器は、人生そのもの
「うつわ祥見 onariNEAR」という店名は、ちょっと不思議なネーミング。「器は人のそば=NEARにあって、人を励ますもの、という想いを込めてNEARを、お店のある御成通りの“御成”という言葉に尊敬の念を持っていて、それでこう名付けました」と話すのは、「うつわ祥見 KAMAKURA」代表の祥見知生さん。「うつわ祥見 KAMAKURA」は、ほかにも鎌倉・小町通りにギャラリーと常設店を、伊豆にギャラリーを構える器屋さんです。
![画像: 凛としつつも温もりのある店内。器の美しさが一層映えます](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/c6d5345aae46f333445fc4ef393bb34d35493d01.jpg)
凛としつつも温もりのある店内。器の美しさが一層映えます
![画像: 絵付けや粉引きなど、情緒あふれるめし碗は、萌窯、吉田崇昭さん、小山乃文彦さん、阿南維也さんらのもの](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/96dae0c5ade6eb0ecf1b8cbb341e9f40e8258244.jpg)
絵付けや粉引きなど、情緒あふれるめし碗は、萌窯、吉田崇昭さん、小山乃文彦さん、阿南維也さんらのもの
![画像: スタッフの方が、お客さまに温かくていねいに器の説明をする姿が印象的でした](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/14/fc6f4e230633ed5ce3974960cee74c8548c5c90e.jpg)
スタッフの方が、お客さまに温かくていねいに器の説明をする姿が印象的でした
「器は人のそばにあって、人を励ますもの」という言葉は、祥見さんと器の関係そのもの。器に興味を持ったきっかけを聞くと、「その質問をよく訊ねられるのですが、自分でもよくわからないほど自然なことなんですね。子どもの頃、祖父が住んでいた離れに忍び込んでは、飾り棚のグラスを使っておままごとをしていた記憶があります。子どものころから無性に器が好きだったのではないでしょうか」と話します。
10代の頃も洋服などよりも器に関心を寄せ、料理を盛って楽しむというより、器の存在そのものに惹かれていたのだとか。20代前半には「いずれギャラリーを」と心に決め、その志は変わらず、2002年に鎌倉の高台にあった自邸でギャラリーをスタートさせました。
一方で、ギャラリーを開く前から文筆業を営み、人物インタビューを中心に記事を書いていたという祥見さん。プライベートギャラリーをオープンした翌年には、「つくり手のことをもっと伝えたい」と、本を執筆し始めます。一年以上かけて作家の工房を訪ね歩き、彼らの目指す器づくりに寄り添って書いた著書『うつわ日和。』(刊・ラトルズ)を出版しました。
「ライター時代は、文化人の方を取材する機会が多かったのですが、というのも、もともと人というものにすごく興味があったからなんですね。それで器の本を書いてみて気づいたのは、ライター時代に取り組んでいたことと、器を伝えることは、私にとって一緒なんだなと。どうしてこれほどまでに器に惹かれるのか、その謎が自分のなかで腑に落ちたんです」
![画像: 愛嬌のあるチーターの姿に親しみがわく吉岡萬理さんの鉢も。見る度に元気がもらえるような器](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/2848445c39e48414b23853407667fbbeb9c1fdbf.jpg)
愛嬌のあるチーターの姿に親しみがわく吉岡萬理さんの鉢も。見る度に元気がもらえるような器
![画像: その後も、祥見さんは器の本を数多く執筆。なかでも、『うつわを愛する』(刊・河出書房新社)は、器に興味を持ち始め、知識や興味をより深めたいという方におすすめの一冊です](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/d72a7920387a32438e2700d50d7058a4cef346d4.jpg)
その後も、祥見さんは器の本を数多く執筆。なかでも、『うつわを愛する』(刊・河出書房新社)は、器に興味を持ち始め、知識や興味をより深めたいという方におすすめの一冊です
![画像: 毎日のように活躍する小皿や小鉢も充実](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/1453e83aa92009accd1f83c66c4913e858f80d6b.jpg)
毎日のように活躍する小皿や小鉢も充実
お店のある御成通り商店街は、観光客で賑わう小町通りとはうってかわって、地元の人が行きかう長閑な場所。実際に、買い物帰りに立ち寄る方も多いのだとか。「器は日々に寄り添うものなので、気構えることなく出合いを楽しんでいただければと。実際、お野菜を買うように、器をお求めになる姿を拝見するととてもうれしいですね」
使い手を思いいたわる作家の器を
店舗で見ることができる、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、大分県日出町で作陶する、阿南維也(あなん・これや)さんの器です。
![画像: 縦横に入るしのぎが軽快なアクセントとなった「白磁鎬(しのぎ)隅切長方皿 大」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/4e4a43560bfe3a727f65f379b07f8a85256060b7.jpg)
縦横に入るしのぎが軽快なアクセントとなった「白磁鎬(しのぎ)隅切長方皿 大」
「阿南さんは、白磁を中心にしのぎを施した作品を多くつくられています。白磁といっても、少し雑味のある土を使っているので、温か味を感じますね。
この『白磁鎬隅切長方皿』は、たたらの状態で四隅をカットし、端の部分を手で起こしてから、ていねいにしのぎを入れた手の込んだ品。ひとつひとつ誠実に向き合って制作されているのが作品から伝わり、使うたびに心が満たされます。阿南さんの器は、重さがほどよく、料理を選ばないので、出番が多いと人気があります。
![画像: 阿南さんの定番「白磁スープマグ」。阿南さんのろくろは、身体性にすぐれていて伸びやかです](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/5bfeaec5b919770fa65964a6cda34aff1c2833f6.jpg)
