(『天然生活』2020年2月号掲載)
今日の自分と向き合う朝の心地よいルーティン
香りの1煎目、味の2煎目、そしてようやく香りと味のバランスがととのう3煎目。杯を重ねるごとに、味わいを変えていく中国茶。その所作はなめらかで独特。まるで不思議な儀式のようです。
「基本さえ覚えてしまえば、手は自然に動きますよ。茶器は一煎ごとにきちんと温めるのがとても大事。茶葉は蒸れると持ち味が損なわれてしまうので、一煎ごとに軽くほぐして広げる、蓋碗(がいわん)から茶海(ちゃかい)に移してからそれぞれの茶杯に注ぐのは、濃さを均一にするため。理由がわかれば、中国茶の作法はまったく難しくはないんです」
武内さんのお茶時間は、朝。本格的に1日が始まる前の、静かなリセットの時間です。湯を沸かし、茶葉を入れ……いつもと同じ一連の動作を繰り返すからこそ、心の動きや体調、季節の移り変わりの小さな変化を読み取れます。
「何を飲みたくなるかで、季節や体調がわかりますね。疲れがたまっているときにはホッとする香りの烏龍茶が飲みたくなりますし、気温が下がってくると体が温まる紅茶が飲みたくなります」
杯を重ねるうちにすっきりとした気分になり、清々しく新しい1日が始まります。
おいしい「中国茶」の淹れ方
基本がわかれば、どのお茶もおいしく淹れられます。茶葉はおおよそ7煎ほど、変化を楽しみながら味わえます。
[台湾烏龍茶の場合]
材料(湯は1煎分、茶葉は木柵鉄観音7〜8煎分)
● 水 | 80mL |
● 茶葉(木柵鉄観音) | 3g |
淹れ方
1 茶器をすべて温め、注いだ湯はすてる。
2 茶葉を蓋碗に入れて、香りを楽しむ。
3 お湯を、蓋碗の側面に当てるように注ぎ、ふたをする。
4 10秒おいて、茶海に注ぐ。茶海から、茶杯に注ぐ。注ぎきったら、茶葉を茶通でほぐす。
5 2煎目以降はお湯を茶葉に当てて注ぐ。抽出時間は、2煎目は5秒、3煎目は10秒ほどで。
「中国茶」のための基本の道具
素焼きの道具はお茶の香りを吸ってしまうので、釉薬がかかったものか、磁器のものを使いましょう。
蓋碗(がいわん)
お茶を抽出するために使うもの。茶海に注ぐときはふたをずらして茶葉が入らないようにする。
お茶の色がわかる白がよい。湯のみ茶碗でも可。
茶海(ちゃかい)
お茶を茶杯に注ぐ際、濃淡を均一にするために使う。お茶の色がわかるよう、こちらも白が基本。
武内さんは伊藤環さん作のピッチャーを使用。
茶杯と茶托
村上躍さん作の茶杯は、内側が白く、色を楽しみながら味わえるのがお気に入り。
シンプルな黒漆の茶托はTEALABO.tオリジナル。
茶則(ちゃそく)
計量した茶葉を入れておく容器。蓋碗や急須に移しやすいよう、先が細くなっているものを用意する。
黒漆が塗られた茶則は小山剛さんの作。
茶通(ちゃつう)
茶則から蓋碗や急須に茶葉を移すときや、淹れ終わったあとに蒸れないよう、蓋碗に残った茶葉を均一にほぐすために使う。
鎌田奈穂さんの作。
土びん
とくに気温の低い冬は、保温性の高い土びんでお湯を沸かすのがおすすめ。
武内さんが愛用しているのは、水切れがいい市川孝さんの土びん。
冬におすすめのお茶
体を温めたいこの季節は、厳しい環境で育ったゆえに、滋養をしっかりと抱き込んだお茶を味わいたくなります。
烏龍茶
木柵鉄観音
台湾北部の文山地区で栽培されるお茶。素朴な味わいで食事のときのお茶におすすめ。
杯を進めるごとに味が変わるので、初心者も楽しめる。
烏龍茶
阿里山蜜香冬片
冬に摘まれるお茶は、春摘みに比べて濃厚な味。
台湾中央部の阿里山で、ゆっくり力を抱き込んで育った力強さが特徴。果実のような甘い香り。
<撮影/小禄慎一郎 取材・文/福山雅美>
武内由佳理(たけうち・ゆかり)
老舗日本茶専門店、料理家アシスタントを経て、2015年より台湾、中国、オリジナルブレンドティーを中心に「心と体を整えるお茶」を提案するTEALABO.tを主宰。2020年からお茶の淹れ方教室も予定。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです