• 今日食べたもので、明日のあなたがつくられる。生物学者・福岡伸一さんと料理研究家・松田美智子さんが考える、理想のレシピを紹介します。今回は春においしさが増すニラを使った「ニラと豚キムチの炒めもの」のつくり方。食材とレシピについての福岡さんの解説もお届けします。
    (『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』より)

    ひと手間でうま味がアップする「ニラ」

    画像: ひと手間でうま味がアップする「ニラ」

    ニラは春が旬。軟らかく、香りが強く、甘味も豊富です。

    私たちが通常ニラと呼んでいるのは葉ニラのこと。他に黄ニラ、花ニラがありますが、ここでは葉ニラを使って豚肉、キムチとの炒め物にします。

    しゃきしゃきとした食感や、うま味や甘味を逃さないポイントがいくつかあります。ひとつはニラを切りそろえることです。これはニラに限りません。

    野菜を切るときに長さや大きさが均一であれば、まんべんなく火が通りますから、食感もバツグンによくなります。見た目もきれいです。

    もうひとつは火の通し方です。火を通し過ぎますと、食感を損ないますし、甘味も飛んでしまいます。

    あとは茹でたニラをギュッと絞らないこと。強く絞り過ぎると、うま味成分を逃してしまいます。特におひたしをつくる際は気を付けてください。

    ニラはおいしいだけでなく、栄養面でも優秀です。まずβカロテンが豊富です。同様に含まれているビタミンEとともに抗酸化作用や、糖化防止作用があります。

    においのもとであるアリシンには強い殺菌作用があり、整腸作用のある食物繊維も豊富です。

    火を通し過ぎたり、強く絞り過ぎたりしてしまえば、豊富な栄養も台無しです。ほんのわずかなひと手間、少しばかりの気遣いをすることで春のうま味と豊富な栄養分をいただけるのです。

    甘さと辛さのハーモニー。「ニラと豚キムチの炒めもの」のつくり方

    画像: 甘さと辛さのハーモニー。「ニラと豚キムチの炒めもの」のつくり方

    材料

    ● ニラ1束を長さ4cmに切りそろえる
    ● 豚肩ロースの薄切り300gを一口大に切る
    ● 塩少々
    ● こしょう少々
    ● 薄力粉適宜
    ● ごま油適宜
    ● キムチ1/2カップを2cm大に切る
    ● 長ネギ1/2本の芯を除いて斜め薄切り
    ● 酒大さじ2
    ● 醤油大さじ1

    つくり方

     豚肉に塩、こしょうをふったら、薄力粉を茶こしを通して全体にまぶしておく。

     フライパンにごま油を熱し、キムチをさっと炒め、香味がたったら豚肉を加えて強火に。

     長ネギを加え、味を見て酒、醤油、こしょうで調える。

     汁気がなくなったらニラを加えて火を切り、余熱でさっと混ぜる。

    画像1: つくり方

    福岡memo

    独特のにおいの元「アリシン」にすばらしい健康効果

    ニラは、ニンニクの親戚の植物。どちらも学名をアリウムといい、その名にちなんだアリシンという揮発成分を発する。これがあの特有の臭み成分で、硫黄を含む化合物。火山ガスと一緒で、生物にとって嫌なにおいであり、本来は虫を遠ざけるために植物が準備しいるものと考えられるが、なぜか人間は、この香りに引きつけられてしまう。

    それは学習による効果だと思われる。ニラは、上記のレシピにあるように豚キムチをはじめ、レバニラ、ニラ玉など、味の濃い、おいしい料理の格好の材料である。なので私たちは、ニラのにおいをかぐと、その先に必ずうまい一品が待っていることを期待する。これがニラの誘引効果である。

    ところでこのアリシンという香気成分にはすばらしい健康効果もある。豚肉には新陳代謝や免疫機能を高めるビタミンB1が豊富に含まれているが、アリシンはこのビタミンB1の吸収を画期的に高めてくれるのだ(これを製剤化したのがアリナミンである)。またアリシン単独でも殺菌・抗菌効果、抗がん効果などが研究されている。

    強壮・強精効果もあるので、仏門では煩悩をかきたてるということで「葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず」(「葷」とは「ニラ」=アリシン)とされる。ニラ料理で煩悩のひとつくらいかきたててもバチは当たるまい。

    本記事は『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』(日刊現代)からの抜粋です


    画像2: つくり方

    福岡伸一(ふくおかしんいち)
    米国ハーバード大学研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学総合文化政策学部教授。分子生物学専攻。専門分野で論文を発表するかたわら、一般向け著作・翻訳も手がける。2007年に発表した『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)は、サントリー学芸賞、および中央公論新書大賞を受賞し、67万部を超えるベストセラーとなる。ほか『動的平衡』(木楽舎)など著書多数。2024年1月に松田美智子さんとの共著『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』(日刊現代)を発売。

    画像3: つくり方

    松田美智子(まつだみちこ)
    料理研究家、日本雑穀協会理事、テーブルコーディネーター、女子美術大学講師。ホルトハウス房子に師事し、各国の家庭料理、日本料理、中国料理など幅広く学ぶ。1993年より「松田美智子料理教室」を主宰。季節感を大切にした、美しくつくりやすい料理を心がける。2008年、使い手の立場から本当に必要なものを考えて開発した調理道具、食器のプライベートブランド「自在道具」を立ち上げる。『季節の仕事(天然生活の本)』(扶桑社)、『家庭料理は郷土料理から始まります。』(平凡社)など著書多数。

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    ベストセラー『動的平衡』の著者・福岡伸一さんと、第一線の料理研究家・松田美智子さんのによる画期的な「食」のコラボレーションが1冊にまとまりました。
    前半部では福岡さんが「動的平衡」についてわかりやすく解き明かしながら、人間にとっての「食」の意味、理想の「食」のあり方を生物学的観点から解説。後半部では、福岡さんの主張を踏まえながら、松田さんが「理想のレシピ」を紹介。そのレシピ、食材について福岡さんがくわしく解説しています。



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