(『天然生活』2022年11月号掲載)
旬の食材と発酵食を毎日の食事に取り入れて
季節の食材を使った昔ながらの和食、そして薬膳や発酵の知恵を伝えている山田奈美さん。編集者として忙しく働いていた20代のころは、生理不順や生理痛、体のだるさといった体の不調に悩まされていて、山田さん曰く「不定愁訴(ふていしゅうそ)のかたまり」だったそう。
「そんなときに薬膳に出合い、30代前半で食生活を一気に見直しました。畑仕事も始めるうちに、体調がよくなっていったんです」
以来ずっと不調知らず。50代を目前にしたほんの一時期、気分がふさいでしまい「更年期かも?
」と思ったことがありましたが、家族や周りの人に相談して無事に乗り切りました。
「そのことをきっかけに気功を始めたり、漢方茶の種類を増やしたりと、より自分の体と向き合うように。とはいえ、ずっと続けてきた食生活が基盤にあるので、体の調子がそれほど大きく崩れることはないだろう、という自信のようなものはありました」
山田さんがいまもずっと続けている食生活はお米中心の和食が土台。体を温める食材や旬の食材、発酵食を取り入れ、加工食品や添加物、砂糖はできるだけ控えるといったことを意識してきました。
「季節の食材には、その時季の体のトラブルを防ぐ働きがあります。人間の体は自然と一体になることで健康になれる、というのが薬膳の基本的な考え。難しく考えなくても、薬膳の知識がなくても、旬のものを食べて自然のリズムに沿うことが大事だと思っています」
もうひとつ、山田さんが大事にしているのが毎日を楽しく過ごすことです。
「長年続けている料理教室で、気のおけない人たちと手を動かしたりおしゃべりしたりするのがとっても楽しいんです。時間があるときに繕いものをするのも好き。無になって集中する時間も必要なのかな、と思います」
家族と一緒に食事をつくったり、季節ごとの保存食を仕込んだり、新しいおやつに挑戦したり。
日々の暮らしの営み一つひとつが、山田さんにとっての楽しみであり、日々をすこやかに過ごすための源になっているのです。
朝の味噌汁習慣
「薬膳では、朝は“排泄の時間”といわれています。味噌には排泄を促すと同時に血行をよくし、体を温めてくれる働きがあるんです。タンパク質も摂れるし、午前中の活動源になってくれます」
季節ごとの野菜を入れるので、飽きずに味わえるのも魅力。これにごはんと漬け物、納豆や梅干しをそえたものが山田家の朝食の基本です。
「食欲があまりないときは、味噌汁だけ飲むようにしています」
漢方茶をブレンド
十数種類常備している漢方茶の中から、その日の体調や気分に合わせて何種類かを選びます。
「血行を促進してくれる紅花は毎朝飲むので、そこにほかのお茶を加えます」
この日選んだのは、血行を促すサンザシやハイビスカス、そして気のめぐりをよくして精神を安定させるハマナスや陳皮。
「色がきれいだし、毎回組み合わせを変えるのも楽しい。効能にあまりとらわれすぎずに楽しんでいます」
薬味と発酵食で体を温める
毎日の食卓に登場する発酵食と薬味。
「発酵食は体を温めるだけでなく、消化力を上げてくれます。発酵調味料は塩麹だけだと飽きてしまうので、何種類かを常備。煮込み料理や炒めものなど、ほぼ毎食使っていますね」
しょうがやねぎ、にんにくなどの薬味は、体を温めると同時に、不要な水分や熱をとばす働きも。
「消化も助けてくれるので、タンパク質には必ず添えるようにしています」
食べすぎ、飲みすぎのときはリセット食
日々すこやかな食生活を送るなか、ときに食べすぎたり飲みすぎたりすることも。
「日々のベースがあるので多少羽目を外してもいいかな、と」。そんな日の翌日は、消化がいい山いもをすりおろしたものを食べて、胃を休めます。
「薬膳では山いもには気を補う働きもあるとされています。胃が重たく感じたり食欲のないときは、これだけを」
おかゆや梅肉エキスもリセットに活用しています。
頼りにしている健康の基本
ぬか漬け
山田さんが食生活を見直した30代のころ、初めてつくった発酵食。以来20年近く続けている。
「ぬか床を毎日かき混ぜ、季節の野菜などを漬けています」
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<撮影/ニシウラエイコ 取材・文/嶌 陽子>
山田奈美(やまだ・なみ)
薬膳・発酵料理家。「食べごと研究所」主宰。雑誌などで発酵食や薬膳レシピの提案や解説を行うほか、神奈川県・葉山の自宅で「和食薬膳教室」「発酵教室」などを開催。昔ながらの日本の食文化を継承する活動に取り組んでいる。著書に『菌とともに生きる 発酵暮らし』(家の光協会)、『二十四節気のお味噌汁』(WAVE出版)など。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです