• 「ハチは刺すから怖い、見つけたらすぐ駆除」と思っていませんか? 実は、すべてのハチが人間を刺すわけでないのです。山形県の大朝日岳の山麓で祖父の代から養蜂業を営み、ハチの生態を知り尽くし、ハチをこよなく愛する安藤竜二さんに目からウロコの「ハチとの付き合い方」を教えていただきました。今回は、ハチに刺された時の対処法などを。
    (安藤竜二・著『知って楽しむ ハチ暮らし入門』より)

    刺された時の対処法を知っておく

    「もしハチに刺されたらどうするか」の対処法をあらかじめ知っていれば、不安になったり、慌てたりすることが少なくなります。

    刺されたらまず、身近な人にハチに刺されたことを必ず知らせましょう

    万が一「アナフィラキシーショック(ハチ毒などの原因物質が体内に入り、全身にアレルギー症状が起きること。重篤な場合は死に至ることもある)」による症状が起きると、刺されてまもなく意識を失う場合があります。

    ハチの刺傷と気づかれないままだと脳卒中や心臓疾患など、別の病気と間違えられてしまうからです。

    刺された場所に針が残っていたら、すぐにさっと手を横に払うようにして抜き取ります

    つまんで引き抜くと、針の毒袋から余計にハチ毒が注入されてしまうそうです。

    ただし、皮膚に針を残すハチはミツバチだけで、その毒はスズメバチと違って重症にはなりにくいとされています。

    毒が体内に入る量が多いほどダメージも大きくなります。

    刺されたところを流水で洗い流したり、市販のポイズンリムーバーを使ったりなどしてできるだけ毒を体外に出し、1時間ほど安静にして、アナフィラキシーによるアレルギー症状が出なければ、ひとまず安心です。

    あとは経過を観察してください。

    画像: 巣別れしたミツバチが巣の付近で乱舞するところ

    巣別れしたミツバチが巣の付近で乱舞するところ

    ハチの巣別れ群は刺さない

    初夏がミツバチの「巣別れ」の時期。

    「巣別れ」とは、ミツバチの群れの中に新女王バチが生まれる、あるいは生まれそうになると、古い女王バチは巣を明け渡し、群れの半分を連れて分蜂することです。

    群れの半数のハチたちが巣から飛び出して付近を乱舞し、そしてまもなく、近くの樹木の太い枝に蜂房(ほうぼう)となって固まり、一時的にぶら下がります。

    ミツバチの巣別れ群の駆除依頼が電話で入ると、まず「巣別れ群は刺さない」ことをよく伝えて安心してもらいます。

    巣に近づくとあんなに攻撃的なセイヨウミツバチも、巣別れの最中でまだ巣がない時は、強く触らない限り刺す気はありません。

    私は試しに、大きな蜂房の中に素手で静かに指を刺し込んでみたことがありますが、刺しませんでした。

    かのメーテルリンクは、巣別れのことを、「すべての仕事を放棄できる一年に一度のカーニバルだ」と表現しています。

    私は、セイヨウミツバチの人間に対するプレゼンテーションではないだろうかと思っています。

    大げさに飛び回り「刺さない私たちはここにいますが、捕まえませんか」と、アピールしているように思えるのです。

    そうして人間に飼われることによってセイヨウミツバチは世界中に分布を広げてきました。

    画像: セイヨウミツバチの巣別れ群。蜂房(ほうぼう)を作ったところ

    セイヨウミツバチの巣別れ群。蜂房(ほうぼう)を作ったところ

    行き過ぎたハチ駆除がまかり通る時代

    テレビやネット動画では、必要以上に蜂を恐ろしい悪者に仕立て上げ、大げさな駆除や、まるで武勇を誇るかのような撃退の様子が撮影されています。

    中には、エアガンや連発花火、自作の火炎放射器、高圧洗浄機などを使って小さな巣のスズメバチやアシナガバチを面白おかしく、かつ凄惨に駆除しているものまであり、逃げ惑い傷つくハチたちを見ていると、心が痛くなってしまいます。

    それに対抗して、私は負けじと、アシナガバチをレスキューし畑へ移住させる動画を公開していますが、地味な内容であることもあり、再生数は彼らのものにはるかに及びません。

    畑にアシナガバチを移住させる理由は、アシナガバチの幼虫の餌がイモムシ類だからです。

    無農薬の畑で活躍してもらうことで害虫を駆除する「益虫」として活躍してもらうのです。

    画像: アシナガバチを無農薬の畑に移住させるために、移設巣箱を畑に設置している

    アシナガバチを無農薬の畑に移住させるために、移設巣箱を畑に設置している

    ハチが悪者にされている理由は、「ハチに刺されると必ずアナフィラキシーショックを起こし、死んでしまうかもしれない」という間違った思い込みがベースにあると思います。

    時と場合に応じてですが、「ハチたちと人間とは必ず共生できる」ことを知っていただけたら、何よりうれしいです。

     


    <撮影/安藤竜二>

    画像: 撮影/渡辺和哉

    撮影/渡辺和哉

    安藤 竜二(あんどう・りゅうじ)

    1964年生まれ。1983年より父のもと養蜂を学んだ後、1988年に日本ではじめての蜜ろうキャンドル製造に着手。「ハチ蜜の森キャンドル」を立ち上げ、営む。ハチ蜜の森キャンドル代表。アシナガバチ畑移住プロジェクト主宰。(公社)国土緑化推進機構認定「森の名手・名人」。山形県養蜂協会監事。著書に『手作りを楽しむ蜜ろう入門』(農山漁村文化協会)がある。

    http://mitsurou.com/

    ※ ※ ※

    『知って楽しむ ハチ暮らし入門』(安藤 竜二・著/農文協)|amazon.co.jp

    『知って楽しむ ハチ暮らし入門』(安藤 竜二・著)

    『知って楽しむ ハチ暮らし入門』(安藤 竜二・著)

    amazon.co.jp



    This article is a sponsored article by
    ''.