人との繋がりが生んだ、充実のラインアップ
札幌市中央区にある大通公園は、札幌市民の憩いの場。その大通公園のほど近く、のんびりとした風情が漂うエリアに、今回ご紹介する器屋さん「Licht (リヒト)」はあります。白を基調とした穏やかな空間に並ぶのは、シンプルながらひっそりと個性を放つ器たち。
「母が器好きだった影響からか、もともと器屋には頻繁に通っていました。そしてあるとき、父の友人が陶芸教室でつくったという土鍋を家に持ってきてくれて、その土鍋でパーティーをしたんです。それがあまりに素敵で、私も陶芸を習いたいと思い立ちました」

2019年オープン。落ち着いた雰囲気の雑居ビルの2階にあります

窓際に並ぶ大皿は、船串篤司さん、大江憲一さん、伊藤叔潔さんの作品
そう話すのは、「リヒト」の店主、遊座あきこさん。その後、陶芸教室に通うようになると、雑貨店を営む知り合いから、教室でつくった器を扱いたいという申し出があったのだとか。うれしく思い器を納品すると、売れ行きは上々。特別注文が入るようにさえなりました。
「そんなに喜んでもらえるなら、もっときちんと陶芸を学びたいと思ったんです」と遊座さん。いくつかの場で学んだ後、栃木県益子町で作家に弟子入りするまでになりました。
「でも、5年ほど修行を続けるうちに、結局は作家の道を断念してしまったんです。本当にすぐれたつくり手たちを目の当たりにして、自分のつくる器は普通だなと感じて」

ずらりと並ぶマグカップと、スリップウェアの皿は、益子町の作家、伊藤丈浩さんのもの
その後は、ギャラリーのスタッフに転身。陶作家の安藤雅信さんが営む多治見の「ギャルリ百草」を経て、札幌の器を扱うセレクトショップに勤めた後、独立を果たします。陶芸を習い始めてから、独立まで20年。道のりは長かったものの、そこから先はスムーズに事が運びました。
「益子で修業をしていた頃、つくり手を目指す友人たちと、励ましあったり理想を語りあったり、青春時代のようなときを過ごしていました。その後、友人たちは立派な作家になっていて。私が店を始めるといったら、快く取り扱いをOKしてくれたんです」

棚には、「修業時代の思い出の品」という専門書をはじめ、陶芸に関する書籍がずらり。ときには資料としてお客さんに見せることも

壁面の棚をよく見ると、棚板がすのこ状に。工房で使われる手板(制作途中の器をのせる台)をモチーフにしたものだとか
「友人なので、どういう苦労を経ていまの作品に至ったかを、ある程度知っていたりも。だからこそお客さんに伝えられる部分もあって」と遊座さん。人との繋がりを大切に、長年焼き物と真摯に向き合ってきたことで、「リヒト」の極上のラインアップは生まれたようです。
質感が楽しい、使い勝手のいい器を
そんな遊座さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、岐阜県土岐市で作陶する、石川裕信(いしかわ・ひろのぶ)さんの器です。

炭化焼締シリーズは、アートのような柄とスベスベとした質感が面白い。こちらは「炭化焼締 リム皿」
「石川さんは、炭化焼締という技法を使いますが、とても面白い技法なんです。“さや”と呼ばれる陶器の箱に、炭と籾殻、成形した器を入れて焼成します。いぶし焼きのような感じになり、炭と籾殻が燃えて器が炭化し、黒く色がつきます。
窯を開けるまで、どう色がつくか予想がつかないそうで。1点1点表情が違い、まるで抽象画のようだったりと、ワクワクしますね。このシリーズは大変人気で、これまでヨーロッパのアンティークを好んでいたような若い女性が、反応してくださることも多いです。
一見難しそうに見えますが、意外とどんな料理でもなじみますよ。うちでは、チーズとドライフルーツといったワインのおつまみだったり、ローストビーフなんかの肉料理をのせたり。少し深さのあるタイプなら、お刺身や和え物など、和食もよく合います」
お次は、茨城県笠間市で作陶する、船串篤司(ふなくし・あつし)さんの器です。

