• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。東京・阿佐ヶ谷の商店街の中にある「zakka土の記憶」は、前身の雑貨店だった頃を含めると、30年ほどの長きに渡って愛され続けてきたお店。店主の小林さん夫妻に、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    日々の生活を楽しく、豊かにする道具を

    地元の買い物客でいつも賑わうパールセンター商店街。阿佐ヶ谷駅から南に伸びるその通りを5分ほど歩いた先に現れるのが、作家ものの器と生活雑貨を扱う「zakka土の記憶」です。お店がある2階にあがると、先ほどまでの喧騒は消え、静かで穏やかな空間が広がります。

    画像: 白壁を背景にシンプルな棚が並ぶ店内。その棚にゆったりと器が並べられ、落ち着いて器選びができます

    白壁を背景にシンプルな棚が並ぶ店内。その棚にゆったりと器が並べられ、落ち着いて器選びができます

    画像: 陶器や磁器、木工、ガラスなど、幅広い器が揃います。写真は、滋賀県の作家、七尾うた子さんの作品で、土の持つ力強さとアンティークな雰囲気が魅力

    陶器や磁器、木工、ガラスなど、幅広い器が揃います。写真は、滋賀県の作家、七尾うた子さんの作品で、土の持つ力強さとアンティークな雰囲気が魅力

    画像: 元気がもらえる桑原えりこさんのイエローの器。手前の木工は、船山奈月さん、加賀雅之さんによるもの

    元気がもらえる桑原えりこさんのイエローの器。手前の木工は、船山奈月さん、加賀雅之さんによるもの

    お店を営むのは、小林知之さんと順子さん夫妻。阿佐ヶ谷がある杉並区で生まれ育った知之さんは、商売を営んでいた祖父の影響もあって、いつか自分も店を持ちたいと考えていたそうです。そして、いまから30年近く前に「日々の生活が楽しくなるもの、豊かにしてくれるものを扱いたい」と、「adorn(アドーン)」という雑貨店をスタートさせました。

    その頃、順子さんは、勤めていた会社がいきなり倒産。不安に駆られながらも、骨董と器好きの祖父、料理上手で祖父が集める器を上手く使いこなす祖母の影響で、以前から器好きだったことから、「故郷に帰って器と雑貨の店をやれたら」と考え始めます。そんな折、友人に「知人が雑貨店を開いたから、話を聞いてみたら」とすすめられたそうで、その雑貨店こそが知之さんのお店でした。それがきっかけでお店を手伝うことになったそうです。

    画像: 出かけた先で器を見るのも小林さん夫妻の楽しみのひとつ。日本各地のクラフトフェアに出向き、新しい作家さんとの出合いも大切にされています

    出かけた先で器を見るのも小林さん夫妻の楽しみのひとつ。日本各地のクラフトフェアに出向き、新しい作家さんとの出合いも大切にされています

    画像: 手づくりのカゴやカトラリーなど生活雑貨も充実。製造元と相談しながらつくった箸は、先が細めで使いやすく、リピーターも多い

    手づくりのカゴやカトラリーなど生活雑貨も充実。製造元と相談しながらつくった箸は、先が細めで使いやすく、リピーターも多い

    画像: 伊賀の作家、山本忠正さんの「炊飯土鍋」は、伊賀の陶土でつくったもので人気のある品

    伊賀の作家、山本忠正さんの「炊飯土鍋」は、伊賀の陶土でつくったもので人気のある品

    「adorn」では、はじめ工業製品の器をメインに扱っていましたが、作家ものを少しずつ増やしていったのだとか。というのは、自分たちが年を重ねるにつれ、ある想いが強くなっていったから。

    「工業製品だと、長く使い続けていってもらえるのかなと感じて。なかには手づくりもありますが、右から左へと流れ作業でつくられたもの。壊れてもまた同じものを買い直せるんですよね。作家さんの作品は、ぴったり同じものを手に入れるのは難しく、その分使っていて愛着がわきます。手づくり感があって温もりのある、長く使って楽しめる器を中心に扱っていきたいと思うようになって」

    そうして、2005年に「zakka土の記憶」に屋号を変え、再スタートをきりました。

    画像: 柔和で美しい色合いのカップ&ソーサーは、佐賀県有田町で作陶する中原真希さんのもの

    柔和で美しい色合いのカップ&ソーサーは、佐賀県有田町で作陶する中原真希さんのもの

    手に取るたびに、魅力を感じる器を

    そんな小林さん夫妻に、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
    まずは、福岡県那珂川町で作陶する、佐藤もも子さんの器です。

    画像: やさしいタッチで描いた染付が人気の佐藤もも子さん。左から右回りに、「染付三方天竺牡丹文七寸菊割皿」「染付掛分鳥木文切立四方小皿」「染付番長文オーバル六寸皿」

    やさしいタッチで描いた染付が人気の佐藤もも子さん。左から右回りに、「染付三方天竺牡丹文七寸菊割皿」「染付掛分鳥木文切立四方小皿」「染付番長文オーバル六寸皿」

    「佐藤さんは、ゆるりとした、すごく柔らかい感じの染付をつくっていらっしゃるんですが、初期の頃の伊万里の作風が好きということで、初期伊万里の大らかさみたいなものも作品に描けたらと話されています。

    子どもの頃から手を動かすのが好きで、図工や美術が好きだったそうですが、意外にも絵を描くのは苦手だったとか。唐津の岡晋吾さんに弟子入りされていたのですが、『先生から、うまく描けなくていいから自分の線を探しなさいといわれて、それを常に心に留めて描いてるんです』と話されていたのが、すごく印象的でした。

    独立してすぐの頃に、作品をカバンにつめて上京し、器屋さんをまわっていらっしゃって、うちにも来てくださいました。『作品を見てください』といわれて拝見したんですが、すごくいいなと思って、お願いすることになったんです。その翌年にうちで佐藤さんの個展をしたのですが、関東では初めてということで、初日にすごくドキドキされていて。親心のような思いで、一緒に緊張したのを覚えています」

    画像: 佐藤もも子さんといえば染付ですが、ほかに瑠璃釉や白磁も手がけ、ごく最近では色絵にも挑戦されているのだとか。写真は「淡瑠璃陽刻文木瓜小鉢」

    佐藤もも子さんといえば染付ですが、ほかに瑠璃釉や白磁も手がけ、ごく最近では色絵にも挑戦されているのだとか。写真は「淡瑠璃陽刻文木瓜小鉢」

    お次は、富山県富山市で制作されている、ガラス作家、サブロウさんの器です。

    画像: モザイク模様の器を中心に制作するサブロウさん。手前から右回りに「角深鉢大a白」「角皿すみあげ中bきょうふじ」「楕円皿中bふたあい」

    モザイク模様の器を中心に制作するサブロウさん。手前から右回りに「角深鉢大a白」「角皿すみあげ中bきょうふじ」「楕円皿中bふたあい」

    「ガラスといっても、吹きガラスではなく、窯で焼成するキルンワークという技法でつくられているんです。サブロウさんの説明によると、ガラスを砕いたピースを並べて模様をつくり、隙間にガラスの色粉を詰めてから、窯で焼成して一枚の板に。その板をきれいに磨いて形を整えてから、鉢にするなら鉢の型を使って形づくったものをまた焼成して、やっと完成するそうです。一枚一枚を手作業でやっていらして、気が遠くなるような手間がかかっていますね。

    サブロウさんは、20代の頃にワイン関係の仕事でドイツに滞在されていたそうで、そのときにベルリンで見た、ガラスブロックで建てられた教会に感動して、ガラス工芸の道に進んだと話していました。

    ご出身が滋賀県で、このモザイク柄は琵琶湖の水面をイメージしているそうです。ガラスですが、厚みがあってすごく丈夫。ちょっと重さはありますが、そのぶん安定感があって使いやすいですね」

    最後は、岐阜県多治見市で作陶する桑原(くわはら)えりこさんの器です。

    画像: 「輪花オーバルプレート黄色」と「ねじねじカップ」。使うほどに色に深みが増し、育てる楽しさもあります

    「輪花オーバルプレート黄色」と「ねじねじカップ」。使うほどに色に深みが増し、育てる楽しさもあります

    「堺市で開催されている『灯しびとの集い』というクラフトフェアがあるのですが、一昨年にそこで初めて作品を拝見しました。すごく印象的な色で、目に飛び込んできて。桑原さんは大学で陶芸を専攻された後、イタリアの窯業学校で学ばれたそうです。といっても、もともとはイタリアで陶芸を学ぶつもりはなかったそうで、イタリアを旅していたときに、マジョリカ焼きというイタリアの伝統工芸に出合い、すごく惹かれたのがきっかけだったとか。

    マジョリカ焼きに惹かれたのもそうですが、もともと古い焼き物が好きで、イタリアの骨董市で見つけたフランスのアンティークの器にインスピレーションを受けてつくったのが、この黄色いシリーズです。黄色の釉薬をかけていると思ったら、実は違って。もとは粉引で、化粧土に黄色の顔料を混ぜてこの色を出しているそうです。インパクトのある色なんですけども、柔らかくて強すぎず、いい色ですよねぇ」

    画像: 茶色の部分は鉄釉。「古い焼き物のような雰囲気が出せたら」と、鉄釉をにじんだ感じに

    茶色の部分は鉄釉。「古い焼き物のような雰囲気が出せたら」と、鉄釉をにじんだ感じに

    画像: それぞれの器を、とても詳しく丁寧に説明してくださる夫妻。器や作家さんにたいする想いがひしひしと伝わってきました

    それぞれの器を、とても詳しく丁寧に説明してくださる夫妻。器や作家さんにたいする想いがひしひしと伝わってきました

    小林さん夫妻は、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「形や色合い、質感など、そしてアイテムバランスも含めて、よく練り込んでいる作家さんですね。全体的な感覚のよさを感じられるような方です。うまくいえないんですけど、たとえば購入した方が家で器を取り出して使ったときに、『やっぱりいいな、買ってよかったな』と、ずっと思えるような器を想像しながら、選ぶというか。あとは、普段使いしやすい価格帯というのも意識しています」

    いまではすっかり人気作家のひとりとなった佐藤もも子さんも、おふたりが出会ったときは独立してまだ間もないとき。そんな佐藤さんの作品の魅力をひと目で気づけたのも、長年器屋さんを営み、使う人のことを頭に浮かべながら丁寧に器を選びとってきたからこそなのでしょう。使うたびに改めて魅力を感じる、かけがえのない一枚を探しに、ぜひ足を運んでみてくださいね。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 手に取るたびに、魅力を感じる器を

    <撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>

    zakka土の記憶
    03-3311-6200
    11:00~18:00
    水・木休
    東京都杉並区阿佐谷南1-34-11-2F
    最寄り駅:JR中央線「阿佐ヶ谷駅」より徒歩5分、東京メトロ丸ノ内線「南阿佐ヶ谷駅」より徒歩3分
    https://www.tutinokioku.com/
    https://www.instagram.com/zakka_tutinokioku/
    ◆桑原えりこの個展を開催予定(7月10日~7月18日)



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