突然のがん発覚。療養中に考えたこと
2018年10月のある日、幸田町を暴風雨が襲った。
土砂崩れがあちらこちらで起こり、その夜は消防の通報が鳴り止まなかった。明け方には台風が過ぎ去り、職員みんな日常が取り戻せてホッとした。
僕もいつも通り、帰り支度をして車で家に戻った。布団に入り、ひと眠りしたところで、突然目が覚めた。体の一部に違和感があった。
見ると、その場所が異様なまでに腫れ上がっている。何だ、これは。気が動転したまま、とりあえず近くの病院に駆け込んだ。
検査の結果、悪性の腫瘍が見つかった。がんだった。
病院からの帰り道、車を運転しながら涙が止まらなかった。
僕がどうして……。このまま死ぬんかなあ……。頭が混乱して、どうしていいかわからなかった。とにかく不安で不安でたまらなかった。
大きな病院への紹介状を書いてもらい、幸いなことに、すぐに手術を受けられることになった。病院では思いがけない出会いがあった。
消防士時代の同期、太田君が突然、病室にやってきた。太田君はこの病院に救急救命士の研修に来ていて、偶然僕の名前を発見して、驚いて訪ねてきてくれたそうだ。
これまでのいきさつを説明すると、「手術のとき、行くで」と言ってくれた。
手術当日は、家族全員が付き添ってくれた。手術室に入るとき、次兄の脩平兄ちゃんが、「絶対大丈夫だから。ここで待ってるから」と声を掛けてくれた。約束通り、手術に立ち会ってくれた太田君は、僕に向かってずっと、「大丈夫、大丈夫」と励ましてくれた。それがどれだけ心強かったか。
手術は無事に成功した。それから家で療養生活が始まった。寝て起きて、食べて、ぼんやりする、の繰り返し。でも、痛みが続くと漠然とした不安に駆られてしまう。
そんなとき僕を勇気づけてくれたのは、部屋から見える自然や畑の風景、家族との何気ない会話、友人たちの温かい言葉だった。
「今、目の前にあるこの暮らしが何より幸せで、尊いんだ。この当たり前の暮らしこそ、大切にしよう」。そう心に決めた。
それから1年後、僕はTAKASU TILEを始めることになる。
本記事は『TAKASU TILE 自分をHAPPYにする暮らし方』(誠文堂新光社)からの抜粋です
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YouTubeで田舎暮らしを発信するTAKASU TILEのライフスタイルエッセイ
季節とともに暮らし、日常の小さな喜びを大切にする。自分を満たし、家族や周りに幸せの輪を広げていく。小屋づくりから畑仕事、料理、日々のルーティン、おばあちゃんとの時間、大切な人たちとの交流まで、人気ユーチューバーTAKASU TILEさんの田舎暮らしの日常を綴りました。
消防士時代、出会いから結婚、がんのこと、亡くなった兄のことなど、これまで動画では伝えてこなかった内容も盛りだくさん。暮らしを通じて自分をHAPPYにするためのヒントが見つかる1冊です。
〈撮影/川原﨑宣喜 協力/Team TAKASU〉
髙須亮佑(たかす・りょうすけ)
映像作家・クリエイター。1994年生まれ。愛知県額田郡幸田町出身。消防士として8年働いたのち、映像作家として独立。現在は100年続く家業の瓦屋「高須製瓦」の屋号を引き継ぎ、ユーチューブチャンネル「TAKASUTILE」を運営している。田舎の風景、日々の暮らし、家族団らん、当たり前にある日常の尊い時間など、自身のライフスタイルに根差したコンテンツを発信している。
YouTube:TAKASU TILE