船串さんの定番人気のお皿「Round Plate」。こちらの写真のものは店主私物で、使い込まれて色に深みが増したもの
「船串さんは、おもに黒、白、銀彩の器をつくられます。黒の作品は、納品された段階では、銀彩を黒くして光らせたようなメタリックな感じで、皆さん驚かれますね。でも、使ううちに、落ち着いた深みのある黒に変わるとご紹介すると、『育てたい』と手に取る方が多いです。
船串さんのつくる器は、端正でモダンな印象。シェフで愛用されている方も多くいます。一方で、船串さん自身は、地元の伝統技法を作品に取り入れたり、土味の強いいかにも焼き物という感じの器がお好きだったり。そういうギャップも面白いなと思います。

横から見たフォルムも美しい。「月のクレーターのような質感も絶妙です」と遊座さん
『Round Plate』は深さがあり、スープにぴったりです。でも、“Plate”というだけあって平らにも使えて。縁がほんの少し内側に向きスプーンがかかりやすく、炒飯でもうまくすくえますよ。なんにでも使えて、万能感のある器ですね」
最後は、茨城県笠間市で作陶する、菊地亨(きくち・とおる)さんの器です。

鉄釉が施された「鉢」は、独特のフォルムと質感が目を楽しませてくれます(写真は、店主私物)
「菊地さんは、アパレルやアートに関する活動を経て、焼き物の世界に入られました。窯業指導所や作家の元で学んだこともありますが、基本的に独自の手法を取られていて。服やアートの概念も取り入れて、“何でも結びつく”という世界観で制作されているそうです。
同じシリーズでも、一点一点違うのも菊地さんならでは。たとえば同じシリーズのマグでも、形や色の濃淡が違ったり、鉱物をかけて質感を変えたものがあったりとさまざま。1個1個、形や質感を決めていくのは難しいと思うのですが、手にとる側としてはとても面白いです。
『鉢』は、菊地さんの作品の中では、個性をかなり抑えたもの。それでも世界観を強く感じますね。菊地さんの器には、“独自の世界がありながら、実用性もある”そのギリギリの面白さがあります」

木のテーブルに並ぶのは、伊藤叔潔さん、馬渡新平さん、船串篤司さん、角田智高さんのもの
遊座さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「基本的には、形はシンプルでベーシック、日々の食卓に寄り添ってくれる器がいいですね。それでいて、テクスチャーが面白いものに惹かれるようで。土味が強かったり、そうでなくても、釉薬に人の手によって生まれた“揺らぎ”を感じるというか。その人独自の質感に惹かれます。
あとは、使いやすさも大切にしています。重さ、バランス、サイズ感など、手に取ったときの感覚ですが、道具として安心感のある器を選ぶようにしています」

「リヒト」は、ドイツ語で「光」の意味。作家への敬意から、“器に光を当てるような場でありたい”という願いを込めたのだそう
「リヒト」では、年に1度ほど、アート作品の展示も開催。選ぶのは、陶作家に近いスタンスで作品づくりをする作家のもので、生活に溶け込むアートだそう。これまでに京都の和紙作家、ハタノワタルさんの展示を催したことがあり、敷板や箱は常時取り扱いもしています。
創造性の高さと、生活に根差す道具としての使い勝手のよさ、ともに大切にしながら器を選びとる「リヒト」。魅力あふれる唯一無二の器を、ぜひ手にとってみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/遊座あきこ 取材・文/諸根文奈>
Licht
011-839-2571
12:00~18:00
水・木休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
札幌市中央区大通西15丁目3-6 土井ビル2F
最寄り駅:市営地下鉄東西線「西18丁目駅」より徒歩3分ほど
https://www.instagram.com/licht_utsuwa/
◆加地学さんと船串篤司さんの二人展を開催予定(7月26日~8月3日)
◆茨木伸恵さんの個展を開催予定(8月23日~8月31日)
◆鎌田克慈さん(漆器)の個展を開催予定(9月6日~9月14日)