• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。静岡県島田市にある「Mato ,,tools」は、表情豊かで飽きのこない器が揃う器屋さん。店主の松本季美子さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    自分の“好き”と出合える心地いい場所を

    「20代の頃は、帽子のアトリエで制作の仕事をしていたんです。その後は、地元に戻って普通に働いて、結婚、専業主婦になって。それからの楽しみは、器を扱うセレクトショップに行くことでした。元の自分を取り戻せるような、そんな心地いい時間だったんです」

    そう話すのは、静岡県島田市にあるセレクトショップ「Mato ,,tools(マトツールズ)」の店主、松本季美子さんです。店に並ぶ器は、土味のある渋めから、アンティーク感のあるもの、ポップな絵柄入り、シンプルで落ち着いたものまで、実に多彩なラインアップ。また、海外や日本の上質な生活雑貨も揃います。

    画像: 古家具や北欧家具、DIYしたテーブルを什器として使用。左端は、アルヴァ・アアルトによるデザインのテーブルです

    古家具や北欧家具、DIYしたテーブルを什器として使用。左端は、アルヴァ・アアルトによるデザインのテーブルです

    画像: 手前のボウル、マグカップ、ピッチャーは、すべて今井律湖さん作

    手前のボウル、マグカップ、ピッチャーは、すべて今井律湖さん作

    学生の頃に雑誌『オリーブ』を愛読し、雑貨や洋服が大好きだったという松本さん。上京して帽子の専門学校で技術を身につけた後は、帽子のアトリエで制作に携わります。その後は、冒頭にある通り。

    「器を扱うショップに行くのが主婦時代の楽しみでした。好きなものにどっぷりつかっていると、本来の自分に戻れる気がして。気に入ったものをひとつだけ買って帰るのですが、それも嬉しくて。いつしか、そんな心地いい場所を、自分でもつくりたいと思うようになったんです」

    そう思い立ってからの行動は早く、2年後にはお店をスタートさせていました。

    画像: 韓国のイブル、「SyuRo」の角缶、リトアニアの松の根っこのカゴなど、定番商品が並びます

    韓国のイブル、「SyuRo」の角缶、リトアニアの松の根っこのカゴなど、定番商品が並びます

    画像: ステンレス製の器はイタリアの「MOTTA」のもの。トレーの上の猪口は落合重智さん、左奥のレリーフ皿は河合竜彦さん、右奥の耐熱器は谷口竜さん作

    ステンレス製の器はイタリアの「MOTTA」のもの。トレーの上の猪口は落合重智さん、左奥のレリーフ皿は河合竜彦さん、右奥の耐熱器は谷口竜さん作

    「Mato ,,tools」の器を眺めていると、独自の魅力にじわじわと引き込まれ、“ずっと飽きずに使える”そう予感させてくれます。そんな目利きの松本さんですが、作家について話が及ぶと、こんなエピソードを語ってくれました。

    「帽子のアトリエで働いていた頃に、気づいたことがあるんです。定番の帽子をつくる際、形は決まっているのに、ちょっとした部分が人によって違って。縫ったり、リボンをつけたりと、つくる工程で手の癖って出るんだなと。器の作家さんにも、そういうものが絶対あると思っていて」

    「そんな手の癖を、より強く感じる作家さんもいる」ともいいます。個性やセンスなど、はっきりと目に見える違いだけでなく、手から自然とこぼれ落ちてくるようなわずかな差異にも目を向ける松本さん。だからこそ、魅惑的な器を選ぶことができるのでしょう。

    画像: 色鮮やかなメラミン食器は、ポルトガルのファプラナ社製。こういったプロダクトと作家ものを合わせてディスプレイすることも多い。竹かごは、福田真理子さん作

    色鮮やかなメラミン食器は、ポルトガルのファプラナ社製。こういったプロダクトと作家ものを合わせてディスプレイすることも多い。竹かごは、福田真理子さん作

    画像: 唐津焼の飯碗は秋田菫さん、盆は中沢学さん、盆の上の碗は四海大さんのもの。奥の小皿やマグカップは内田ゆみこさん作

    唐津焼の飯碗は秋田菫さん、盆は中沢学さん、盆の上の碗は四海大さんのもの。奥の小皿やマグカップは内田ゆみこさん作

    裏側まで愛せる、ときめきをくれる器を

    そんな松本さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、静岡県で作陶する、CANASA(カナサ)さんの器です。

    画像: グレーがかった白の地に、草の絵が描かれた「皿 草絵」。磁器の作品は、電子レンジの使用も可能

    グレーがかった白の地に、草の絵が描かれた「皿 草絵」。磁器の作品は、電子レンジの使用も可能

    「CANASAというブランド名で制作する作家さんで、おもに磁器を、時に耐熱土で耐熱の器をつくられています。丸い大きな持ち手のマグカップが、CANASAさんの作品のなかでは一番おなじみでしょう。

    絵付けの器もときどきつくられますが、筆使いがとても個性的で楽しいんです。この『皿 草絵』もそうで、夏に草取りをしていたとき、思いついた絵柄なのだとか。そんなエピソードも楽しいですね。

    画像: 「CANASAさんらしい、のびのびとした絵がかわいい。グリーンの色味も絶妙で素敵」と松本さん

    「CANASAさんらしい、のびのびとした絵がかわいい。グリーンの色味も絶妙で素敵」と松本さん

    ポップな柄や絵付けの器をつくる一方で、シンプルで控えめな作品も手がけます。でも、『どれもCANASAさんだな』と思わせてくれますね。磁器製の壁掛け時計もつくられていて、とても人気があるのですが、手描きの数字がかわいく、インテリアが楽しい雰囲気になりますよ」

