お弁当の定番といえば「おにぎり」。だれにとっても楽しい思い出とともにあるおにぎりをおいしくつくる方法を「おにぎり 浅草宿六」の店主・三浦洋介さんに教えてもらいました。
(『天然生活』2022年4月号掲載)
おいしい“おにぎり”をつくるために
おにぎりのおいしさを決めるのは、米、塩、のりの3つ。その選び方を三浦さんに尋ねてみると、「何をおいしいと感じるかは、その人の好み。自分が好きな素材、炊き方で自由につくるおにぎりが、その家庭の味になると思います。気をつけたいのは、お米を計量カップのすりきりで量らないこと。米の粒の大きさで重さに違いが生じてしまうので、はかりで正確に米と水の重さを量るようにします」
にぎるときは、一度まな板の上においてざっくり形をまとめてから塩をつけると、強くにぎらなくても、ほどよい塩加減でふっくらした食感のおにぎりに。
「手でにぎると塩加減が均一にならず、場所によってばらつきが出ます。それが、おにぎりが飽きずにおいしく食べられる理由。表面の塩は、時間がたつとごはんに味がなじんでしまうので、お弁当用には少し塩を多めにすることで、冷めてもおいしく食べられますよ。ラップでにぎるときは、塩はごはんをのせる前にラップ全体に振りかけても、冷まして新しいラップに包む前に振りかけても」
炊き上がった米を一度まな板に広げるのは、粗熱を取るため。余計な水分を飛ばすことで、形をまとめやすくします。にぎるときのポイントはスピード感。リズミカルに3回ほど軽くにぎります。
「米は冷めるとおいしさが失われるだけでなく、米同士がくっつきにくくなるんです。炊きたてでにぎるからこそ、おいしくて見た目もきれいなおにぎりになります」
宿六に並ぶ具材には、そのまま酒のつまみになるような塩けや辛味が効いたものも多くあります。ちなみに、三浦さんが一番好きな具材は「塩辛」だそう。
「薄味で上品なものよりは、ストレートで素朴な味のもののほうが、おにぎりには合うと思います」
さて、今日はどんな具材でおにぎりをにぎってみましょうか。
おにぎり具材コレクション
定番ものから珍しいものまで、旬の具材にこだわる宿六のおすすめ具材を紹介します。
梅
おにぎりといえば、定番中の定番の具材、梅。なかでもやわらかい果肉とほどよい酸味の南高梅は、おにぎりとの相性が抜群。
さけ
宿六で一番人気の具材がさけ。1本丸ごと仕入れ、その日使う分を焼いた塩ざけはしっとりした食感とやさしい塩けで安定の味。
おかか
花かつおにしょうゆをまぶさずに、そのままごはんに混ぜるのが宿六流。かつお節の香りとうま味がそのまま味わえる。
紅しょうが
予想以上におにぎりによく合うのが紅しょうが。さっぱりとした酸味と鮮やかな赤の色合いは、外国人観光客にも人気の具材。
しいたけ昆布
しいたけと昆布のうま味を甘く炊き上げたしいたけ昆布の佃煮。おにぎりの塩けとしいたけ昆布の甘味の組み合わせがあとをひく。
葉とうがらし
苦味のある葉とうがらしを甘辛く煮た佃煮。シンプルなおにぎりの味にほどよいアクセントとなって、食欲を刺激する味わいに。
牛青菜
山形牛のそぼろと、山形の伝統野菜でつくる青菜(せいさい)漬けの生ふりかけ。そぼろの甘味と青菜の苦味が米の味を引き立てる。
塩紫漬
しその実ときゅうりの漬物のみじん切りをあえた塩紫漬。さっぱりした味わいと塩け、しその実のプチプチとした食感が楽しめる。
しょうが味噌
スライスしたしょうがを味噌で漬けたしょうが味噌。味噌の甘味でしょうがの辛味がやわらぎ、歯ごたえのある具材に。
お米の炊き方のコツ
米はやさしく水にさらす
