• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。富士山の湧き水が街のいたるところに流れる水の街、静岡県三島市にある「chigiri(ちぎり)」は、“ご飯がおいしそうに見える”日常の器を並べる器店。店主の西島さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    年老いた先を見据えて、やりたいことに挑戦

    「夫の祖父母の家が近くにあった縁のある場所に、更地を見つけたんです。商店街の中だったんですが、ここで暮らしたいねという話になり、家を建てることになったのが始まりです」と話すのは、静岡県三島市にある器屋さん「chigiri(ちぎり)」の店主、西島千恵子さん。敷地には、中庭をはさんで手前に店舗、奥に自宅が建てられています。

    画像: 店先にある柳が風情たっぷり。「家を建てたときに、設計士さんが『柳がいいよね』とまるで決定事項のように仰って、柳になりました(笑)」と西島さん

    店先にある柳が風情たっぷり。「家を建てたときに、設計士さんが『柳がいいよね』とまるで決定事項のように仰って、柳になりました(笑)」と西島さん

    画像: 2015年2月にオープン。美しいガラスの照明器具は、開店当初からおつきあいのある、ガラス作家、蠣﨑マコトさんによるもの

    2015年2月にオープン。美しいガラスの照明器具は、開店当初からおつきあいのある、ガラス作家、蠣﨑マコトさんによるもの

    西島さんが陶器を好きになったきっかけは、大学時代に所属した美術部。窯やろくろが自由に使え、西島さんは学生時代を通して作陶を楽しまれたそう。「でも大学を出た後は、普通に社会人として仕事をしていました。ただ、料理がすごく好きだったので、料理はよくつくっていて。そういった生活の中で、作家さんという人がいることを知って、展示会に足を運ぶようになりました」

    あくまで使い手として器と関わる日々。しかし、ふいに器屋を始めることとなります。

    「家を建てるというタイミングに、出産とちょっとした病気をするという、いろいろなことが重なって。そのとき思ったのは、この先20年、30年と仕事を続けていくとしたら、どうせなら好きで楽しいことをやっていきたい、そうした先に年老いた自分がいてほしいということでした」

    画像: 趣のある酒器が並ぶ。片口は八田亨さん、お猪口3点は川口武亮さんの作品

    趣のある酒器が並ぶ。片口は八田亨さん、お猪口3点は川口武亮さんの作品

    画像: 三島は富士山からの湧き水が市内のあちこちで流れる水の街。川べりの山野草を摘んできて、お店に飾ることも多いのだそう

    三島は富士山からの湧き水が市内のあちこちで流れる水の街。川べりの山野草を摘んできて、お店に飾ることも多いのだそう

    画像: 友人の木工作家、中西洋人さんが手がけた看板。看板の上部にある、木材の割れをつなぐ手法を「ちぎり」といい、店名の由来になっています

    友人の木工作家、中西洋人さんが手がけた看板。看板の上部にある、木材の割れをつなぐ手法を「ちぎり」といい、店名の由来になっています

    画像: 店の裏には中庭があり、季節の移り変わりを感じながら、ゆったりと過ごせます

    店の裏には中庭があり、季節の移り変わりを感じながら、ゆったりと過ごせます

    そうして何がしたいか考えたときに、自然に頭に浮かんだのが器屋さんでした。それまで店に勤めた経験はなかったそうですが、思い切って器屋をスタート。いまでは、遠方からもお客さんが訪れる人気店となっています。

    “先入観を持たずに、ひたすら試す”を実践

    そんな西島さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
    まずは、神戸で作陶する叶谷真一郎(かのうやしんいちろう)さんのお皿です。

    画像: 緻密な印が魅力的な「灰粉引三島細リム皿」。色はベージュですが、灰釉により光の加減で青みがかっても見える美しい皿

    緻密な印が魅力的な「灰粉引三島細リム皿」。色はベージュですが、灰釉により光の加減で青みがかっても見える美しい皿

    「松本のクラフトフェアで器を買わせていただいたのが、叶谷さんとの最初の出会いです。叶谷さんの器は、派手で人目を引くというよりは、すごく近しくてやさしい器ですね。素朴さが料理を引き立ててくれて、とても美味しそうに見えます。

    このお皿は、三島という技法でつくられているんですが、すごく端整ですね。こんなに細かく印を押すのは、叶谷さんぐらいじゃないかなっていう。

    奥さまが仕事のサポートをされているんですが、奥さまはわりと男気溢れるような感じの方。逆に叶谷さんはとても細やかで、おふたりのバランスがすごく面白いんです。この綺麗な三島は、叶谷さんの性格がよく表れているように思いますね」

