人とのつながりで学んだ食の安心安全
店主の黒須貴仁さんは栃木県のご出身。栃木のおいしいパン屋さんというと真っ先に名前が挙がることの多い「ペニーレイン」で、パンづくりの基礎を習得。その後、六本木の「ジョエル・ロブション」に移り修業を続けますが、その頃に、妻の美貴さんの伝手で、脂質研究を行う方と知り合うことになりました。
「その方の元で、油についてひと通り勉強しました。油の中でも積極的に摂りたいのが、オメガ3脂肪酸なんですが、オメガ3脂肪酸はアマニ油に多く含まれているものの、アマニ油は熱に弱かったり、空気に触れるとすぐに酸化する性質があるので、パンには使いづらいんです。そこで、替わりにアマニシードを使おうと考えて」
そうして誕生させたのが、アマニシードを配合した「亜麻仁全粒粉食パン」です。アマニシードを生地にたっぷり練り込み、外側にもトッピング、アマニシードの独特の香ばしさが口いっぱいに広がります。生地は全粒粉100%とは思えないほど、ふわふわでしっとり。
開業準備のために栃木にいったん戻った黒須さんは、食パン専門店を運営する会社に、開業までという約束で入社。その会社は農業事業がメインで、無農薬の小麦や野菜を栽培しており、社長から農薬についていろいろと教えてもらうことになりました。
「油について勉強した後、同じ方から添加物についても教わって。栃木に戻ってからは、農薬について学んだ。いろいろ知っちゃったから、自分の店を持つときになって、そういうものは使いたくないなぁと思って。完全に取り除くのは無理なので、なるべく使わないように心がけていますね」
工夫を凝らし新鮮な味わいに
ハーブを忍ばせて香りで変化をつけたりと、はっとするような味のパンが多いのも、「メゾンクロス」の魅力。黒須さんはパン職人を目指す前に、創作フレンチのレストランで修業し、オードブルを担当していたそうで、そんな経歴になるほどと頷けます。
クレームドゥーブルという乳製品を使ったクリームを焼き込んだ「ブルーベリーのブレッサンヌ」は、ほんのり酸味があるやさしい甘さのクリームと、フレッシュのブルーベリーの甘酸っぱさがマッチし、絶妙な味わいです。
「以前はとりわけ食の安全を意識していたわけではなかった」というものの、人との出会いによって食の安全について、自然と学ぶことになった黒須さん。そうして選んだ食材と、修業で身につけた技やセンスを合わせ、鮮やかに記憶に残るパンを生み出しています。
<撮影/山川修一 取材・文/諸根文奈>
メゾンクロス
03-6336-5204
10:00~18:00
日・月休み
東京都世田谷区用賀4-28-20 1F
最寄り駅:東急田園都市線「用賀駅」
https://www.instagram.com/maison_kurosu/