(『天然生活』2022年5月号掲載)
柔軟な発想力で木々と向き合う、紀州の曲物師
自由度の高さが木工の面白さと話す西嶋さん。創意工夫を重ね、温もりあふれる木の道具を楽しみながらつくりつづけています。
「耐久性が高く、色味が美しい」
紀州材の魅力について、そう話すのは木工職人の西嶋良雄さんです。
父を追って木工の道に進んで56年。ここ数年はおもちゃや台所道具など和歌山土産にもなる小物を多く手がけ、その数は試作品を入れると200種類にもなるといいます。
「木工は自由なのがいいところ。紀州材のよさを生かして、どんなものをどうやってつくるか、考えて工夫するのが楽しいですね」
なかでも杉とひのきを使った2種類の「紀州わっぱ御膳」は、佇まいのよさと機能性を備える評判の品です。
「日用品は使いやすさが重要」と、表面をごく薄く塗装して、木の風合いや吸湿性を残しながら水や油が染みにくくし、箸もセットに。さらに、炊飯や使用後のわっぱの湿気とりに使える紀州備長炭のおまけ付きです。
「木の手触りや香りって、心が落ち着くでしょう。生活に木のものがあると、やっぱりいいんですよ。わっぱ御膳で和歌山の木と備長炭を楽しんでもらえたら」
西嶋木工(にしじまもっこう)
和歌山県西牟婁郡上富田町南紀の台15-18
TEL.0739-47-2687
紀州のチャレンジ精神で現代の暮らしに合う漆器を
紀州漆器の可能性を拓く、木地師の挑戦
モダンさを支えるのは伝統の力。漆器の雅な世界観を伝える製品づくりを、若き5代目が牽引します。
紀州は会津、山中、越前に並ぶ漆器の4大産地のひとつ。
下地の黒漆の上に朱漆を塗り、表面を研いで下地を見せる「根来塗(ねごろぬり)」という技法が特徴です。
この根来塗を進化させた現代的な漆器で注目を集めるのが、大正5年創業の「島安汎工芸製作所」。中心となるのは32歳の5代目、島圭佑さんです。
「紀州は昔からさまざまな塗料や技法を前向きに取り入れ、時代に合わせた漆器づくりに挑戦してきた産地なんです。それを邪道とする向きもありますが、漆器は日々使って育てていくもの。伝統を大事にしながら、使ってもらえる漆器を提案するのが私の役目です」
島さんが開発した「Te Pot」は、手のひらサイズの室内用プランター。
木地に熊野古道の森林で間引かれた間伐材が使われ、白や黒の塗りに金色の下地が浮かび上がる「変根来(かわりねごろ)」や、木の節をあえて生かした拭き漆風の仕上げなど、独自性が光ります。
「間伐材はそのままでは使えないため、集成材に加工後、重箱を組む技術を応用して木地をつくります。木地づくりから塗り、磨き、研ぎ出しに専門の職人がいてすべての工程をていねいに行うからこそ、新しい漆器を表現できるのだと思っています」
和歌山に息づくおおらかな革新性と風土が育んだ自慢の材が要となって、木の国のものづくりは深化を続けていきます。
島安汎工芸製作所(しまやすはんこうげいせいさくしょ)
和歌山県海南市大野中507-1
https://www.uruwashi-urushi.com/
和歌山で出合う、暮らしの道具
「紀州わっぱ御膳」「Te Pot」と同様に、和歌山には “プレミア” な県産品がいっぱい。その一部をご紹介します。
maffably(エムアファブリー)のアロマオイル
熊野の森に自生するヒノキやクロモジから抽出した精油。
恵まれた自然環境が育んだ「この地域にしかない香り」を高純度で届けるために、木の伐採からびん詰めまで手作業で行う。
熊野の森林を散策しているような爽快さを体験して。
Taenaka No Nunoのスクエアバッグ
パイル織物が盛んな和歌山で高い技術力を誇る「妙中パイル織物」の高級なベルベットを使った小物ブランド。
繊細な織り模様が美しいこちらのバッグは、ベースが綿麻の生地だから普段使いがしやすく、春の装いにもぴったり。
紀伊の森[圡屋惠司]の紀州備長炭
火力と燃焼時間に優れ、数ある産地のなかでも「最高品質」と評される紀州備長炭。
炭焼き職人の圡屋惠司さんがつくる紀州備長炭は、高品質の証とされる断面の輝きが特徴。
料理の燃料はもちろん、消臭や調湿、浄水にも活躍する。
髙田耕造商店のしゅろのたわし
棕櫚(しゅろ)は国内外のものを使用。
職人が用途に合わせて繊維を使い分け、ひとつずつ手づくり。
手にフィットする形状で野菜や食器洗いに重宝する「むすび」、繊維の硬い部分を使った土鍋用など、家事を助けてくれる多彩なたわしがそろう。
「プレミア和歌山」で見つける、いいもの、おいしいもの
安心・安全を重視した和歌山ならではの優れた県産品を「プレミア和歌山」と認定。
ホームページには農産物、加工品、工芸品などが豊富に並んでいます。
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〈撮影/山川修一 取材・文/熊坂麻美〉
提供/和歌山県