    お次は、兵庫県で制作されているふじい製作所の作品です。

    画像: 手前が「白漆リム皿」、右奥が「飯椀」。左奥は「コーヒーキャニスター」で、木の種類は外側がブラックウォールナット、内側が栗

    手前が「白漆リム皿」、右奥が「飯椀」。左奥は「コーヒーキャニスター」で、木の種類は外側がブラックウォールナット、内側が栗

    「ふじい製作所さんは、ご夫婦でやられていて、夫の健一さんが木地をつくり、奥さまの美奈子さんが漆を塗っています。トチノキでできた『白漆リム皿』は、表面に砥の粉(黄土を焼いてつくった粉)をまいた蒔地(まきじ)仕上げで、ざらっとした質感です。砥の粉によって丈夫にもなるので、漆といってもフォークなんかも使えますよ。

    ふじいさんはデザインがとても美しく、『飯椀』の高台は滑らかに下にすぼまっていて、ご飯がおいしく見えるようにつくってらっしゃるんですよね。今回ご紹介はしてないですが、汁椀は高台がすっと立つような形で、『飯椀』とはデザインが違います。漆器がいまの時代の生活になじみやすいように、新しい形にされているように思います。

    『コーヒーキャニスター』はすごく気密性がよく、コーヒー豆のほかに茶葉などを入れるのにも向いています。蓋をのせると、ふうーっと沈むんですね。開ける時もゆっくり抜かないと開かないぐらいの精度の高さです。

    おふたりはほんかわした可愛らしいご夫婦で、とても誠実で丁寧な仕事ぶり。やり取りにもそんな姿が垣間見られ、最初に取り扱いをお願いしたときに、『細くても長くおつきあいできたら、すごくうれしいです』とおっしゃっていたのを、よく覚えています」

    最後は、東京都練馬区で作陶する林健二(はやしけんじ)さんのお皿です。

    画像: 二色の釉薬を掛け分けてつくる「掛分け釉リム皿」。大らかな丸の模様がなんとも愛らしい

    二色の釉薬を掛け分けてつくる「掛分け釉リム皿」。大らかな丸の模様がなんとも愛らしい

    「掛分け釉のお皿は毎回デザインを結構遊ばれていて、こちらは水玉というか丸なんですが、鳥やダイヤの柄などいろいろあります。鳥といっても林さんの手にかかると、イラストみたいな感じに落とし込んだ、“存在の線”とでもいうようなシンプルなもの。引き算がすごく上手で、面白いなあと思います。

    それに林さんの器は、すごく使い勝手がいいんですよ。形がすごく綺麗に整っていて、無理がない器なんです。そして、それが嫌味な感じじゃないのが林さんだなと思います」

    器選びの基準は、「日常使いの器で、料理が美味しそうに見えることが一番」と話す西島さん。少しでも気になった作家さんがいたら、まずは自身で購入して使ってみるのだそう。

    「林さんの水玉のお皿なんかも、一見派手に見えるんですけど、料理を盛りつけてみると『おいしそうだね』っていう感じになるんですよ。実際に使ってみると、“意外と”ということがあったりします」

    そのため、ご自宅の食器棚の中は、形や柄、テイストもばらばらの器が大量にしまわれ、ひっちゃかめっちゃかなのだとか。「SNSとかで、きれいに片付いている食器棚の写真を見かけたりしますが、すごいなって思います」と笑います。

    器屋店主さんの食器棚というのは、器の量は多けれどぴしっと整えられたイメージだったので、意外でした。でも、そうやって身を挺して(!)見つけ出された器は、どれもこれも素敵なものばかり。先入観を捨て集められた宝物のような器に、ぜひ出合いに訪れてみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/西島千恵子 取材・文/諸根文奈>

    chigiri(ちぎり)
    055-941-9416
    11:00~17:00
    日・月(または火)休 ※変更になる場合もあるので、公式HPでご確認ください
    静岡県三島市中央町2-37
    最寄り駅:JR東海道本線「三島駅」より徒歩14分、伊豆箱根鉄道駿豆線「三島田町駅」より徒歩4分 
    車:東名高速道路「沼津IC」、新東名高速道路「長泉沼津IC」
    http://utuwa-chigiri.com/
    https://chigiri-online.stores.jp/(ネットショップ)
    ◆二階堂明弘さんと沼田智也さんの二人展を開催予定(3月27日~4月4日)
    ◆器の金継ぎ修理も受け付けています


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