• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。東京都練馬区にある「POOL+(プール プラス)」は、アンティーク感のある使い心地のいい器が揃う器屋さん。店主の妹尾圭子さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    アンティークのよさを伝える架け橋に

    長閑な空気が漂う練馬区の住宅街。まっすぐ伸びる通りをひたすら歩を進めると、格子柄のグレーの外壁とガラス扉のある、しゃれた建物が現れます。こちらが、今回ご紹介する器屋さん「POOL+」。店内に入ると、白い器を中心としたアンティークな佇まいの器が、凛とした姿で並びます。

    画像: ヨーロッパや日本の趣ある家具が彩るやさしい空間。穏やかなテイストの器が出迎えます

    ヨーロッパや日本の趣ある家具が彩るやさしい空間。穏やかなテイストの器が出迎えます

    画像: 西武池袋線「富士見台駅」から、徒歩10分ほどの場所にあります

    西武池袋線「富士見台駅」から、徒歩10分ほどの場所にあります

    画像: 生まれ育った土地に、店を構えた店主の妹尾さん。暮らしを大切にし、自分の体験を生かしたセレクトをしています

    生まれ育った土地に、店を構えた店主の妹尾さん。暮らしを大切にし、自分の体験を生かしたセレクトをしています

    「器好きの母の影響もありますが、育児をしながら専業主婦をしていたときに、器にのめり込むようになりました。というのも、その頃、毎日が同じことの繰り返しに思え、悶々としていて。料理が得意というわけじゃないから、せめて器で気分を上げようと思い立ったのがきっかけです」と、妹尾さんは話します。

    器屋を始めたのは、いまから15年ほど前のこと。「息子が高校受験するという大変な年に、何を思ったのか始めてしまって」と笑います。親類が所有していたアパートの一室を借り、4、5名ほどの作家の作品を並べ、実店舗をスタートさせました。

    画像: テーブルに並ぶのは、山口和宏さん、吉田健宗さん、田中直純さんらの作品

    テーブルに並ぶのは、山口和宏さん、吉田健宗さん、田中直純さんらの作品

    「でも振り返ると、お店があったおかげで、子どもに意識が向きすぎずに済んだので、結果的によかったですね」とにっこり。デジタルが苦手でネットで宣伝はしなかったものの、口コミでお客さんは少しずつ増えていきました。

    画像: ガラスの器は、永木 卓(リトグラス)さんのもの

    ガラスの器は、永木 卓(リトグラス)さんのもの

    そんな妹尾さんは、大のアンティーク好き。かつては日本の古道具に夢中で、古道具で部屋が埋め尽くされるほどだったとか。「でも、最近は好みが変わり、日本というよりヨーロッパの古いものに惹かれるようなりました」というように、店にはヨーロッパのアンティークから色濃く影響を受けた器が多く並びます。

    「アンティークというと、シミや汚れなど使い込まれた感じに抵抗を感じる方もいらっしゃって。でも、作家の作品は古いものを映し出しながらも新品。どなたにもすんなり手にとっていただけます。アンティークの魅力を知るきっかけになればうれしいですね」と話します。

    画像: ガラスの照明は、古い素材を生かしてランプやオブジェを制作する中嶋和也さんのもの

    ガラスの照明は、古い素材を生かしてランプやオブジェを制作する中嶋和也さんのもの

    気の張らない、毎日使える器を

    そんな妹尾さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、東京都大田区で作陶する、直井真奈美(なおい・まなみ)さんの器です。

    画像: 直井さんの作品は、青みがかった白が静謐な印象。こちらは「ゴブレットtall」と「オーバルレリーフプレート L」

    直井さんの作品は、青みがかった白が静謐な印象。こちらは「ゴブレットtall」と「オーバルレリーフプレート L」

    「直井さんは、古万古という三重県の土と乳白釉を使って器づくりをされています。まさに絵になるような器で、たとえばプレートにクッキーをちょっと並べるだけでも様になって。お香立てなんかも、オブジェのような存在感があります。

    レリーフプレートとゴブレットは、定番人気ですね。ゴブレットは、お酒だけじゃなく、いろんな飲み物に合うんです。直井さんの工房に伺ったとき、ゴブレットでホットコーヒーを出してくださって。ホットコーヒーというのは意外で驚いたのですが、素敵だなと、いまでは真似しています。

    画像: 前回の展示会で好評だったという「お香入れ」と「お香立て」

    前回の展示会で好評だったという「お香入れ」と「お香立て」

    最近、個人的にお香を楽しむようになったのですが、なかなか好みのお香立てに巡り合えなくて。そこで、直井さんに制作をお願いしたのが、こちらです。お香立てといっても洋風のデザインで、素敵ですね」

    お次は、富山県富山市で制作する、中西健太(なかにし・けんた)さんの作品です。

    画像: 豊富なサイズが揃う「ボウル」はカエデの木を使用。熱いスープを入れても平気

    豊富なサイズが揃う「ボウル」はカエデの木を使用。熱いスープを入れても平気

    「中西さんがつくる作品は、すみずみまでデザインにこだわりを感じられます。たとえば、この『ボウル』やカトラリーの持ち手は、ひとつずつ形状が違っていて。繊細な表現に、いつも感心させられます。

