(『天然生活』2020年7月号掲載)
涼やかな暮らしを呼び込む。横山タカ子さんの夏支度
芽吹きの緑が少しずつ色を深め、田んぼの水もゆっくりとぬるみ始める信州の初夏。三寒四温の春を越え、「一年で最も過ごしやすい季節ですね」と、横山さんの声もはずんでいるようです。
5月にはまだ小さかった朴の葉が、大きくほどよい厚みになる6月、朴葉餅がつくれるようになったころが、夏支度の目安。
まずは窓辺にすだれを下げ、室内の板戸を外して風通しのよい簾戸に替えることから始めていきます。
「信州は、梅雨以外は湿度も低くからりとしているから、日の当たるところにすだれを下ろすだけでぐっと涼しくなるんです。
簾戸は、30年前に家を建てたときにあつらえて、使いつづけているもの。実家でも両親がそうするのを見て育ったので、用意しておくのが当たり前、という感覚でした。
いまはエアコンなど便利になりましたが、四季が鮮やかに変わる信州では、こうしたしつらいは生きる知恵でもあったのでしょう」
冬用のじゅうたんは巻き上げて、座卓もしまい、床に座る生活から一枚板のテーブルと椅子の日々に。部屋ががらりと様変わりすることで、気分もリフレッシュして新しい季節を迎えられそうです。
そんな夏の部屋を彩るのは、まさに目の前の庭で勢いを増して茂り始めた植物。「好きな草木ばかりを集めた大切な場所」という庭で、目に留まったひと枝を、部屋に招き入れて楽しみます。
「活けるときは難しく考えず、あくまで自分流で。いまこの季節にしかない緑の美しさは、やさしく心を潤してくれます」
横山タカ子さんの夏支度
すだれを下げる
日をよけながらも風を通すすだれは、見た目にも清涼感たっぷり。「これをしないとなんとなく暑苦しくて暮らせない」というほど、横山さんにとって欠かせない夏支度のひとつです。
「毎年、下げる場所は日が差し込む東側、南側と決まっています。すだれ越しに、みずみずしい庭の緑を眺めながらお茶をいただく時間は、初夏のいやしのひと時。あわただしくも楽しい季節の到来を感じます」
横山タカ子さんの夏支度
水鉢に水を張り、花を活ける。こけのしつらいをする
季節の花で来客を迎える玄関脇の水鉢。この日は若い緑が美しいリキュウソウに、紫の小花を添えて。
部屋に入ってすぐ目に飛び込んでくるガラスの花びんには、こけと竹炭に芽吹いたばかりのオオデマリをあしらい、しっとり涼やかに。
「竹炭は近所の農家さんに焼いていただきました。花びんは小さなものでなく、大ぶりなものをひとつ、大胆に据えると部屋の印象ががらりと変わります」
横山タカ子さんの夏支度
かめを雨水で満たしておく
「植物は、水道水よりも雨水が好きだから」と、4カ所の雨どいを改造し、雨水を引き込んで水がめを満たせる仕掛けに。たまったら木ぶたをしておき、朝夕の庭の水やりに用いるほか、飼っているメダカにも時折、やわらかな水を足してやります。
「すぐそばに小さなバケツをかけておけば、思い立ったときに水やりができて便利。小川が近くにないわが家では、とても重宝する存在なんです」
〈撮影/山浦剛典 取材・文/玉木美企子〉
横山タカ子(よこやま・たかこ)
長野市在住。長野の食文化を研究し、「適塩」でつくる保存食や素材を生かしたシンプルな料理に定評がある。『私の梅仕事』『四季を味わう 私の「木の実」料理』(ともに扶桑社)ほか、著書多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです