変わるきっかけをくれた“器”をライフワークに
創業百何十年という老舗と、カフェや雑貨屋さんなど新しいお店がなかよく立ち並ぶ新潟市中央区の上古町商店街。若い人からお年を召した方までそぞろ歩くその通りに、今回ご紹介する器屋さん「ヒメミズキ」はあります。
店主を務めるのは、元はインテリアショップでインテリアコーディネーターの仕事をしていた小笹教恵さん。お客さんが望むインテリアに近づくよう、家具からカーテンまでトータルでコーディネートして提案するというお仕事だったそう。
「お客さまに素敵な暮らしの提案を」と仕事ではやっていたにも関わらず、ご自身は多忙で、職場から家に帰ると寝るだけの日々。“素敵な暮らし”とは縁遠い生活だったそう。
「これじゃあダメだと思って立ち止まったときに、自分の暮らしに寄り添ってくれたのが器でした。気に入った器を買ったら『今日は頑張ってご飯つくろう』とか、花器を手に入れたら『素敵なお花を家に飾ろうかな』とそんな風に思えるようになって。それがきっかけで、忙しくても時間をつくるようになり、心地いい暮らしに変わっていきました」
そうやって暮らしを意識するようになってからは、「インテリアももちろん大切だけど、どんな風に暮らしていくかを提案できたら」と考えるように。そうして、生活を変えるきっかけを与えてくれた“器”を仕事にしたいと思い立ち、器屋さんを開いたのだそうです。
「食事はもちろん、お花を活けるのもそうですし、器って日本の文化がぎゅっと詰まっているんですよね。器を通して日本の文化に触れてほしくて、お茶会やお花の教室などいろいろなワークショップを、オープン当初からやってきました」
新潟市では歴史的な建物を保全し、格安の料金で市民が利用できるようにしていることから、そういった場所でお茶会イベントを行ったことも。店の器を運び入れ、茶室でお抹茶を飲んでもらうという情緒あふれる会になったのだそう。いまはコロナ禍で、ワークショップはほとんどできないそうですが、落ち着いたらまた再開したいとのことでした。
末永くおつきあいできる、人となりを見極めて
そんな小笹さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、栃木県益子町で作陶する宮田竜司(みやたりゅうじ)さんの器です。
「うちの作家さんの中では、比較的最近おつきあいが始まった方ですが、それこそずっと前から、益子の陶器市がある度に、宮田さんのブースに行って器を買い、『素敵だなぁ、いつかお願いしたいなぁ』と、何年も想いを温めてからお願いしました。
益子で作陶されていますが、ぽってりとした形の益子焼とはだいぶ違うイメージですね。宮田さんは、すっきりとしたスタイリッシュな作品が多いのですが、そのほうがうちの食卓には合っていて。何気ない料理を華やかに見せてくれますし、端が薄くて緊張感はありますが、その緊張感が私には逆によくて、ていねいに生活しようって思えるんです。
宮田さんは陶器も磁器もやる器用な方。それに、端正なフォルムも得意ですが、国展にはどっしりした形のものを出品されていて、幅広い作風です。絵もものすごく上手で、染付など絵付けの器も手がけなるなど、才能が溢れるほど!」
お次は、新潟県燕市で制作されている、大橋保隆(おおはしやすたか)さんの器です。
「鎚起銅器は、一枚の平らな銅板を金鎚で叩いて形にしていくものです。私も体験したことがあるんですが、本当に大変。コツさえつかめば簡単に形を変えられるというわけではなく、ただひたすら叩き続けないと、形になっていかないんですよ。大橋さんの公式サイトに制作風景の動画があるので、そちらを見るとよくわかります。森の中で仙人のように叩き続けていたりして、集中力が素晴らしいです。
酒器は、銅の成分でお酒の味がまろやかになりますし、薄手で口当たりがいいので、飲みやすい。男性の方がよく選んでくれますね。ほかには、なんといっても調理器具がおすすめ。熱伝導率が高いのでお湯がすぐ湧き、青菜などの野菜を茹でると、銅の働きで色鮮やかに仕上がるんですよ。
銅鍋というと緑錆を気にされるかもしれません。でも、緑錆は時々しか使わないと出ることが多く、日常的に使えばまったく出ないといってもいいほど。私、けっこうズボラで、水切りかごに伏せておいたりするんですが、それでも全然錆びません。経年変化も美しく、値段は張りますが、まさに一生ものです」
最後は、埼玉県行田市で作陶する岩田智子(いわたともこ)さんの花器です。
「岩田さんは、ろくろではなく手びねりという技法で作陶されています。ろくろでは出せない微妙な曲線とか、ゆらぎというんでしょうか、独特な形の作品が多い方です。
もともと大学で絵を専攻されていたので、色にたいして強いこだわりがあるようです。釉薬をかけた後、「炎に任せたら、こういう色合いになりました」というのではなく、はっきりした色のイメージを頭に描いて、炎とともにその色をどうつくりあげていくか、熱心に研究されています。
見た目はふんわりした女性らしい方ですが、内面はとてもストイック。最初は、『くさのうつわ』という四角い花器だけを3年ほどつくってらっしゃいました。納得がいくものができたといって違うタイプの花器をつくり始め、それも何年かやって満足された後、ようやく食器もつくるように。ひとつを突き詰めてから次に進んでいく、かっこいい方です」
小笹さんは、作家さんを選ぶとき、何を大切にされているのでしょうか。
「まずは自分で使ってみていいなと思うことが前提ですが、あとはクラフトフェアや個展に何度も足を運んでお話ししてみて人となりを知り、好きになれる方ですね。一度お願いしたら、できるだけずっと一緒に仕事をしていきたいと思っているので。
どんな方なのかは私もすごく気になりますし、お客さまにも『この作家さんはこんな方で、こういう考えでつくっているんですよ』ってお話できる。語れる人とお仕事したいなというのがあります」
取材中も、「大橋さんはお父さまも鎚起銅器職人で、『憧れの人は父』っていうんです。それがすごくかっこいいなと思って」「岩田さんは、そこをそれほどまでにこだわっているんだと、話を聞けば聞くほど楽しくて、大好きなんです!」など、作家さんのことをうれしそうに話す小笹さん。作品だけでなく、作家さん自身に惚れ込んでらっしゃるのがよくわかりました。
店主が心の底から慕う作家さんの作品が並ぶ「ヒメミズキ」。暮らしを変えてくれるような素敵な器に出合えること間違いありません。
余談ですが、Instagramでは、お店のアカウントのほかに小笹さんの朝ごはんを記録するアカウントも。朝食はどれもとびきりおいしそうで、器使いの参考にもなるので、ぜひ覗いてみてくださいね。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/小笹教恵 取材・文/諸根文奈>
ヒメミズキ
025-201-9252
11:00~18:00
火休
新潟県新潟市中央区古町通2番町528
電車:JR上越新幹線、信越本線ほか「新潟駅」より徒歩25分(路線バスあり)
車:国道8号線(新潟バイパス)の桜木ICを下りて新潟駅方面へ
https://himemizuki.com/
https://www.instagram.com/himemizuki/?hl=ja
https://www.instagram.com/himemizuki_hm/?hl=ja
(朝ご飯の記録用)
◆グループ展(伊藤亜木、岩田智子、大橋保隆、竹本ゆき子、角掛政志)を開催予定(7月3日~7月11日)