知ると器選びが楽しくなる! 器の基礎知識
作家ものの魅力とは?
「メーカーものの器は、“どんな人でも使いやすいもの”を前提に、大部分を機械で製造したもの。それに対し、作家がつくる器は、“作家もの”と呼ばれ、作家それぞれが独自の作風を生みだそうと試行錯誤したものです。ほとんどの工程を多くは作家さんおひとりで行い、手作業で制作されています。
どんな作品を目指すかによって、まずは土や釉薬を選びます。土でいうと、自分で掘った土を使う方も。また、成形の仕方から、どんな窯でどう焼くかまで、全工程を吟味されます」
「器にその人らしさが色濃く反映されるので、料理を盛りつけると温度を感じられるというか。一度作家ものを使うと、メーカーものとの違いを感じるはずです。そして、“この違いは一体どこから?”などと考えを巡らすうちに、“器沼”にハマっていくと思いますよ」
器には、陶器、磁器、半磁器があります
「陶器は、原料が陶土(=粘土)で、磁器にくらべて低い温度で焼かれたもの。ぽってりと厚みがあり、やわらかな印象で、“土もの”と呼ばれます。使われる土や釉薬によって、多彩な色が楽しめるのも特徴ですね。使ううちに色味や質感が変わり、経年変化を楽しめるものもあります。
磁器の原料は、陶石(石の一種)を粉砕したもので、1,300~1,400℃の高温で焼かれます。ガラス質を多く含むため、陶器よりも丈夫ですね。また、磁器は吸水性がほぼ0%であるため、油染みや色移りなどの心配がなく、初心者でも扱いやすいです。
半磁器は、陶器と磁器の原料を混ぜてつくられたもので、両方の性質を併せ持っています」
種類さまざま。お気に入りを見つけて
「器は、成形方法や装飾技法、絵付けや釉薬の種類などに違いがあり、その違いで名前がつけられています。ほんの一部ですが、代表的なものをご紹介しますね」
粉引(こひき)
「粉引は朝鮮半島生まれ。白磁(白い磁器の器)への憧れから生み出されたもので、赤い土に白い化粧土をかけ、さらに透明の釉薬をかけた後に焼成してつくる陶器です。土、化粧土、釉薬の3層構造で、間に入った水分や油分により、少しずつ表情を変えていきます。
使うにつれて器が表情を変えることを“器が育つ”といいますが、それが顕著に見られる器ですね」
三島(みしま)
「三島は、装飾技法のひとつ。成形した後に、印花といって型押しで文様をつけたり、線彫りなどを施します。そこに白い化粧土をかけ拭き取ることで、白い文様をつける技法です」
織部(おりべ)
「織部は、美濃地方で桃山時代に、千利休の弟子・古田織部の指導でつくられた陶器です。青緑の釉薬を使った織部がよく知られ、釉薬を器全体にかけたもののほか、写真のように部分的に釉薬をかけ、絵を施したものもあります」
焼締(やきしめ)
「釉薬をかけずに、高温で焼き締めた陶器です。備前焼が有名ですね。薪の窯で焼かれた器は、薪の灰がかかり溶けて釉薬のようになっているのが見られることもあります。写真の徳利の胴の部分は、貝をのせて焼いてできたものです」
染付(そめつけ)
「白色の素地に、呉須(ごす)と呼ばれる青色の顔料で絵付けし、透明な釉薬をかけて焼いた磁器です。作家さんによって描くモチーフや筆づかいに個性があります。
白と青で構成される染付の器が食卓に加わると、きりりと引き締まりますね。夏に、ガラスや竹素材のものと合わせると、涼やかな風が吹くようです」
色絵(いろえ)
「別名を赤絵(あかえ)といい、色絵の具で絵や文様を描いたもの。さきほどの染付と違い、透明な釉薬をかけて焼いた後に、絵付けをします。これを上絵(うわえ)といい、染付はそれに対し下絵(したえ)。触ると、絵の具が盛り上がっているのがわかりますよ」
白磁(はくじ)
「白い地に透明な釉薬をかけて焼いたもので、絵や文様が描かれない真っ白な磁器です。古く朝鮮、中国で、珍重されたのだとか。時を経たいまの時代でも、お正月の食卓で漆器と合わせると、背筋が伸びる思いがします」
器選びのコツ
いい器に、基準はありますか?
「人それぞれ、生活やお食事の仕方が違うので、“絶対いい”という基準はありません。ただ、たくさん器があるなかで、最初に目に止まったり、つい手に取ったものが、自分にとっていい器なことは多いかと。“なぜか惹かれた”、その直感を大切にされるといいと思います。
また、見たときに、盛り付けたい食べ物や、飲みたい物が思い浮かぶ器なら、持ち帰ったときに、無理なくすんなり使えると思います」
最初に手に入れるなら、どれがおすすめ?
