• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。群馬県・高崎市の、古い酒蔵の商店部分をセルフリノベーションした「matka(マトカ)」は、そんな器屋のひとつ。作家と直に交流するなかでたどり着いた、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    のんびりと丁寧な暮らしに似合う、長く使える器を

    お店の入り口にあるのは、昭和の面影を残す、印象的なガラスの引き戸。中に入ると、どこの家の食卓にもすっとなじんでくれるシンプルで静かな佇まい、それでいてずっと眺めていても飽きないさりげない個性を放つ器が並びます。

    店主は、建築デザイン業を営む吉井淳一さんと、マクロビオティックの料理教室の先生でありアロマセラピーのサロンを営む(現在、料理教室はお休み中)美晴さん夫妻。それぞれ別の分野で活動していましたが、「なにか、ふたりで一緒に表現できる場所をつくれたらいいね」と話すようになり、辿り着いたのが共通の趣味だった器を扱うお店でした。

    画像: できるだけ器は重ねず、間隔をあけて陳列。「その方の生活空間に置いたときを、うまくイメージできるようにと思って」と美晴さん

    できるだけ器は重ねず、間隔をあけて陳列。「その方の生活空間に置いたときを、うまくイメージできるようにと思って」と美晴さん

    画像: 内装は建築デザインが専門の淳一さんが手がけた。花や枝物が毎日しつらえられ、ほっと和める空間

    内装は建築デザインが専門の淳一さんが手がけた。花や枝物が毎日しつらえられ、ほっと和める空間

    企画展は器がメインですが、これまでに草木染めの洋服やエコレザーの鞄、さらに器作家さんに製作をお願いして照明器具の展示を行ったことも。また、年に1回、1カ月限定で、テーマに沿って新刊や古本をセレクトしたブックカフェに変身することもあるのだとか。

    「ふたりで模索しながら、自分たちのスタイルを築いてきました。そのベースには、暮らしの提案をしたいという思いがあります。できるだけ自然なものに寄り添って暮らすとか、歩みをちょっと止めて物事を考えて物を買ってほしいといった想いを伝えたくて。だから、器にかぎらず物づくりの根底に明確なコンセプトを持つ作家さんを紹介していければ」

    画像: お店は旧中山道に面する。商店街の並びで壁に窓がなく、光が入るのは入り口のみ。店の奥は仄暗く入り口と明暗がわかれ、昔のお家にいるような懐かしい感覚に

    お店は旧中山道に面する。商店街の並びで壁に窓がなく、光が入るのは入り口のみ。店の奥は仄暗く入り口と明暗がわかれ、昔のお家にいるような懐かしい感覚に

    そんな吉井さん夫妻に、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。まずは、京都で作陶する安齋新・厚子さんの器です。

    画像: 「青磁刻紋6寸鉢」はかなり薄手の磁器。でも、縁を少し厚めにするなど工夫がされ、薄手でも丈夫で扱いやすい

    「青磁刻紋6寸鉢」はかなり薄手の磁器。でも、縁を少し厚めにするなど工夫がされ、薄手でも丈夫で扱いやすい

    「花の模様が型に彫ってあり、模様が浮き出ているんですが、繊細すぎずかわいらしい絶妙な表情がすごく好きですね。ご主人の新さんが型をつくり、奥さまの厚子さんが彫り模様のデザインや彫りを担当するなど、共同で作業されています。

    新さんはどこかひょうひょうとされていて、厚子さんは京都人なのでしっかり者というように、ご夫婦の関係もすごく素敵。作品もそんなふたりを反映してか、カッチリつくられているのにうまく力が抜けていて。微妙な釉薬のゆらぎもいいですね」

    お次は、茨城県笠間市で作陶している桑原典子さんの蕎麦猪口です。

    画像: 「フリー猪口」は、すごくシンプルで使いやすいフォルムも魅力

    「フリー猪口」は、すごくシンプルで使いやすいフォルムも魅力

    「カチッとした美しい仕上がりですが、表面が少しでこぼこした表情をしていて、これは桑原さん独自の表現方法なんです。

    桑原さんは芸大の油絵科ご出身で、『こういう表情にしているのは、油絵の技法のベースにあるものの延長かもしれないと、最近自分で気づきました』と仰っていました。でこぼこの表情がところどころ違い、柔らかくやさしい雰囲気を醸し出していて、そんなところが、ファンの多い理由かもしれません」

    最後は、東京で作陶する若手作家「SŌK(ソーク)」の作品です。

    画像: 「きいろボウル」は、白釉に黄色の釉薬で模様をつけたもの。黒土を使っているため、白釉といってもグレー味を帯び、中性的で深淵な気配を纏う

    「きいろボウル」は、白釉に黄色の釉薬で模様をつけたもの。黒土を使っているため、白釉といってもグレー味を帯び、中性的で深淵な気配を纏う

    「SŌKは陶芸作家、鈴木絵里加さんのプロジェクトです。作家活動を始めた頃は、アクセサリーばかりつくっていらしたのですが、聞くとそれはマンションの一室で小さな釜で焼いていたため、アクセサリーのパーツなら一度にたくさん焼けるからということでした。

    でも、アクセサリーは同じパーツでも様々な色で焼く必要があり、それが釉薬のテストを兼ねていたんでしょうね。アクセサリーづくりでできた釉薬を器にどう生かすか試しながら、いまは器づくりもされています。釉薬の組み合わせが独特で、バランスのとり方もうまく、新作を見る度に驚かされて。建築デザインを勉強していらしたので、その影響もあるのかと」

    淳一さんと美晴さんは、素敵な作品を見つけると、必ず作家さんと会って話をし、その後で取り扱いについて決めていくというスタイルをとっているのだそう。

    「私たちは40代後半なのですが、年齢が近いというのも作家さん選びのひとつの基準になったりしますね。育った環境や価値観が近い人と長くお付き合いしたいという想いがあって。もちろん、年齢のゾーンが違っても、価値観や想いを共有できれば、お付き合させていただいています」

    matkaは、この秋、現在の場所から車で10分ほどのところに移転を予定(移転までは、現在の場所で営業を継続)。造成された団地の一角にある広い庭つきの物件を、ご夫婦でセルフリノベーション中なのだとか。季節の移ろいを感じながら器を選べる素敵な空間になりそうで、そちらもとても楽しみです。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/吉井淳一 取材・文/諸根文奈>

    matka(マトカ)
    027-386-2428
    11:00~19:00
    火~金休み  ※臨時休業はSNSでお知らせしています
    群馬県高崎市本町122
    最寄り駅:JR「高崎駅」
     ※移転先は「高崎駅」よりバスで12分、バス下車後徒歩5分ほど
    https://matka-str.com(オンラインショップ)
     ◆7月18日より桑原典子展を開催予定


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