• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。東京都渋谷区にある「AELU(アエル)」は、見るだけで心躍る器が揃う器屋さん。うつわディレクター・バイヤーの真子拓也さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    新しい発見と、ときめく出合いの場に

    代々木上原駅から歩いてすぐの場所にある雑居ビル。1階には、人気のフレンチビストロ「メゾン サンカントサンク」が、4階にはギャラリーショップ「AELU」がありますが、実はこの2店舗のオーナーは同じ方。代々木上原を中心にビストロやピタサンド専門店などの飲食店を複数展開するオーナーシェフ、丸山智博さんです。

    画像: 「AELU」は、2017年オープン。土味たっぷりのものや、洗練感あるものなど、多彩な器が並びます

    「AELU」は、2017年オープン。土味たっぷりのものや、洗練感あるものなど、多彩な器が並びます

    画像: 白磁の花入れとピッチャーは亀田大介さん、木のオブジェは新見和也さんのもの

    白磁の花入れとピッチャーは亀田大介さん、木のオブジェは新見和也さんのもの

    丸山さんは、「作家の器は、自分の料理をより豊かに表現してくれる」と考え、以前から、「メゾン サンカントサンク」をはじめ系列の飲食店で、作家の器で料理を供してきたそう。そうしたなか作家との関係が育まれると、「お世話になっている作家の器を、気軽に手にとれる場所をつくりたい」と誕生させたのが、「AELU」でした。

    「1階のビストロで料理を召し上がった方が器を気に入り、4階まで見にきてくださったり、逆に、ギャラリーに来られた方が興味を持たれて、1階で食事されたりと、うれしいケースもありますね」と話すのは、うつわディレクター・バイヤーの真子拓也さんです。

    画像: さまざまな仕事に就いてきたという真子さん。磨かれたセンスで選ぶ器は、見ごたえあります

    さまざまな仕事に就いてきたという真子さん。磨かれたセンスで選ぶ器は、見ごたえあります

    真子さんは、夢中になれる仕事を見つけたいと、若い頃からレストランで働いたり、アパレル業界に携わったり、衣食住の世界で働いてきました。そして、建築設計の仕事を経て、インテリアショップで働くようになると、物を紹介する仕事を天職のように感じます。そんな折、元同僚で友人でもある丸山さんから、「AELU」を手伝ってほしいと誘われ、いまに至るのだとか。

    画像: ガラスのポットはスタジオ・プレパ、ガラスの鉢は蠣﨑マコトさん、盆は盛永省治さんによるもの

    ガラスのポットはスタジオ・プレパ、ガラスの鉢は蠣﨑マコトさん、盆は盛永省治さんによるもの

    店内に足を一歩踏み入れると、目を見張るのが美しいディスプレイ。幅広い職種で知識や経験を得た真子さんの手腕が発揮されているようです。

    「用途が見えるようにディスプレイすることを、心がけていますね。たとえば、お菓子をのせるのにいい小皿を、コーヒードリッパーの横に置いたり。また、“作風はまったく違うのに、この作家の組み合わせ絶妙だね”とか、“同じ白の器でも、こんなにも見え方が違うのか”など、なにかしら発見があるように配置を工夫しています」

    画像: 器ひとつひとつがオブジェのような存在感を放ちます。棚のひと枠ごとに、ストーリーを感じる見せ方が楽しい

    器ひとつひとつがオブジェのような存在感を放ちます。棚のひと枠ごとに、ストーリーを感じる見せ方が楽しい

    画像: ゴブレットとドリッパー&サーバーは、ドイツで作陶しているクァン・セアムさんによるもの

    ゴブレットとドリッパー&サーバーは、ドイツで作陶しているクァン・セアムさんによるもの

    日本のつくり手を、海外に発信

    そんな真子さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、北海道三笠市で制作する、内田 悠(うちだ・ゆう)さんの器です。

    画像: アンティーク感のある佇まいが魅惑的。奥ふたつは「リム皿」、手前は「盆」

    アンティーク感のある佇まいが魅惑的。奥ふたつは「リム皿」、手前は「盆」

    「内田さんは北海道三笠市出身で、地元への想いが強く、制作に道産の木を使われています。普通なら使われないような節のある木でもあれば買い取り、作品にされていて。地元の木材を無駄にしたくないという想いがあるほかに、『節のある材を扱うのは大変だけど、生命力に溢れ、作品としての面白味もある』ともおっしゃっていました。

    この『リム皿』と『盆』は、グレー味を帯びていますが、もとはイタヤカエデという白い木でできています。このグレーは鉄媒染で木の中のタンニンを引き出すことで出た色。木目のおもしろさを知ってほしいと染めの加工を施しているんですが、木目の生き生きした表情がとても鮮やかですね。柿渋で染めた赤茶色の作品もあり、そちらも素敵ですよ。

    画像: 内田さんの作品は“シルキーな手触り”と表現されるほど、表面は手に吸い付くようになめらか

    内田さんの作品は“シルキーな手触り”と表現されるほど、表面は手に吸い付くようになめらか

    削った後、染めた後、塗膜を施した後など、その都度、木の毛羽立ちがなくなるまで、何度も何度も手で磨いてなめらかに整えます。制作にはもちろん時間がかかりますが、手間暇をおしまず納得のいくものをつくられますね。仕上げは油染みを防ぐガラス塗膜。メンテナンスがらくで、しかもガラス塗膜なら、木の感触も変わらず楽しめます」

