(『天然生活』2023年11月号掲載)
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
もっと自然に近くて心地よい、新しい暮らしをスタート
深い緑に囲まれた一軒家。すぐそばで、沢の流れる音が聞こえます。
本間先生一家は、2023年春からこの家で新しい生活を始めました。
それまで暮らしていた診療所の敷地内の家から、車で15分ほど離れた隣町へと移り住んだのです。
近くには清流として知られる那珂川(なかがわ)が流れ、豊かな自然が広がっています。

明るくて広々としたキッチンで昼食の準備をする本間先生。今日の昼食は薬味たっぷりのうどんと、野菜の揚げびたしやかき揚げなどのおかず。取材した日は家族が帰省していたため、食事もすべて自分で用意

妻の理恵さんお手製のめんつゆを器に入れて

食器棚には家族4人の日々の食卓に上る器が並ぶ
「実は、2年ほど前から引っ越しを考えていて、地元の空き家バンクなどで探していたんです」
ようやく理想の環境が見つかったのが2023年の春。
診療所にも通える距離に、築60年ほどの古民家を見つけました。敷地内には棚田や畑、山もあります。
水にも恵まれたこの土地で、本間先生は家族とともに新しい暮らし方を実践していくことにしたのです。

木々に囲まれた古民家。隣には納屋もふたつ立っている。「家の周りにたくさんの種類の虫がいて、虫好きの息子は大喜びです」

ふたりの子どもたちものびのびと過ごせる広い家。飾り障子など、古民家の建具がそのまま残っている部分も。「縁側があるところも気に入っています」。家の中は今後少しずつ手を加えていく予定
自分だけでなく、生態系のすべてをめぐらせたい
これまでも診療所に隣接した自宅の敷地などで野菜を育てたりしながら、自然に沿った暮らしを実践してきました。
新しい住まいでは、それをさらに深めていきたいのだと話します。
「ここでは食料だけでなく、水やエネルギーも自給自足でまかなえるようにしたいんです。すぐには難しくても、少しずつ実現したい。そうすれば、すべてのものをめぐらせることができますから」

自宅の庭には緑がいっぱい。「これから畑もつくって、いろいろな野菜を育てるつもりです」
「めぐりをよくする」とは、私たち一人ひとりの体内のことだけではない、と本間先生はいいます。
そもそも私たち人間は単独の生き物ではなく、生態系の一部。
つまり、人間を含む動物、植物、微生物など、あらゆる生物がお互いを生かし合い、循環すること。
これが「めぐる」の本当の意味なのです。
暮らしに使うものを人任せにせず自給できるようになれば、すべてを循環させることもできます。
「“めぐる”の対極にあるのが、ごみを出すこと。ゼロは無理でも、できる限り少なくする生活を目指したいと思っています」
手つかずの棚田や畑を整備するほか、井戸を掘る計画や、自家発電する計画もあります。
これまでよりさらに自然に沿った暮らしの実現に向けて、その挑戦は始まったばかりです。

家のあちこちに本間先生が手づくりした木製の家具やおもちゃが
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〈撮影/山田耕司 取材・文/嶌 陽子〉
本間真二郎(ほんま・しんじろう)
小児科医・微生物学者。2001年より3年間、アメリカにてウイルス学、ワクチン学の研究に携わる。2009年より栃木県那須烏山市で地域医療に従事しながら、自然に沿った暮らしを実践中。著書に『別冊天然生活 本間真二郎さんの病気にならない暮らし方』(扶桑社)など。