阿南さんの定番「白磁スープマグ」。阿南さんのろくろは、身体性にすぐれていて伸びやかです
この『白磁スープマグ』は、スタッフがお客様から教えていただいたというか。『使い心地があまりにもいいのでリピートしたい』とご注文される方が多いので、常設でご紹介できるように制作をお願いした作品です。口縁の下が少しくぼんでいますが、これは丹念に削りを入れたもの。裏の高台付近にも入っているのですが、削りによって造形の美しさが増していると思います」
次は、神奈川県鎌倉市で制作する、矢澤寛彰(やざわ・ひろあき)さんの器です。
![画像: 矢澤さんの漆器は、落ち着いた塗りで土ものの器とも合わせやすい。こちらは「漆椀 中 溜」と「漆椀 大 黒」。素材はともに桜](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/d4636c70b4194faa388bd5c89cae26e70639c023.jpg)
矢澤さんの漆器は、落ち着いた塗りで土ものの器とも合わせやすい。こちらは「漆椀 中 溜」と「漆椀 大 黒」。素材はともに桜
「矢澤さんの漆器は、20代や30代など若い方も手に取ってくださるんです。素朴で美しい形のよさや、手取りの軽やかさ、ていねいに施された塗りのマット感が、皆さんに響いているように思いますね。
矢澤さんは鎌倉彫の家に生まれ、お父様も漆作家。幼少期から漆があって当たり前の環境で育ったからこそ、このような自然でさりげない形にできるのではと思います。ひとつ買って惚れ込み、毎年一点ずつお買い足しされる方が多いですね。
![画像: 「うつわ祥見 onariNEAR」では、矢澤さんの定番の椀などが、常設展示で見られます](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/382327ed364673d767d050d7b5c06b38cf89aa00.jpg)
「うつわ祥見 onariNEAR」では、矢澤さんの定番の椀などが、常設展示で見られます
漆器は経年変化が楽しめ、黒は発色が増して艶やかになり、溜塗りは木目がくっきりと出てきます。初めて漆器を手に取る方は、溜塗りを選ばれることが最近とても多くて。矢澤さんの漆器は手に取りやすい価格帯で、まさに“日々の漆”です」
最後は、静岡県伊東市で作陶する、村木雄児(むらき・ゆうじ)さんの器です。
![画像: 手前は、文様の美しい「三島五寸鉢」。やさしい表情は村木さんならでは。奥はやわらかなフォルムが魅了する「白磁碗」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/88820efb354447b7d982bfd642f913a607415860.jpg)
手前は、文様の美しい「三島五寸鉢」。やさしい表情は村木さんならでは。奥はやわらかなフォルムが魅了する「白磁碗」
「村木さんは、オープン以来、20年に渡りお付き合いしている作家さんです。土を活かすことに力を入れ、三島でも白磁でも、“土のなりたい姿”をすごく大事になさっていて。若手作家からレジェンドと呼ばれるほどのベテランですが、けして偉ぶらず、日々の器に向き合う尊敬すべき陶芸家です。
![画像: 真横から見た姿。素朴ななかにも上品さが漂います](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/91a1a8f7be01997252c9c4eae6a8137281ce9eeb.jpg)
真横から見た姿。素朴ななかにも上品さが漂います
今回ご紹介するのは、代表作の三島と、いま一番面白がって制作されている白磁です。村木さんの作品は素朴でてらいがなく、すっと馴染みますね。“何気なさの美しさ”を強く感じられ、使っているとなんともいえない安心感があります。
長く物づくりをしていると、何かに囚われてしまうといったことが多いようですが、村木さんはそれがなく、いまでもいろんなことに挑戦され続けています。毎回素材と対峙して、『この方法を試したらこうなって、面白かったんだ』などとよく話されて、そんな少年のようなお話しぶりもすごく素敵です」
作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「器は、手に持って唇を触れるという、人と親密な関係になれる存在なので、“人思い”であることが大事だと考えています。作家性も本当に大切ですが、表現の前に、器としての心地よさや使い勝手をどのように考えて作陶されていらっしゃるかをお聞きするようにしています。
また、私たちにとって、“さりげなさ、何気なさ”が、美しさの重要な要素のひとつで、そういった作風の方が多いと思います。さりげなくて心に残るものであるのは、とても難しいと思うんですよね。たとえば、めし碗はシンプルな形状ですが、それを心に響くようにつくりあげることは、茶道具の茶碗をつくるよりもはるかに大変だと思います」
![画像: 小町通りの2店舗も含め、月に2~4回ほど展覧会を開催しています](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2022/11/04/2c9c9115b0572f9d517202f5e2e6026ac680913d.jpg)
小町通りの2店舗も含め、月に2~4回ほど展覧会を開催しています
「うつわ祥見 onariNEAR」では、今夏、初めて漆器のオーダー会を開催。「常設でたっぷりお見せするのもそうですが、漆器をもっと身近に感じてほしくて。漆器は塗り直しがきき、まさに一生ものなので、早めに本物を手に入れて欲しいと願っています」と祥見さん。
お客さんとの交流を通して、また、ときには文章で器を伝えることによって、人と器がよりいい関係を築けるよう、心を配る器屋さん。一生付き合っていきたい伴侶のような器と出合えること間違いありません。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/星 亘 取材・文/諸根文奈>
うつわ祥見 onariNEAR
0467-81-3504
12:00~18:00
火休
神奈川県鎌倉市御成町5-28
最寄り駅:JR線・江ノ島電鉄「鎌倉駅」から徒歩約4分
https://utsuwa-shoken.com/home
https://www.instagram.com/utsuwa_shoken/
◆村木雄児さんの個展を開催予定(12月3日〜12月9日)
◆矢澤寛彰さんの個展を開催予定(12月10日〜12月19日)