• 愛猫家で知られるミュージシャンで文筆家の猫沢エミさん。2022年のバレンタインデーに、ピガとユピという2匹の猫を連れてパリに移住しました。日本に一時帰国されたタイミングで、猫を連れてのパリ移住やパリのペット事情、そしてパートナーのヤン・ラズーさんと始めた動物支援保護活動(ヤンヤンプロジェクト)について、お話を伺いました。今回は、動物との暮らしが当たり前に受け入れられているというパリのペット事情とその背景についてです。

    パリは、動物と暮らしやすい街

    ――パリに移住してすぐに物件が見つかったということでしたが、ペット可物件も多いんですか。

    画像: ――パリに移住してすぐに物件が見つかったということでしたが、ペット可物件も多いんですか。

    猫沢さん:日本と違い、ほぼすべてのアパルトマンがペット可なんです。

    ヤンさん:大家さんが動物嫌いだと不可という場合もあるけれど、ライオンとか大蛇とか危険な動物じゃなければ、だいたい大丈夫ですね。

    画像: 今年13歳になる黒猫のピガは、一度も本気で怒ったことがない温厚兄。12歳になる茶トラのユピは、ザ・弟キャラの甘えん坊

    今年13歳になる黒猫のピガは、一度も本気で怒ったことがない温厚兄。12歳になる茶トラのユピは、ザ・弟キャラの甘えん坊

    猫沢さん:ちなみにほとんどのホテルも動物と泊まれますよ。動物と暮らしているのが当たり前で、ヴァカンスも一緒に過ごしますしね。

    ――一方で、フランスではバカンスのためにペットを捨てるというニュースもときどき耳にします。

    ヤンさん:悲しいけれど、すごくクラシックなよくあるパターンです。

    猫沢さん:以前、パリの動物病院の取材で聞いた話では、夏近くになると病院の前に捨てられていたり、もっとひどいケースだと「明日からヴァカンスだから安楽死させてくれ」って言ってきたりする人もいるそうです。責任感のない人は、どこの国にもいるんですよね。

    ――フランスにはペットショップはあるんでしょうか。

    猫沢さん2021年に法改正があり、今年からフランス全土でペットショップでの店頭販売が禁止になりました。

    動物と暮らしたい人たちは、ブリーダーや保護施設からというパターンが多くなるでしょうね。

    この間は友達が暮らしているアパルトマンの庭で子猫が保護され、一匹もらうチャンスかもと思ったんですけれど、結局そこに住んでいる人たちが早々に引き取ってくれて、パリジャンは本当に動物好きが多いなあと感じました。

    日本だと、ペット可物件に引っ越さなければ飼えないけれど、そういった意味でもパリでは飼いやすい環境だと思います。

    画像: はじめは「ママをとるライバル!」くらいに敵対していたヤンにも、近頃ではべったり甘えるようになったユピ

    はじめは「ママをとるライバル!」くらいに敵対していたヤンにも、近頃ではべったり甘えるようになったユピ

    ――そのあたりは、日本よりフランスのほうが進んでいるんですね。

    猫沢さん:そうですね。それには理由がありまして、フランスは世界で初めて動物保護団体ができた国*なんです。
    *諸説あります

    日本の保護団体ではおもに猫や犬が保護されていますが、フランスだと馬、ロバ、牛、サーカスで使われていたライオンなども保護されています。広大な敷地を持っていて、個人からの寄付がすごく多い。

    画像: パリのかかりつけの動物病院の看板猫・ロジェくん。ここへやってくる怯えた動物たち一匹、一匹に「だいじょうぶだよ」と声をかけて回る出来た子! この子も、飼い主によって動物病院に置き去りにされた猫。パリの動物病院は、置き去りにされた子がその後、看板犬猫として活躍している、というところが多い

    パリのかかりつけの動物病院の看板猫・ロジェくん。ここへやってくる怯えた動物たち一匹、一匹に「だいじょうぶだよ」と声をかけて回る出来た子! この子も、飼い主によって動物病院に置き去りにされた猫。パリの動物病院は、置き去りにされた子がその後、看板犬猫として活躍している、というところが多い

    クリスチャンの国ですから、お金を持っている人は贖罪という思想もあるみたいですし、やっぱりフランスでは家畜を酷使したり、毛皮を採取したりといった歴史への負い目もあるんだと思います。

    俳優のブリジット・バルドーさんはフォックスの毛皮の採取法に衝撃を受けたことをきっかけに熱心な動物保護活動家になり、家畜牛の屠殺方法を変えさせたくらい。

    市民の意識も高くて、毛皮を着ている人は生卵をぶつけられる、なんていう話をよく耳にします。

    * * *

    フランスではペットショップでの生体販売禁止に続き、今後数年のうちにはイルカやシャチーのショー、サーカスでの野生動物利用も禁止されることになっているそう。

    家畜やショー動物が置かれた立場にまで目を光らせているフランスに、日本も学ぶべきところがありそうです。

    さて、続く第3回では、猫沢さんとパートナーのヤン・ラズーさんがヤンヤンプロジェクトを始めたきっかけを伺います。

    写真/猫沢エミ、林紘輝(インタビュー) 取材・文/長谷川未緒



    猫沢エミ(ねこざわ・えみ)

    画像: 撮影/関 めぐみ

    撮影/関 めぐみ

    ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏し、2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を務める。超実践型フランス語教室「にゃんフラ」主宰。2022年2月から猫2匹を連れ、二度目の渡仏、現在はパリに暮らす。一度目のパリ在住記を綴った『パリ季記』(扶桑社)のほか、『猫と生きる。』(扶桑社)や『ねこしき』(TAC出版)、『猫沢家の一族』(集英社)など著書多数。昨年12月に出版された料理絵本『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ著/猫沢エミ訳(河出書房新社)のシリーズ第三弾、『コンフィチュールづくりは子どもの遊びです』が9月発売予定

    インスタグラム:@necozawaemi

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    ヤン・ラズー(Yann Lazoo)

    画像: ――そのあたりは、日本よりフランスのほうが進んでいるんですね。

    1969年パリ郊外に生まれる。パリ第6大学(ピエール・マリー・キュリー大学)物理専攻量子学科の大学院へ進み、ヨーロッパ内企業の数学講師など絵を務める。同時に10代からアメリカンコミックやバンド・デシネ(フレンチスタイルのアート漫画)の世界に傾倒し、デッサンを独学で始める。20歳の頃、フランスの最大手メディアストア《fnac》の新人バンド・デシネ・アーティスト大賞に選ばれたのをきっかけにプロデビューする。

    27歳のとき、量子学の世界から画家へ完全転向。その後グラフティースタイルの壁画制作と、雑誌・出版物へのイラストレーション活動をふたつの柱に、アートフェスティバルのプロデュース、ディオールのデフィレ会場壁画制作、パリ市内中学校の内装壁画制作など幅広く活動中。今回ヤンヤンが使うデッサン画のテクニックは、クラシックな写実の技法だが、モデルの呼気も取り逃がさない繊細なタッチは、まさにフレンチリアリズムと言える。元数学者の左脳と、クリエイションを生み出す右脳がバランスよく内在した、クリアかつ、あたたかな表現が特徴。

    インスタグラム:@yannlazoo

    https://yannlazoo.art/

    ヤンヤンプロジェクト

    インスタグラム:@projet_de_yannyann

    『パリ季記 フランスでひとり+1匹暮らし』 (天然生活の本)|猫沢エミ (著)

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