    画像: 持ち手のフォルムがそれぞれ異なり、選ぶ楽しさも

    持ち手のフォルムがそれぞれ異なり、選ぶ楽しさも

    画像: 晩酌やおやつの時間を素敵に演出する「サービングボード」。材はウォールナット

    晩酌やおやつの時間を素敵に演出する「サービングボード」。材はウォールナット

    『サービングボード』は、果物やお菓子をのせたりと、トレー代わりに使うことが多いですね。ほかには、テーブルのセンターに置き、上に花器をのせて花を楽しんだりも。デザインが洗練されているからこそ、そんな使い方もハマるのだと思います。

    中西さんが制作されているのは、立山連峰を望む土地。登山がお好きで、山に自作の器やカッティングボードを持参し、お使いになるそうです。中西さんの作品はすべてガラスコーティングされていて耐久性が高く、お手入れもラクですよ」

    最後は、石川県能美市で作陶する、岡田直人(おかだ・なおと)さんの器です。

    画像: 岡田さんはベテランの人気作家。やわらかな肌合いの白釉の半磁器をメインに手掛けます。こちらは、「八角プレート」と「カフェオレボウル」(ともに店主私物)

    岡田さんはベテランの人気作家。やわらかな肌合いの白釉の半磁器をメインに手掛けます。こちらは、「八角プレート」と「カフェオレボウル」(ともに店主私物)

    「岡田さんは、ヨーロッパの古陶磁に造詣が深く、それらからインスピレーションを得て作品づくりをされています。岡田さんの作品は、デザイン性が高いものの、日常使いにぴったりですね。気軽に扱えますし、和洋中どんな料理とも相性がよく、毎日のように手が伸びます。

    『八角プレート』は、取り皿にちょうどいいサイズで、しかもオーバル型。取り皿サイズのお皿は丸型が多いので、とても重宝するんです。お菓子はもちろん、餃子や焼き鮭なんかにもちょうどいい。おにぎりをのせて卵焼きを添えたり、サンドイッチにもいいですね。

    画像: 洗練されたフォルムの「急須」は、持ち手が金属で、使うほどに色が味わいを増します。「湯呑み」は、口縁の“ひらひら”が可愛い(ともに店主私物)

    洗練されたフォルムの「急須」は、持ち手が金属で、使うほどに色が味わいを増します。「湯呑み」は、口縁の“ひらひら”が可愛い(ともに店主私物)

    岡田さんは、“仕事も全力、遊びも全力”な方。サーフィンを楽しんだりと、アクティブに過ごされています。そんな岡田さんも、若い頃は仕事に没頭しすぎていたそうで、そうするとかえっていい作品が生まれないから、時間を区切って仕事するようになったと、話されていました」

    画像: 貫入が入ったお皿は、田中直純さんの作品。卵色の釉薬は、煮出したどんぐりを使ったものだとか

    貫入が入ったお皿は、田中直純さんの作品。卵色の釉薬は、煮出したどんぐりを使ったものだとか

    妹尾さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「第一印象でいいなと思って手にとった後、触り心地や重さ、厚みなど、使い勝手を確認しています。年齢のせいもあるかもしれませんが、重すぎたり、繊細すぎて扱いが難しいものは、どんなに素敵でも結局使わなくてなってしまうことが多くて。

    先ほどもお話ししましたが、ヨーロッパのアンティークから影響を受けた作風の方に惹かれますね。また、材質に限らずシンプルなものが好み。シンプルなものなら、いろいろ組み合わせても喧嘩せずまとまります」

    画像: 木のプレートは、どちらも堀 宏治さんの作品

    木のプレートは、どちらも堀 宏治さんの作品

    取材時に、「この器、どんな風にお使いですか?」と聞くたびに、“〇〇や〇〇、〇〇なんかをのせてます”“こんな風に盛りつけると素敵です”など、使用例が次々と出てくる妹尾さん。器と盛りつけたものが共鳴するような、心地いい食卓の風景が鮮やかに目に浮かんできました。

    そんな店主が選ぶのは、古きよきものをしのばせて、年齢を重ねても無理なくつきあえる器たち。どうぞ、あなたの食器棚に迎え入れてみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 気の張らない、毎日使える器を

    <撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>

    POOL+
    03-5848-7478
    13:00~17:00
    水・木・日休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
    東京都練馬区貫井 3-53-6
    最寄り駅:西武池袋線「富士見台駅」(北口)より徒歩10分ほど
    http://pool-plus.shop-pro.jp/
    https://www.instagram.com/pool_plus/
    ◆中西健太さんの個展を開催予定(5月25日~5月31日)
    ◆ 畠山雄介さん・竹口 要さん・松本克也さん(木工)・湯浅記央さん(金工)のグループ展を開催予定(6月15日~6月22日)
    ◆直井真奈美さんの個展を開催予定(9月予定)



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