「自分にとって毎日使う器がいいと思います。ひと昔前は、それがめし碗でしたが、いまではご飯を毎日食べないという方もいますよね。近ごろは、一番よく使うのはマグカップという方が多いかもしれません」
「また、初めて買う器は、白はいかがでしょうか? 洋服などと同じで、白の器はどんな料理も受け止めてくれますし、手持ちの器とも合わせやすい。白といっても、色味や質感などのニュアンスが全然違うので、選ぶ醍醐味もあります」
マグカップやめし碗、選ぶポイントは?
「マグカップを選ぶときは、まずは重さや容量をチェックします。また、作家さんによってハンドルの付け方が違うので、持ったときの指の入り具合や、握りやすさを確かめるといいですね」
「めし碗も、マグカップと同じように、ご飯が入る量や重さを確かめます。さらに、手取りといって、手にとったときの馴染みのよさも大切。手取りのよさが、心地よさやおいしさにつながると思うので、自分の手の感覚を頼りに選んでみてくださいね」
ひとつあるだけで、テーブルが華やぐ器がほしい
「円形の器は、すでにお持ちではないかと思います。そこでおすすめなのが、オーバル皿や長方形のお皿など、変形の器です。ひとつ加えるだけで、食卓にメリハリが生まれて華やぐはず。また、いつもと同じ料理でも、変形の器に盛ると驚くほど見え方が違うと思います。ぜひ試してみてください」
お皿のサイズ、どう選んだらいい?
「和食器は、平皿の大きさを寸で表します。1寸は約3cm。3寸皿(9cm)は小皿で、一般的に豆皿と呼ばれているものです。4寸皿(12cm)~6寸皿(18cm)は取り皿として使いやすいサイズ。7寸皿(21cm)~8寸皿(24cm)はメイン皿で、ワンプレートにもぴったりです。
また、7寸皿~8寸皿は、深さや形状にもよりますが、パスタやチャーハンを盛るのにも活躍してくれます。9寸皿(27cm)~尺皿(30cm)が、大皿ですね」
「ただ、人によって食べる量は違いますので、こちらを目安に、自分の食事にあったサイズを選んでください。また、最近では、5寸では取り皿に少し小さいからと5.5寸で制作するなど、サイズをアレンジされる作家さんもいます」
作家ものQ&A 素朴な疑問に答えてもらいました
Q1 おすすめの買い方はありますか?
「まずは、お店の常設展示を見てみるといいでしょう。常設展示では、そのお店で取り扱っている作家さんの器が一堂に並ぶので、自分の好みがわかるはず。そこで買って使い心地を試してみるのもいいですね。
好みの作家さんを見つけたら、今度はその方の個展に足を運んでみるという風に、ステップアップすると、楽しいと思いますよ」
Q2 器屋さんは敷居が高く、何か買わなくてはと思うと、入るのに躊躇します。どうしたら気軽に入れますか?
「器は生活に必要なものなので、八百屋さんに入るのと同じ感覚でいらしてほしいですが、そう思うのは難しいかもしれませんね(笑)。ただ、器屋店主としては、じっくり器を見てもらえるだけでうれしく、器屋冥利に尽きるんです。器との出合いはタイミングもありますので、無理に何か買う必要はなく、気軽に入っていただけたらと思います」
Q3 知っておくといい器用語はありますか?
「器は、各部分に名前がつけられています。器への知識が深まるので、ぜひ覚えてみてください」
①見込みは、器の内側の部分のこと
②口縁は、器のふちの部分のこと。湯呑などは、口縁の厚みや形状で口当たりが変わります。
③胴は、口縁から腰までの部分
④腰は、胴から高台までの部分
⑤高台は、器の底についている台。高台があることで、手にとりやすく、熱いものを入れたときも熱さをやわらげてくれます。
「見込みには、釉だれという釉薬が流れでた跡や、釉溜りといって釉薬が丸くたまり光る姿が見られる器も。また、見込みに絵付けや模様が施された器もあり、なにかと眺めるのがおもしろい場所です」
Q4 割ってしまったらと思うと、怖くて使えません
「割れたり欠けた器を、金継ぎ(きんつぎ)で補修することができます。金継ぎとは、漆と金を使って補修する方法で、ここ最近人気を集めています。教室もありますし、書店などで、金継ぎキットが付いた入門本なんかも売られていますよ。
金継ぎでつくろった器は風情があり、また違ったよさがあります。恐れずに使ってみてください」
Q5 作家ものは、電子レンジが使えますか?
「陶器は基本的に電子レンジNGですが、磁器は電子レンジが使えるものが多いです。ただ、作家さんごとに制作方法が違い、取り扱い方も違うので、購入するときにお店で確認するといいでしょう」
いかがでしたでしょうか? 作家の器がひとつあるだけで、心が浮き立ち、毎日の暮らしがずっと豊かになるはず。こちらを参考に、あなたにとって“いい器”を、ぜひ探してみてください。
<撮影/林 紘輝 *店内写真一部は山川修一 取材・文/諸根文奈>
うつわshizen
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◆渡邉由紀さんの個展を開催予定(5月15日~5月20日)
◆木下和美さんの個展を開催予定(5月22日~5月27日)
◆増渕篤宥さんの個展を開催予定(6月19日~6月24日)