髪の毛を手で覆うようにして、静かにゆっくり離れ、車の中などにいったん避難します。
しかし、たいていの一般の人は手で払って追い払おうとしてしまいます。
巣を守っているハチたちは「早い動き」が大嫌い。
手で追い払ったりすれば必ず刺されてしまいます。
今回はハチたちの「刺す/刺さない」性質にお話をしぼりましたが、ハチは、その生態さえ知っていれば何も恐れることはありません。
それなのに無下に駆除されてしまうハチたちのことを思うと胸が痛みます。
<撮影/安藤竜二>
安藤 竜二(あんどう・りゅうじ)
1964年生まれ。1983年より父のもと養蜂を学んだ後、1988年に日本ではじめての蜜ろうキャンドル製造に着手。「ハチ蜜の森キャンドル」を立ち上げ、営む。ハチ蜜の森キャンドル代表。アシナガバチ畑移住プロジェクト主宰。(公社)国土緑化推進機構認定「森の名手・名人」。山形県養蜂協会監事。著書に『手作りを楽しむ蜜ろう入門』(農山漁村文化協会)がある。
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