極上の空間で、衣食住が楽しめる
「どこの国か、いつの時代かわからないような、空間をイメージしました」と話すのは、「STROLL」店主の小椋えりかさん。淡いグレーを基調にトーンを抑えた穏やかな空間を、国内外の古家具や現代作家の家具が彩ります。そこに並ぶのは、控えめで繊細な美しさを放つ器たち。瑞々しい感性が、店のインテリアにも選ぶ器にも溢れ、目を見張ります。
「器好きの母の影響で、子どもの頃から海外ブランドの器や作家ものの器に親しんでいました」という小椋さん。どのようにして器屋を営むまでになったのでしょうか。
「結婚を機に自分で料理をするようになったのですが、料理があまり得意ではなくて。そこで、料理が楽しくなるようにと、料理本のスタイリングを参考にしたり、ギャラリーで器を選んだりするうちに、器に対する想いが広がっていきました」
器への興味がどんどん増すなか、家を新築し、ある想いが芽生えます。「育児に追われていたせいもあると思いますが、“自分の好きなものをほかの誰かと共有できる場所をつくりたい”と考えるようになったんです」
古民家風の新居は、土間のあるお家。普段はダイニングとして使っていたその土間を利用し、自宅ショップを開きます。次第にネットを通して認知度が上がり、2015年、現在の地に移転。古いマンションの一室をフルリノベーションしたお店は、冒頭でも綴った、感性を刺激するこだわりの空間です。
店の奥には、“穴部屋”と呼ばれる小部屋が。大きなテーブルとキッチンが備えつけてあり、食事会やワイン会、お花やインテリア関連のワークショップを、ここで開催しているそう。暮らしのスタイルをトータルで提案してくれるのも、「STROLL」の魅力です。
自然や土地のルーツを大切にする作家を
そんな小椋さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、愛媛県東温市で作陶する、長戸裕夢(ながと・ひろむ)さんの器です。
「釉薬を自分で調合する作家は多くいますが、長戸さんは、釉薬だけでなく土づくりもご自身でされています。また、日本の骨董や中国・朝鮮の古い焼き物に興味を持ち、その流れを組んだ作品づくりをされているのも、魅力ですね。
『白瓷注壷』は、李朝時代によくつくられた算盤形壺(そろばん玉のように腰の張った壺)に似ていて。凛としながらもどこか愛らしい形に惹かれますね。長戸さんの酒器は、少し引いて見たときの美しさがたまりません。曲線に自然な揺らぎを持たせ、古陶磁のような柔らかさを表現しています。
作風からは意外に思うかもしれませんが、長戸さんはまだお若い方。最初は茶道具で評価され、その後、食器も手掛けるようになりました。昨年、薪窯をつくりたいと、さらに山奥に工房を移され、自作の窯で焼成する予定だそう。どんな作品に仕上がるかとても楽しみです」
お次は、大分県宇佐市で作陶する、松原竜馬(まつばら・りょうま)さんの器です。
「松原さんは粉引きやスリップウェア、耐熱器をメインで手掛けていますが、おおらかで伸びやかな作風が特徴です。松原さん自身もおおらかな方で、それが器に反映されているように感じます。
『耐熱角鉢』は、すでに使い込まれた風合いをしていますが、使うほどにさらに色濃くなり、渋味が増していきます。直火、オーブン対応で、私はもっぱらグラタンなどに用いていますが、松原さんの奥様で陶芸家の角田 淳さんが、これでケーキを焼いてらっしゃって。それが素敵で、その話をすると、お菓子づくりのお好きな方がよく選んでいかれます。
松原さんは自然が好きで、大分県宇佐市の豊かな緑に囲まれた家で暮らしています。庭にくぬぎの木が生え、その木を燃やした灰を使った釉薬を、作品に生かすことも多いですね。また、料理上手の角田さんがリクエストしたものを、松原さんが形にすることもよくあるそう。まさに生活のなかから生まれた器です」
最後は、北海道小樽市で作陶する、戸塚佳奈(とづか・かな)さんの器です。
「戸塚さんは、北海道小樽市の出身で、現在も小樽で作陶されています。おもに白と黒の器を制作されていますが、生まれ育った土地をすごく大切に思われていて。白の器は、小樽の雪景色を、黒の器は小樽運河沿いに建ち並ぶ古い倉庫の景色を、色や質感に落とし込んでいます。
白といっても、積もった雪から地面が透けて見えるかのような、グレーがかったニュアンスのある白。私は彩度が低めの白が好きなので、とても惹かれました。黒は、銅やマンガンを含む釉薬が使われ、金属質な風合いがあります。真っ黒ではなく、茶や赤茶が混ざり、まさに小樽の倉庫の錆を思い起こさせますね。
この『石の花入れ』は、随分昔の作品で、戸塚さんが唯一、指先の感覚を頼りにつくられたもの。工房に伺ったときに見つけ、ひと目ぼれし、展示会用にたくさん制作いただきました。展示会では、小さなお子さんが気に入って手に持ったまま離さず、ママにおねだりして買ってもらったという、可愛いエピソードもあります」
小椋さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「つくり手の主張が強すぎるものよりも、主張が静かに感じられるものに惹かれます。作品を見たときに、作家の秘められた想いや思想、哲学なんかが、そこはかとなく伝わってくるような。
また、基本的には直感で選んでいるのですが、後からよく考えると、好きな作家に共通点があって。それは、周囲の自然だったり、歴史ある古い物、暮らす土地のルーツなどを大事にし、そこから吸収したものを作品に投影していること。そういう方たちに惹かれますね」
作家選びの視点について、こうも話してくださった小椋さん。「やはり料理をのせるものなので、器そのものの佇まいが静かであることも、大切にしています。そこに料理が足されたときの景色はもちろん、料理を食べ進む過程の風景さえも美しい、そんな器が理想的ですね」
店の空気感と共鳴する器は、落ち着いた存在感で食卓をひそやかに彩ります。あなたの家にもぜひ迎え入れてみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/徳丸哲也・小椋えりか 取材・文/諸根文奈>
STROLL
089-933-8911
11:00〜17:00
金・日休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
愛媛県松山市千舟町1丁目1-1 キジヤ千舟ビル2F
最寄り駅:伊予鉄道「松山市駅」から車で6分ほど
http://stroll-store.com/
https://www.instagram.com/stroll_store/
◆林 拓児さんの個展を開催予定(9月23日~10月1日)
◆中村なづきさん(アクセサリー)の個展を開催予定(10月14日~10月22日)
◆原田七重さんの個展を開催予定(11月4日~11月12日)