今日食べたもので、明日のあなたがつくられる。生物学者・福岡伸一さんと料理研究家・松田美智子さんが考える、理想のレシピを紹介します。今回は春においしさが増すあさりを使った「あさりとじゃがいものタイ風炒め」のつくり方。食材とレシピについての福岡さんの解説もお届けします。
(『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』より)
春においしさが増す「あさり」
産卵期をむかえて、おいしさの増す春のあさりを用い、「あさりとじゃがいものタイ風いため」をつくります。
味付けにはナンプラーを使います。ナンプラーは、タイ料理に欠かせない調味料で、近海の小魚を塩蔵して発酵させた上澄み液、いわゆる「魚醤」の一種です。
小魚の内臓に含まれる酵素がタンパク質を分解することでアミノ酸が形成され、塩気だけでなくうま味を伴います。独特の風味が、あさりのうま味をより、引き立ててくれるのです。
色の薄い物ほど上質とされ、和食との相性もよくなります。レシピに目安の分量を記していますが、種類によって塩分濃度が異なるため、最初は控えめに入れ、味見をしてください。ナンプラー独特の風味が、あさりのうま味をいっそう引き出すと同時に、塩分を補ってくれます。
うま味を加えることが、結果として塩分を控えることにつながるのです。
ナンプラーとの相性が抜群。「あさりとじゃがいものタイ風炒め」のつくり方
材料
● あさり(大きめ) | 500g |
● A | |
・にんにくの千切り | 大さじ1 |
・ごま油 | 大さじ1 |
● レモングラス | 3本を小口切り(約大さじ1) |
● じゃがいも | 2個(皮をむき厚さ7mmの一口大に。水にさらしてでんぷんを抜いておく) |
● チキンスープ | 1カップ |
● バジル | 1茎 |
● 白ワイン | 大さじ2 |
● ナンプラー | 大さじ1~1と2分の1 |
● 玉ネギ | 中1個(皮をむき縦半分に切り1cm幅に) |
● ミニトマト | 6個( ヘタを取り縦半分に) |
● ピーマン | 1個(縦半分に切り、芯、種、わたを除き、長さ5cm幅7mm幅に) |
● 白コショウ | 少々 |
つくり方
1 あさりの砂を吐かせ、殻をこすり合わせて洗い水気を切る。
2 中華鍋にAを合わせて中火にかけ、香りが立ってきたらレモングラスを加える。これにあさりを入れて炒め、水気を切ったじゃがいもを加える。
3 チキンスープ、バジル・白ワインの順に加えたら蓋をする。あさりの殻が開き、じゃがいもに火が通ったら、ナンプラーを味を見ながら加える。玉ネギとミニトマトを加え、さっと火を通す。
4 最後にピーマンを加えて火を止め、味を見て白コショウで調味する。
福岡memo
コハク酸があさりの特徴! うま味成分の代表格
あさりの旬は春先3月から4月である。初夏の産卵に備えて身の部分にしっかりと栄養を蓄積しはじめる時期。あさりにはオスとメスがあり、夏前、海水温が高くなるとそれぞれ卵子と精子を放出する。
両者は水中で受精、あさりの赤ちゃんが生まれる。その前にいただいてしまうのだからまずは感謝が必要、資源の保護のための計画漁業も必要となる。
あさり独特の海の風味はコハク酸による。化学的に見るとコハク酸はジカルボン酸という物質で、昆布だしのグルタミン酸と同じ仲間のうま味成分である。砂抜きの際、蜂蜜を数滴垂らしておくと、コハク酸がさらに合成されうま味が増す(コハク酸は糖からつくられる)。
本記事は『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』(日刊現代)からの抜粋です
福岡伸一(ふくおかしんいち)
米国ハーバード大学研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学総合文化政策学部教授。分子生物学専攻。専門分野で論文を発表するかたわら、一般向け著作・翻訳も手がける。2007年に発表した『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)は、サントリー学芸賞、および中央公論新書大賞を受賞し、67万部を超えるベストセラーとなる。ほか『動的平衡』(木楽舎)など著書多数。2024年1月に松田美智子さんとの共著『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』(日刊現代)を発売。
松田美智子(まつだみちこ)
料理研究家、日本雑穀協会理事、テーブルコーディネーター、女子美術大学講師。ホルトハウス房子に師事し、各国の家庭料理、日本料理、中国料理など幅広く学ぶ。1993年より「松田美智子料理教室」を主宰。季節感を大切にした、美しくつくりやすい料理を心がける。2008年、使い手の立場から本当に必要なものを考えて開発した調理道具、食器のプライベートブランド「自在道具」を立ち上げる。『季節の仕事(天然生活の本)』(扶桑社)、『家庭料理は郷土料理から始まります。』(平凡社)など著書多数。
◇ ◇ ◇
ベストセラー『動的平衡』の著者・福岡伸一さんと、第一線の料理研究家・松田美智子さんのによる画期的な「食」のコラボレーションが1冊にまとまりました。
前半部では福岡さんが「動的平衡」についてわかりやすく解き明かしながら、人間にとっての「食」の意味、理想の「食」のあり方を生物学的観点から解説。後半部では、福岡さんの主張を踏まえながら、松田さんが「理想のレシピ」を紹介。そのレシピ、食材について福岡さんがくわしく解説しています。