発酵の力を最大限に引き出して
昭和初期に建てられた古民家を再生した複合施設「上野桜木あたり」。その一角に、今回ご紹介するサワードウブレッドの専門店「VANER(ヴァーネル)」はあります。「VANER」は、サワードウブレッドだけでなく、北欧のベーカリーなら必ずといっていいほど置いてあるシナモンロールやカルダモンロールを並べる、北欧スタイルのパン屋さんでもあります。
サワードウブレッドとは、ヨーロッパで昔からつくられている伝統的なパンで、小麦やライ麦から起こしたパン種=サワードウを使い、小麦と塩と水のみでつくるとてもシンプルなパンです。

通りから脇道に入った落ち着いたエリアに建つ「上野桜木あたり」。三軒の古民家が路地でつながっています

路地の入口にビアホールがあり、その先に塩とオリーブオイルの専門店、さらに「VANER」へと続きます

ガラス戸を開けると、モダンで温か味のある素敵なインテリアが広がります。2018年にオープンし、今年で4年目に突入
かつて、オーストラリアに留学し、帰国後に就職活動を始めたヘッドベイカーの宮脇司さん。英語を使う仕事を探していましたが、その頃YouTubeで見た「タルティーン・ベーカリー」の動画に共感し、パン職人を目指すことになったのだとか。
「タルティーン・ベーカリー」とは、サンフランシスコの有名店で、世界中に広がったサワードウムーブメントの火付け役。“タルティーン”の人たちが生き生きとパンを焼き、それをおいしそうに食べている姿にくぎ付けになり、「こういう素敵な大人になれるんだったら、パン屋さんを目指そうって思ったんです(笑)」と楽し気に話します。

「クロワッサン」や「シナモンロール」などのペストリー系も絶品。パンはすべて北海道産と栃木県産の小麦を使って焼き上げています

ヘッドベイカーの宮脇さん。サワードウに魅了された後、ワーキングホリデーで訪れたノルウェーのオスロでその製法を学びました
そんな意気揚々とパンづくりができる理由こそ、サワードウブレッドの魅力でもあります。
「その動画では、『小麦と塩と水、空気中に棲んでいる菌、もしくは小麦についている菌を培養してできた発酵種を使って、ていねいにつくると、魔法が起きておいしいパンが生まれる。発酵の奥深さにこの仕事のおもしろさがあって、毎日飽きることがない』といっていたんです」
「サワードウブレッド」を早速いただいてみると、しっかり焼かれた皮は香ばしく強烈な旨みが、中の生地は水分量多めでしっとりもっちり、鮮やかな酸味と旨みが迫ってきて、噛みしめる度にそれがじゅわーっと広がります。発酵がもたらす重層的な味わいが楽しめるパン。

こちらが「サワードウブレッド」。材料が同じでも、そこに棲む菌によって味に違いが生まれるのが特徴です

大きな気泡がたくさん。常温で1週間ほど日持ちします
乳酸菌や酢酸菌などの菌の活動によって生まれてくる、発酵でしかだせない味をシンプルにそのまま味わうパンだけに、発酵が要になります。
「よく味噌づくりにたとえるんですけど、味噌は数カ月とか半年、さらにそれ以上、発酵させないと味噌の味にはならない。そういう味の変化や深まり方を、パンで最大限生み出しているのがサワードウブレッドです。だからこそつくり手の考えがすごく要求される。もちろん発酵はコントロールできないので、発酵にゆだねる部分はありつつも、その中で何を求めるか明確にしないといけないと思っています」

サワードウを使った「シナモンロール」も人気の品。サワードウの酸味とうま味が、シナモンの華やかな香りとマッチ

「カルダモンロール」はスウェーデン発祥のパンで、こちらにもサワードウを使用。カルダモンの爽やかな香りとバターの甘みが溶け合って、なんともいえないおいしさ
発酵時間は12~24時間の間で、季節や気候に合わせて変更。酵母は生き物で、アクティブなときもあればその逆もあり、その様子を見ながら、温度も細やかに調整しています。「たとえば、発酵のスタート時に1℃上げて、その後2℃下げた状態で何時間かキープし、冷蔵庫で低温発酵させるときも、温度をその都度変えるなどしていますね。1℃違えば、全然味が変わってしまうので」
季節にも敏感に対応します。「夏だからこの温度で、このやり方で」というだけでは十分ではなく、1年前や2年前の夏と比べて、温度などを見極めていくのだとか。「でもだからこそ、サワードウはおもしろい」と宮脇さんはいいます。

基本の「サワードウブレッド」を食パン型にした「サンドウィッチローフ」。ハーフサイズもあり

北欧スタイルの浅煎りコーヒーを提供するロースター「フグレン」のコーヒーも、テイクアウトできます(焙煎豆も販売)。柔らかく果実味のあるフレーバーが特徴
「自分たちはもっと楽しくパンづくりと向き合いたくて。そして、よりおいしいサワードウを目指していきたい」と話す宮脇さん。いまのクオリティに満足するのではなく、発酵の魔法を磨き続けて、みんながあっと驚くようなとびきりのおいしさを。そんな「サワードウブレッド」の魅力を、どうぞ食べて確かめてみてください。

<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
VANER
03-5834-8137
8:00〜15:00(売り切れ次第終了)
月・火・祝日休み
東京都台東区上野桜木2-15-6
最寄り駅:JR山手線「日暮里駅」
https://www.instagram.com/vanertokyo/