    お次は、福岡県うきは市で作陶する、黒畑日佐代(くろはた・ひさよ)さんの花器です。

    画像: 艶やかな肌が美しく、ぶっくりした形も愛らしい「一輪挿し」

    艶やかな肌が美しく、ぶっくりした形も愛らしい「一輪挿し」

    「黒畑さんは、楽焼きの手法で器をつくられますが、楽焼といっても、黒畑さん独自のつくり方をされているそうです。大らかな表情が、黒畑さんのなによりの魅力ですね。茶色や黄色の色味をした作品もありますが、多いのは、白地に黒の斑点があるものです。

    画像: 斑点の出方が1点1点大きく異なり、選ぶ楽しさがあります

    斑点の出方が1点1点大きく異なり、選ぶ楽しさがあります

    また、こういった作風はなかなかなく、とても個性的な表現だと思います。でも、個性的といっても素朴さがあるので、普段の生活のシーンにもなじみやすいですね。この『一輪挿し』は、お花一輪だったり、野の草をさっとさすだけで絵になる、楽しい花器です。

    また、形にも“黒畑さんらしさ”があって。たとえば、『角小皿』というとても小さな角皿があるのですが、中央に丸いくぼみのある独特のフォルムをしています。チョコレートなど小さなお菓子をのせてコーヒーに添えると、とても素敵なんですよ」

    最後は、岐阜県多治見市で作陶する、立花嶺(たちばな・りょう)さんの器です。

    画像: 薪窯で焼成した「粉引き 5.5寸皿」は、古物のような趣。深さがあり、汁気のある料理にも使いやすい

    薪窯で焼成した「粉引き 5.5寸皿」は、古物のような趣。深さがあり、汁気のある料理にも使いやすい

    「立花さんは、30代前半と若手の作家さん。ガス窯のほか、仲間と共同で薪窯を使って焼成をされています。第一印象は、飄々とした青年という感じですが、お話しすると、器ととても真剣に向き合っていらっしゃるのを感じます。

    “何でもない日常の器、雑器”を目指しているそうですが、何気ない静かな佇まいながら、表情豊かなのが魅力です。ろくろで成形する際は、何度も手を加えずに、土の伸びやかさを大切にしたり、『この器なら重心はこの辺りがいい』など、一見わかりにくいところにも気を配ってつくっていると仰っていました。

    画像: 青味がかった白の地に、貫入が美しく入る「白 4寸皿」

    青味がかった白の地に、貫入が美しく入る「白 4寸皿」

    画像: 横から見たところ。静謐で上品な姿に魅了されます

    横から見たところ。静謐で上品な姿に魅了されます

    立花さんの器は和ですが、洋食や中華、エスニックとなんにでも使え、お料理がとても引き立ちます。展示会のときに、立花さんの器でお茶とおやつをお出ししたのですが、ケーキとも相性がよくて。一度使ってよさを実感し、買い足しに訪れるお客さんが多いですね」

    画像: アートブックと一緒に並べたり、木のおもちゃをのせたり。「“おもしろ可愛い”ディスプレイが好き」という松本さん

    アートブックと一緒に並べたり、木のおもちゃをのせたり。「“おもしろ可愛い”ディスプレイが好き」という松本さん 

    松本さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「まずは、第一印象が大切です。さらに、『器の裏側も好き』というのも、こだわっている部分かもしれません。器の裏って、作家さんの個性が出るんじゃないかと感じていて。裏も好きな方が、ずっとときめきを与えてくれるように思います。

    あとは、持ったときに違和感のない重さかも大切。器の容量も自分に合うとなおいいのですが、そうでなくても、どうやったら使えるか考えて。たとえば、カップが小さめなら、ピッチャーを添えて使うようにしたり。器に合わせて自分の食生活のスタイルが変わるのも、楽しいんです」

    画像: テーブルに並ぶのは、CANASAさん、立花嶺さん、前田美絵さんらの作品。器の中の小さな織りの作品は、寺田靖子さんのもの

    テーブルに並ぶのは、CANASAさん、立花嶺さん、前田美絵さんらの作品。器の中の小さな織りの作品は、寺田靖子さんのもの

    「Mato ,,tools」では、これまで展示会は行っていなかったものの、2025年2月に初めて展示会を開催。「山本拓也・大園篤志・立花嶺」という素敵な顔ぶれの3人展は、好評を博しました。今後も不定期ながら、同じような形で展示会を行っていくそうです。

    松本さんがピックアップする3作家の取り合わせは、きっと絶妙になるはず。常設とともに注目してみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 裏側まで愛せる、ときめきをくれる器を

    <撮影/松本季美子 取材・文/諸根文奈>

    Mato ,,tools
    090-2182-1408

    11:00~17:00
    日・月・火休 ※営業日はInstagramにてご確認ください
    静岡県島田市稲荷2-8-8
    車:バイパス「向谷インター」から約3分、新東名「島田金谷インター」から約10分
    https://mato-tools.stores.jp/
    https://www.instagram.com/mato__tools/
    ◆河合竜彦さん・三浦ナオコさん・畠山雄介さんの三人展を開催予定(5月17日~5月31日)



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