• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。小樽市張碓町(はりうすちょう)にある「yukimichi」は、シンプルでいて温か味のある器を揃える器屋さん。店主の五十嵐有紀さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    思い出の場所、心弾む景色のもとでお店を

    「yukimichi」があるのは、山と海に囲まれる自然豊かな土地、小樽市張碓町。周囲には木々が生い茂り、前の道路からは海が見渡せる、そんな風景の中に佇んでいます。店主を務めるのは、小樽出身で、以前は十勝で雑貨屋を営んでいたという五十嵐有紀さん。

    夫が札幌に転勤になったのをきっかけに十勝の店を閉め、札幌で店を再開しようと物件を探します。住居と店舗だけでなく、せっかくなら夫が教える合気道の道場も併設したいと考えましたが、見合う物件はなかなか見つからず……。

    画像: 2016年オープン。趣のあるアンティークの棚に、器や布もの、かご、お茶やコーヒー豆などの食品が並びます

    2016年オープン。趣のあるアンティークの棚に、器や布もの、かご、お茶やコーヒー豆などの食品が並びます

    画像: 丸みのあるフォルムが愛らしい戸塚佳奈さんの器も。上段は「マグカップ」、下段は「片手鉢」と「丸ボウル」

    丸みのあるフォルムが愛らしい戸塚佳奈さんの器も。上段は「マグカップ」、下段は「片手鉢」と「丸ボウル」

    「物件探しに行き詰っていたときにふと思い出し、小樽で両親がずっと昔から畑をやっていた場所に行ってみたんです。小さい頃に遊んだり、ブルーベリー摘みをした思い出深い土地で、海も見えて景色がすごくいいところ。改めてその景色に魅了され、お店をやるならここがいいと思いました」

    でもそこは、いまでこそお店がポツポツできてきたものの、当時はお店が全くなく、人通りの少ない所。「こんな場所でお店をやって大丈夫?」と、周りの人たちに心配されたといいますが、「大変でも、自分たちが気に入った場所でやっていこう」と覚悟を決めました。

    画像: 左手が店舗、右手が道場。軒下を使い、農家や作家さんが出店する「軒下マルシェ」を年に数回開催しています(コロナでお休み中でしたが、今年8月に復活予定)

    左手が店舗、右手が道場。軒下を使い、農家や作家さんが出店する「軒下マルシェ」を年に数回開催しています(コロナでお休み中でしたが、今年8月に復活予定)

    画像: 冬は、圧巻の雪景色に。お店のまわりと駐車場の雪かきに、2、3時間かかる日もあるのだとか

    冬は、圧巻の雪景色に。お店のまわりと駐車場の雪かきに、2、3時間かかる日もあるのだとか

    アクセスがよくない場所に、わざわざ足を運んでいただくのだからと、訪れた人が休めるように2階にはカフェスペースを設けています。「休憩できるだけでなく、作家の器を体感できる場所にもしたい」との想いから、器からカトラリー、水のコップにいたるまで、お店で取り扱っている作家さんのものを使用しています。

    画像: 喫茶スペースは10席。五十嵐さんがスタッフと一緒に考案するおいしいお菓子がいただけます

    喫茶スペースは10席。五十嵐さんがスタッフと一緒に考案するおいしいお菓子がいただけます

    でも、カフェで使用しているとどうしても器が割れることも。でもそんな器は金継ぎで蘇らせ、カフェで使い続けるようにしているのだとか。

    「大切に選んだ作家さんの器なので、捨てられないんですよね。それに、『もったいなくて使えない』と、作家ものの購入を躊躇されているお客さんが、金継ぎした器を見て直せることを知り、手にしてくれるようになることもあって。気に入った器は、長く大切に使い続けようと思うきっかけになってくれれば、嬉しいです」 

    画像: 金継ぎした戸塚佳奈さんの「リム皿」。「これは私の初の金継ぎ作品。拙くて恥ずかしいんですが(笑)、とても思い入れがあります」と五十嵐さん

    金継ぎした戸塚佳奈さんの「リム皿」。「これは私の初の金継ぎ作品。拙くて恥ずかしいんですが(笑)、とても思い入れがあります」と五十嵐さん

    画像: 持ち手のデザインが印象的なまな板は、地元の作家、吉増千咲さんのもの

    持ち手のデザインが印象的なまな板は、地元の作家、吉増千咲さんのもの

    とことん試して、選び抜いたものを

    そんな五十嵐さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、北海道小樽市で作陶する、戸塚佳奈(とづか・かな)さんの器です。

    画像: パスタやシチューにぴったりの「リムボウル」。「幅広のリムが美しい余白を生み、料理をおいしそうに見せてくれます」と五十嵐さん

    パスタやシチューにぴったりの「リムボウル」。「幅広のリムが美しい余白を生み、料理をおいしそうに見せてくれます」と五十嵐さん

    「戸塚さんは、生まれも育ちも小樽で、地元で作陶されています。白と黒の2色で作品をつくっていらっしゃるのですが、白は小樽の雪景色を、黒はレトロな小樽の街並みをイメージしています。そんな作品からは意外に思うかもしれませんが、実は沖縄で修業をされていました。

    そして、戸塚さんは私の高校時代の同級生でもあって。北海道に戻り、作家としてデビューする前に会いにきてくれたのですが、当時はいまとはまったく違う作風だったんです。でもその翌年、たまたま行った陶器市で、『雪化粧をまとったようなきれいな器!』と思って手にとったら、そこが戸塚さんのブースでとても驚きました。それ以来のお付き合いなのですが、いまではすっかり人気作家になられ、小樽でも作品が入手しにくいほど。個展はいつも大盛況です。

    白い器は、スポンジでポンポンと釉薬をおき、ニュアンスを出しているのですが、素地のグレーが少し覗き、アスファルトに降り積もり始めた雪を連想させます。雪の美しさだけでなく、同時にキリリとした冬の寒さも感じられて。黒い器は、錆びのようなニュアンスがあり、アンティークのような趣に惹かれます」

    お次は、北海道厚沢部町のソロソロ窯の器です。

    画像: 使い勝手いのいい「七寸皿」。絵付けは愛らしくてノスタルジック、単色のものも表情豊かです

    使い勝手いのいい「七寸皿」。絵付けは愛らしくてノスタルジック、単色のものも表情豊かです

    「ソロソロ窯のつくり手は、臼田季布(うすだ・きほ)さん。臼田さんは、面積の約8割が森林という北海道の厚沢部町で、地元の廃校を工房兼ギャラリーにし、自作の薪窯で焼成を行っていらっしゃいます。林業の町なので、間伐材が出ると受け取りに行き、ご自身で薪にされていますね。

    東京育ちなんですが、この方も沖縄で修業されています。有名な読谷山焼北窯の松田共司さんの元で長く修業され、独立して奥さまのご実家がある北海道に工房を構えました。絵付けはどことなく沖縄らしさを感じますが、使っている土は北海道江別の赤みを帯びたレンガ土。北と南のものがミックスされて、不思議な大らかさを感じます。

    年に1、2回工房に伺うのですが、いつも新しい絵柄に取り組んでいらして。窯出し直後にお邪魔させていただくこともあるんですが、この前は私が一番乗りで、最初に選ばせていただけて感激しました。私が選ぶ絵柄は、偏りがあるみたいなのですが(笑)、お客さんに喜んでもらえるセレクトになっていればうれしいです」

    最後は、栃木県益子町で作陶する、鈴木宏美(すずき・ひろみ)さんの器です。

    画像: 柔和な佇まいの「淡黄色マグカップ」と「淡黄色湯呑」。白化粧を刷毛で何度も塗り重ねて表情を出しています

    柔和な佇まいの「淡黄色マグカップ」と「淡黄色湯呑」。白化粧を刷毛で何度も塗り重ねて表情を出しています

    「鈴木さんと初めてお会いしたのは、10年以上前の益子の陶器市でした。鈴木さんのつくる器は色合いがとてもきれいで、それぞれに名前がついています。野山に咲く薄ピンクの桜をイメージした『薄桜色』、暮れていく空をイメージした『宵色(よいいろ)』のほか、昔から定番でつくられている『淡黄色(あわきいろ)』などがあります。

    『淡黄色マグカップ』と『淡黄色湯呑』は、グラデーションがとても素敵。全体的にはクリーム色で、濃い黄色は焼き色です。しのぎもとてもきれいですね。

    画像: “暮れていく空”を繊細な色の変化で表現した「宵色そば猪口」

    “暮れていく空”を繊細な色の変化で表現した「宵色そば猪口」

    鈴木さんは、作品通りの、ほんわかしたやわらかい雰囲気の方。益子の自然の移りゆく姿や、季節が移り変わる風景を大切にされていて、それを器に落とし込んでいらっしゃいます。鈴木さんの器は、色合いは儚げなんですが、温か味が感じられ、手に持ったときにしみじみと落ち着くんですよね」

    五十嵐さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「気になる作家さんがいたら、展示会などに必ず出向いて器を見て購入させてもらい、使い心地を試すようにしています。使い勝手やほかの器との相性、丈夫さなどいろいろ確認しますが、料理をのせたときにどう見えるかを一番大切にしています。器単独で完成されすぎているものより、料理をのせたときにわっと感動が広がるようなものを選んでいますね。

    ただ、使ってみていいなと思っても、ついつい試す期間が長くなりすぎて(笑)。気づいたら1年経っていたということもしょっちゅう。ものすごく気に入っているのに、気づいたら5年ほど使っていて、それからやっと作家さんにお会いしてお願いすることができたなんてこともありました」

    「ひとつひとつの交流を大事にしたい」と、年に5、6回も北海道から本州に渡り、展示会に足を運んだり、作家さんに会ってお話するという五十嵐さん。納得するまで時間をたっぷりかけて、ていねいに選びとります。そんな「yukimichi」に並ぶのは、温か味にあふれた一生付き合いたくなる器でした。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/五十嵐有紀 取材・文/諸根文奈>

    yukimichi
    0134-55-5886
    11:00~17:00  喫茶はL.O. 16:30 ※月曜のみ15:30
    水・木・金休
    北海道小樽市張碓町560-24
    電車:JR函館本線「銭函駅」から徒歩約30分、タクシーで約10分
    車:札樽自動車道「銭函インター」から車で約10分
    http://yukimichi-otaru.com/
    https://www.instagram.com/yukimichi_yuki/
    ◆「榊麻美植物研究所」の展示販売を開催予定 ※鉢なども販売(7月23日~7月31日)
    ◆「美味しいおやつ時間」を開催予定 ※5名の作家による器展示会(11月19日~29日)



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