• 発酵学者・小泉武夫さんが自らの厨房「食魔亭」でつくり上げた、春の料理「新ゴボウと桜エビのかき揚げ」の滋味あふれるエッセイとレシピを紹介します。発酵研究・料理家の真藤舞衣子さんが料理を再現。おいしいお酒とともにお楽しみください。
    (『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』より)

    野趣の匂い香ばしく。「新ゴボウと桜エビのかき揚げ」

    新ゴボウと干した桜エビで大好きなかき揚げをつくった。新ゴボウは晩秋から初冬に植えたものを翌年の初夏に収穫したもので、したがって5月が旬ということになる。

    この時期はまだ完全に育っていないため、やわらかく、一般的なゴボウに比べて風味は上品で優しい香りがする。桜エビのような高尚ともいうべき材料とともにかき揚げにするには、新ゴボウはうってつけなのである。

    一方、桜エビでかき揚げをつくるのは、一般的に釡揚げの桜エビを使うのであるが、なぜ干しエビを使うのかというと、かき揚げにするとエビの香りが驚くほど高くなり、それが存分に楽しめるからである。

    つまり、これから我が輩がつくるかき揚げは新ゴボウが主体であり、桜エビは風雅な香りづけと思ってよい。

    新ゴボウ(120グラム)はなるべく細くささがきしてから水につけてアクを抜き、水を切る。

    アサツキ(5本)は細かく小口切りする。卵1個と水を合わせて3分の2カップとし、それに3分の2カップの薄力粉を加えて揚げ衣とする。

    その衣に桜エビ12グラム、新ゴボウとアサツキを加え、全体をよく合わせる。

    揚げ油の温度を170度に熱し、具を菜箸でひとつかみずつ入れてカラリと揚げる。揚がったものから順次皿にとって完了。

    皿に盛ったそのかき揚げの、美しいこと。細くささがきしたゴボウは扇状になって揚げられ、それが黄金色に光沢し、その合間合間に桜エビの赤とアサツキの緑が散らばっている。

    それでは食べてみましょうかと、ひとつかみのかき揚げに塩をパラパラと振り、いざ口の中に。それを噛むとサクサクと歯に応え、さらに噛んでいくと鼻孔から桜エビの強く香ばしい香りと、新ゴボウからのほのかな野趣の匂いが抜けてきた。

    そして衣がとろとろと溶けていくに従って、今度は中から出てきたゴボウが歯に当たり、コモリ、シャリリとし、そこからかすかな甘みがチュルルと出てきた。

    桜エビも歯に潰されて、そこからは濃いうま味がピュルッと出てきて、そのたびに香ばしい桜エビの香りが鼻孔から出てくるのであった。

    その全体を、揚げ油からのペナペナとしたコクとかすかな塩味が囃(はや)し立てるものだから、我が大脳味覚受容器はたちまちにして充満状態に陥るのであった。

    この新ゴボウと桜エビのかき揚げの、いまひとつの楽しみは天丼。多めにつくって余しておいたかき揚げ丼の美味しさといったら、ただごとではないのだ。

    丼に温かいご飯を七分目ほど盛り、その上にかき揚げをのせ、タレ(ダシ汁1カップに味醂大さじ3、醤油大さじ4、砂糖大さじ1を合わせて弱火の鍋で8〜10分煮詰めたもの)を回しかける。

    サクサクとした新ゴボウの風味と、桜エビからの芳香、そしてご飯の甘みと優しいうま味を、トロリとしたタレの甘じょっぱみが包み込んで絶妙だ。お茶漬けにしても極楽、極楽。

    「新ゴボウと桜エビのかき揚げ」のつくり方

    画像: 「新ゴボウと桜エビのかき揚げ」のつくり方

    上品な新ゴボウの香りと桜エビの風味。美しい黄金のかき揚げを塩で。

    材料(2~3人分)

    ● 新ゴボウ120g(約1/2本)
    ● アサツキ(万能ねぎ)5本
    ● 桜エビ12g
    〈衣〉※全て冷やしておく
    ・薄力粉90g
    ・卵1個
    ・水90mL

    つくり方

     新ゴボウはささがきにして酢水(分量外)にさらし、水気を切る。アサツキは小口切りに。

     薄力粉と水を粘りが出ないように溶いて、溶き卵を入れてさっくりと混ぜる。

     を入れさっくりと混ぜ合わせ、170℃の揚げ油に具を菜箸でひとつかみずつ入れて、カラリと揚げる。

    本記事は『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』(日経BP 日本経済新聞出版)からの抜粋です

    〈初出/日本経済新聞夕刊2020年5月25日 撮影/竹内章雄 編集協力/田中順子〉


    小泉武夫(こいずみ・たけお)
    農学博士、発酵学者、文筆家。1943年福島県の酒造家に生まれる。(財)日本発酵機構余呉研究所所長、東京農業大学教授を経て同大学名誉教授。現在は鹿児島大学、福島大学、石川県立大学、宮城大学等の客員教授。『食あれば楽あり』(日本経済新聞出版)、『発酵食品と戦争』(文春新書)など著書は150冊を超える。2024年3月、日本経済新聞の長寿連載「食あれば楽あり」を新書化した『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』(日経BP 日本経済新聞出版)を発売。

    真藤舞衣子(しんどう·まいこ)
    料理家。東京都生まれ。会社勤めののち、京都の大徳寺塔頭で1年間生活。その後、フランスへの留学、発酵食を中心とした和食、フレンチ、パン、スイーツなど、手がける料理は幅広く、作りやすくてセンスのいいレシピが常に評判。料理教室、レシピ開発、テレビやラジオ出演など幅広く活躍。『発酵美人になりませう。』(宝島社)など著書多数。

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    『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』(日経BP 日本経済新聞出版)|amazon.co.jp

    『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』(日経BP 日本経済新聞出版)

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    発酵学者・小泉武夫博士が自らの厨房「食魔亭」でつくり上げた季節の料理を滋味あふれるエッセイとともに紹介。発酵研究・料理家の真藤舞衣子さんが再現した料理のレシピも付いて、読んで楽しめ、つくって楽しめる、エッセイ本です。日本経済新聞夕刊の長寿連載「食あれば楽あり」を新書化。



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