    お次は、パリで作陶する、Madoka Rindal(マドカ・リンダル)さんの器です。

    画像: ファニーな表情に虜になる人も多いマドカさんの作品。こちらは「プレート」(真子さん私物)

    ファニーな表情に虜になる人も多いマドカさんの作品。こちらは「プレート」(真子さん私物)

    「マドカさんは日系のフランス人で、パリでグラフィックデザイナーとして働きつつ、アーティストとしてドローイング作品を出されたりしていました。そして数年前に、作品の幅をさらに広げたいと、陶芸も始めるようになったんです。

    マドカさんの作品のほとんどは、このプレートのように顔が描かれたもの。けして陶芸の歴史的な特徴がある器ではありませんが、ファインアートのように使っていて気持ちが上がりますし、食卓が楽しくなるところが、シンプルながらも魅力です。それは僕にとってはすごく大切なことですね。

    画像: 「コーヒーマグ」は、横にのびた大きな持ち手もユニーク(真子さん私物)

    「コーヒーマグ」は、横にのびた大きな持ち手もユニーク(真子さん私物)

    このちいさな顔のなんともいえない可笑しみのある表情がたまらなくて。マグでコーヒーを飲んでたら目があった、お皿でケーキを食べたら顔のところにクリームがついた、みたいな感じで楽しいんです(笑)。毎日のお茶の時間に、欠かせない器ですね」

    最後は、静岡県藤枝市で作陶する、村上祐仁(むらかみ・ゆうじ)さんの器です。

    画像: 洗練されつつも穏やかさを纏う村上さんの器は、軽くて丈夫で、使い勝手がいい。手前の鉢は「マザーM」「マザーL」、奥は「小鉢」

    洗練されつつも穏やかさを纏う村上さんの器は、軽くて丈夫で、使い勝手がいい。手前の鉢は「マザーM」「マザーL」、奥は「小鉢」

    「村上さんは、みんなから“むーちゃん”と呼ばれていますが、呼び名の通り朗らかな方で、いつも楽しそうにされています。村上さんの作品は、シャープなフォルムでも柔らかな印象があり、どこか愛嬌のようなものが感じられて。それが村上さんらしさでもあるように思いますね。

    この『マザー』という作品は、白の地に白い釉薬をかけたもの。使い込むと、真っ白から深みを増した白に変化し、穏やかになります。口縁に施された黒の釉薬が、緑色に滲んでいますが、これは釉薬の成分に銅が含まれているためで、銅が焼成により緑に発色しています。

    村上さんはとても器用で、ろくろも早く技術が高くて。いま30代半ばですが、体力のある若いうちにたくさん制作して経験を積み、成長と勉強の糧にしたいといい、あえて手にとりやすい価格にされています」

    画像: ピンクが織りなす繊細な景色のプレートは、フランスの陶芸家、マリオン・グローさんのもの

    ピンクが織りなす繊細な景色のプレートは、フランスの陶芸家、マリオン・グローさんのもの

    真子さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「作品の突出した個性だったり、作家さんの物づくりに対する考え、価格とのバランスなど、いろいろ要素はあるのですが、端的にいうと、“かっこいいもの”に尽きるかもしれません。

    というのは、場所柄もあって若いお客さんが比較的多いのですが、どう器を選んでいいかわからないというんです。でも、僕個人としては、もっと単純に“かっこいいから”で選んでいいと思っていて。かっこいいから手に取る。ないなら、ほかの器屋さんに行ってみる。買ったものを使ってみる。それを繰り返すうちに、“物差し”ができていく。

    そういう考えが僕や丸山さんの根底にあるので、器をあまり知らない人にも、伝わりやすい器を無意識に選んでいるかもしれないですね。そういう意味で、“かっこいいもの”が基準です」

    画像: モノクロームの鉢と銅鑼鉢は、吉田直嗣さんの作品

    モノクロームの鉢と銅鑼鉢は、吉田直嗣さんの作品

    画像: 棚に並ぶのは、四海 大さん、山田隆太郎さん、杉田明彦さん、吉田直嗣さんらのもの

    棚に並ぶのは、四海 大さん、山田隆太郎さん、杉田明彦さん、吉田直嗣さんらのもの

    「AELU」では、日本の作家作品を海外でも紹介したいと、不定期ですがパリでも展示会を開催しています。

    「海外にも作家性の高い陶芸作品をつくる方はいますが、日本の作家のものをおもしろがってくれるんです。それに、単に僕らが紹介したいだけでなく、自身の作品が海外でどう受け止められるか知りたいという作家さんも多くいらっしゃって。そういう意味でも意義のあることだと思い取り組んでいます」と真子さん。

    「AELU」に並ぶのは、使っていると心が弾む、置いてあるだけで気持ちが上がる、器のことをよく知らなくても心に響く作品たち。そんな器を、ていねいに選びとり、日本や海の向こうに案内する、そんな器屋さんでした。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 日本のつくり手を、海外に発信

    <撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>

    AELU
    03-6479-1434
    13:00~18:00
    水・木休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
    東京都渋谷区西原3-12-14 西原ビル4F
    最寄り駅:「代々木上原駅」西口より徒歩1分ほど
    https://www.aelu.jp/
    https://www.instagram.com/aelu_tokyo/
    ◆L'armoire(リメイククローズ)の展示会を開催予定(5月3日~5月7日)
    ◆大西佑一さん(器とアート)の個展を開催予定(5月10日~5月21日)



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