(『天然生活』2022年4月号掲載)
穂村 弘さんが選ぶ“心のデトックス"のための「本と映画」8作品
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
風果つる街
賭け将棋だけで生計を立てる“真剣師”。ただ強い相手を求め、旅を続ける。
「僕らが“飼い猫”なら、彼らはぎりぎりのところでサバイバルする“野良猫”。その真剣勝負を垣間見る」
不夜城
新宿・歌舞伎町を舞台に展開する、チャイナマフィアの牽制と二重三重の嘘、そして思いもよらぬ裏切り。
「生存のために毎夜戦う、人間たちの物語。知らなかった世界が広がっている」
わたしは真悟
産業用ロボットが、ある日意識をもつ。それは、少年と少女の純粋な心が生み出した意識だった。
「生殖を伴わない、子どもによる愛こそ真の愛ではないかと問う、楳図かずおの先鋭的な作品」
不浄を拭うひと
脱サラした主人公が孤独死などの現場の原状回復をサポートする“特殊清掃”に携わる。
「霊感のある人がその現場に立ち会っているとどういう状態になるか? という二重の怖さがある」
失踪日記
突然の失踪、自殺未遂、路上生活、アルコール中毒……。波乱万丈の日々をみずから赤裸々に綴る。
「人にはすべてを投げ出して別人になりたいという潜在的な願望があるのかもしれない」
人間仮免中
壮絶な過去と統合失調症を抱えた著者が、36歳にして出会った25歳年上の恋人ボビーと愛をもって壮絶に生き抜く。
「主人公は非常に業の深い人。僕らとは見えている世界自体が違うのだ」
花とアリス
幼なじみの少女、ハナとアリス。好きな先輩をめぐって三角関係になり、恋と友情の間で揺れ動く。
「最初は通して観たけれど、いまは気に入ったシーンだけを味わうように眺めています」
サスペリア
1977年のホラー映画。ドイツのバレエ学校を舞台に悪魔崇拝の儀式が行われ、生徒がどんどん消えていく。
「映像が美しい。意味や物語を離れても、価値が消えることのない作品」
限定された世界で、“可能性”を探す
「普通に暮らしていても、生きることは小さな戦いの連続です。そこでつらいと思ったとき、もっとぎりぎりのところで生きている人の姿を、その世界を見たくなる」
選んだ本に描かれるのは、売れっ子の地位を放り出して失踪した漫画家、賭け将棋の世界に生きる男、歌舞伎町の裏社会のサバイバルなど……なかなか体験できない、触れる機会すらまれな領域。
「日々戦いながらも、僕はどこかに、『世界にはものすごい可能性がある』という期待をもっている。でも、その“可能性”は、たぶん、どこか小さなところに焦点を絞らないと可視化できないとも思う」
だから、自分のまだ知らない特殊な、小さな世界に焦点を当ててそれを探そうとするのです。
「思えば映画も一種の限定された空間=“学校”が舞台の作品を選んでいますね。僕は小さく特殊な空間、自分にとっての異世界に、見つけたいものがあると感じているのかもしれません」
心のデトックスに欠かせない飲みもの
「丸福珈琲店」のアイスコーヒー
以前飲んでおいしかったけれど、存在を忘れていた1杯。
「有栖川有栖の小説内の人物が飲んでいました」
〈撮影/山田耕司 取材・文/福山雅美〉
穂村 弘(ほむら・ひろし)
1990年に『シンジケート』(沖積舎)でデビュー。2008年、連作「楽しい一日」で第44回短歌研究賞を受賞。評論集『短歌の友人』(河出書房新社)で第19回伊藤整文学賞を受賞するなど、短歌のみならず、評論、エッセイ、対談、絵本、翻訳など広い分野で活躍する。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです