日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。東京都目黒区にある「PARTY」は、日常の料理に寄り添う器を揃える器屋さん。店主の坂根さよみさんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。
出会いを引き寄せて、器屋に
1992年にオープンし、今年で30周年を迎える器屋さん「PARTY」。「食べることも料理も好きで、だから器も大好き。PARTYという店名にあるように、友人を招いて料理を振る舞い、わいわいやるのが楽しみでした」と、店主の坂根さよみさんは話します。
坂根さんは、以前はフリーのコピーライターとして働き、「仕事の移動の合間を縫って、器屋さんに立ち寄る」、そんな日々を送っていたのだとか。それからどうして、器屋を開くまでになったのでしょうか。
「石川県に取材で出張したとき、思い立って立ち寄ったのが、愛用する器の窯元、九谷青窯(九谷焼の伝統技術を活かし、若い陶工たちが個々の自由な発想で普段使いの器をつくる窯元)でした。行ってみると、ガイドブックに載っていたのに、一般の人に公開されている感じではなくて。それでも、工房を見学させてくれて、器を買わせてもらうこともできて楽しかったです」
陶工たちの姿を目の当たりにしたことで、つくり手への興味が芽生え、器への想いが加速。器屋だけでなく、作家の個展にも足を運ぶようになりました。「そのうちに、お店の方や作家さんと親しくなり、一緒に食事をしたりみんなで陶器市に出かけたり、行動をともにさせていただくようになって。すっかり器の世界に馴染んでいきました」と話します。
そうして、作家とのつながりが生まれたことと、実家の一角の貸し店舗が空いたのをきっかけに、自然な流れで器屋さんをスタートし、現在に至ります。並ぶのは、土の風合いを生かした陶器に、磁器やガラスまで、ベーシックながら味わいある器たち。
でも、そんな器に混じって、ポップでカラフルだったり、レトロ可愛い作風の作家の展示も時折開催するのが「PARTY」の面白いところ。お客さんも時には変化が欲しくなるかもしれないと考えたのと、「昔、雑貨屋を営んだこともあって、“可愛いもの、楽しいもの好き”な一面を、隠しきれなくて」と坂根さんは笑います。
「でも、そういった作品も、私の目線で選ばせていただいているので、回を重ねるごとに店に馴染み、お客さまにも親しまれていてうれしいですね」
何気なく盛っても映える器を
そんな坂根さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、滋賀県大津市で作陶する、稲村真耶(いなむら・まや)さんの器です。
「藤塚光男さんのお弟子さんだった方で、滋賀県の坂本という、比叡山延暦寺の門前町で作陶されています。古典柄をモチーフにしたものもつくられるんですが、洋のテイストを加えた作品も多く、いまの暮らしに馴染むそういった作品が、私はとくに好きなんです。
『花唐草しのぎ飯碗』は、花唐草の模様が可愛く、しのぎの部分が光を通してきれい。飯碗ではあるんですが、たとえばヨーグルトやサラダ、冷たいスープなんかにも合い、汎用性が高いと思います。明るくて爽やかなイメージが、朝のテーブルにぴったりですね。白磁の楕円皿も、いつもの料理をちょっとおしゃれな感じに見せてくれて、重宝しています。
染付や白磁のほかに、釉薬に工夫を凝らしたものもつくられていて。マットなアイボリーの月光釉、淡い青の湖水釉など繊細な色合いで、とても素敵です。稲村さんは、可愛らしい雰囲気の女性で、小さな娘さんがいるお母さん。荷物にお庭で採れたレモンをおまけで入れてくださったり、添えられたお手紙の便箋が愛らしかったりと、いつも和ませていただいていますね」
お次は、神奈川県横須賀市で作陶する、安達健(あだち・たけし)さんの器です。
「安達さんは、ベテランの作家さんで、とにかく風合いの人。土練りをする際に、原土(げんど)を木槌で叩くことで、土の風合いを最大限に引き出します。それでいて、荒々しい感じにはならず、やさしい印象なのが、安達さんの持ち味。どの作品も土の温かでやわらかな質感が、お料理をより滋味豊かに見せてくれますね。お料理屋さんをはじめファンが多くいらっしゃいます。
『黄灰釉豆鉢二弁』は、あまり家庭では使わない形かもしれませんが、盛り映えしますし、食卓のアクセントにもなります。緑のものとかすごく映えますよ。『緑灰釉角小皿』は、この小さな中に、渋みだったり、味わいがぎゅっと詰め込まれていて。取り皿としてはもちろん、お漬物をのせたり、和菓子にもよく合うサイズ感だと思います」
最後は、栃木県益子町で作陶する、四海大(しかい・だい)さんの器です。
「四海さんは、益子の新鋭。北九州の出身で、もともと自動車メーカーに勤務されていたんですが、『最初から最後まで自分の手でつくれる仕事がしたい』といって陶芸の道に進まれました。本当にその言葉通りで、土を自ら掘るだけでなく、釉薬も石をとってきて砕き、自作されているんです。
でも、だからといって、土味を前面に押し出した個性の強い作品というわけではなく、ご本人も、『目立たなくていい、使っているうちにいいなと思ってもらえる器をつくりたい』とおっしゃっていて。この『堅手鉢』は、色に独特のやわらか味があって、ふわっとあったかい。粉引きの器に現れることのある、御本(ごほん)と呼ばれる薄ピンク色の斑点があり、それも素敵です。
四海さんはうちでは最若手。30歳とまだお若く、細身でいまどきの青年という印象。土を掘るのも釉薬づくりも、実験的な感覚で面白くて仕方がないというように見受けられます。今年4月のうちでの個展が、東京で初の個展でした。ほかからも注目されつつあり、これからの活躍が楽しみです」
坂根さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「自分の目線で使いやすいものです。あまりスタイリッシュだったり、美術品的なものだと、私の普段つくるおおざっぱな料理に合わないので、日々の生活で使いやすい、使い飽きないものをつくる作家さんを選ぶようにしています。
そのほかに、盛りつけがしやすいというのも、大きなポイントです。私の場合、おかずをてんこ盛りにしがちなので、あまり考えないでポンと載せても、『あ、きれいだな』ってなる器がよくて(笑)。それがどういう器かは、自分の感覚なんですが、お料理って有機的なものなので、温か味とかやさしい雰囲気があると、家庭料理を上手く受けとめてくれるのかなと」
飾らず気さくなお人柄で、それでいてさりげない心配りができる坂根さん。そんな坂根さんだからこそ、人との交流の輪を広げることで器屋となり、歩み続けることができたのだろうと思いました。そんな店主が選び取るのは、日常の料理をやさしく受け止め、おいしく見せてくれる器たち。ぜひ足を運んで、心行くまで器選びを楽しんでみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
PARTY
03-3467-6830
12:00~18:00 ※展示会中は無休で、11:00〜18:00、最終日のみ17:00まで
不定休 ※営業日はHPにてお知らせしています
東京都目黒区駒場2-9-2
最寄り駅:京王井の頭線「駒場東大前駅」西口から徒歩約3分
https://utsuwa-party.com/index.htm
https://www.instagram.com/utsuwaparty/
◆志村和晃さんの個展を開催予定(9月3日~9月9日)
◆清水なお子さんの個展を開催予定(9月24日~9月30日)
◆長野大輔さんの個展を開催予定(10月8日~10月14日)