米は水にさらして軽く混ぜ、すぐざるにあげて15分ほどおく。米がやわらかくなりすぎないよう1時間以上浸水をしないようにする。
米も水もきちんと計量する
米の“容積”ではなく“重さ”を正確に量り、その1.2倍の量の水で炊く。たとえば、米1合150gの場合は水180g。
炊き上がりはほぐす程度に
炊き上がったらすぐに全体をほぐす。別のボウルなどにうつすと、自然とほぐれる。米の粒をつぶさないよう、混ぜすぎないこと。
おいしさの決め手
米
米は自分好みの味で選ぶのが正解。宿六では、毎年新米の時季に20~30種類を食べ比べて決める。現在は新潟産コシヒカリを使用。
塩
米と同じで塩も自分好みでOK。満遍なく塩をつけたいならパウダー状のものを、まろやかな味が好みなら焼き塩を使うのもあり。
のり
宿六で使っているのは、東京湾でとれた千葉県産の江戸前のり。香り立つ風味とパリッとした食感がおにぎりの味を引き立ててくれる。
おにぎりいろいろQ&A
知っているようで知らなかったおいしいおにぎりのヒミツ。
Q なぜ熱いうちににぎるの?
A 軽い力でもにぎれるから
炊きたての米の表面には水分が残っていて、それが米同士をくっつける役目を果たします。米が熱いうちなら、力を込めずに軽く押さえるようににぎるだけで、おにぎりがしっかりとまとまって、ふんわりとつくれます。
Q 塩にぎりってどうつくる?
A 具となる塩玉をつくります
塩と米だけのシンプルな塩にぎり。シンプルさがもの足りないというときは、2~3cmの小さなごはんの玉をつくってその表面に塩をまぶした「塩玉」を具材のようにしてにぎります。周囲の米の部分と塩玉で、味に変化が出ます。
Q 素手でにぎってもいいの?
A お弁当ならラップを使って
つくってから時間がたって食べるお弁当は、傷みが気になるもの。きれいに洗った手でにぎっても、消費期限は5時間ほどが目安。常温で長時間持ち歩くお弁当のおにぎりは、念のためラップを使うようにしましょう。
Q お弁当に持ち歩くときの注意点は?
A 冷ましてから再度ラップを
おにぎりをラップでにぎったままにしておくと、蒸気がこもって傷む原因になるだけでなく、おにぎりもベチャベチャになってしまいます。にぎるときに使ったラップははずして、冷ましてから新しいラップで包むようにしましょう。
Q ごはんを冷凍するときは?
A 食べる量ずつ最初に分けてから冷凍を
ごはんは、温度が10℃以下から味が変質しやすくなります。鮮度と味をキープするには、粗熱を取ったらすぐに冷凍すること。冷凍するときは、1回に食べる分ずつ小分けして、使うときに電子レンジで解凍するか蒸すことでおいしくいただけます。
Q なぜいろいろな形があるの?
A 地域性が関係しているかも?
おにぎりの形は地域によってさまざま。関東地方は三角形が一般的ですが、関西や九州では俵型が主流です。これはおにぎりに小さな味付けのりを巻くことが多いから。北の地域では平べったい円盤型のおにぎりもよく見られます。
おにぎり 浅草宿六
住所:東京都台東区浅草3-9-10
営業時間:昼11:30〜夜17:00~ ※それぞれごはんがなくなり次第終了
定休日:日曜、火曜・水曜の夜
<監修/三浦洋介 撮影/山川修一 取材・文/工藤千秋>
三浦洋介(みうら・ようすけ)
東京で一番古い、老舗のおにぎり専門店「おにぎり 浅草宿六」店主。30歳のときに宿六を継ぎ、三代目店主となる。おにぎりワークショップを開催するなど、その魅力を国内外へ積極的に発信中。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです