(『天然生活』2020年7月号掲載)
信州の短い夏を味わう、食の知恵。漬物も夏の味に
芽吹きの緑が少しずつ色を深め、田んぼの水もゆっくりとぬるみ始める信州の初夏。三寒四温の春を越え、「一年で最も過ごしやすい季節ですね」と、横山さんの声もはずんでいるようです。
食卓にのぼる品々にも変化が。煮る、焼くなどが多かった調理は、昆布締めやまぜ寿司など、さっぱりといただくことが増えてきます。箸休めには、やっぱりぬか漬け。
「日に暖かさを感じるころ、『そろそろぬか漬けが食べたいな』と、眠らせておいたぬか床を起こしにいきます」という横山さんの話を、意外に思った方も多いのではないでしょうか。
「ぬか床は、一度始めたら使いつづけなければいけないイメージかしら。塩でしっかりふたをして冷暗所に置けば、ぬか床の保存は可能です。量が少なければチャック付き袋に入れ、冷凍庫保存もいいですね。体を冷やしてくれる夏野菜に加え、乳酸菌と塩分も摂れるぬか漬けは、厳しい暑さを乗り切る相棒になってくれますよ」
お盆を過ぎれば秋の足音が聞こえ始める信州の夏。駆け足で過ぎる季節だからこそ、手をかけていとおしむように味わいます。
横山タカ子さんの夏支度
ぬか床をセットする
5月の連休を過ぎ、店先にラディッシュが並ぶころが、横山家のぬか漬け再開のタイミング。ふたにしていた塩を取り除き、新しいぬかと塩を足してよくかき混ぜたら、ぬか床は目を覚ましてくれます。
「漬ける野菜は、すぐに食べたければ切って、しばらく食べずにおきたいときは丸ごと入れます。1日1回以上混ぜることを守れば、ぬか床とのつきあいはさほど大変ではありませんよ」
横山タカ子さんの夏支度
庭木の枝からようじをつくる
「市販のようじは、なんだか味気なくて」と、すべて庭木で手づくり。竹や柿、桜に朴の木、黒文字など、食べられる木の小枝をまとめてとっておき、時間のあるときに削っておきます。
でき上がったようじはお茶菓子や漬物に添えるほか、巻いた肉や魚をとめて焼いたり煮たり、ふだんの料理にも活躍。「削るとそれぞれの木のいい香りが広がるのが心地よくて、つくる時間もまた大切なひと時です」
〈撮影/山浦剛典 取材・文/玉木美企子〉
横山タカ子(よこやま・たかこ)
長野市在住。長野の食文化を研究し、「適塩」でつくる保存食や素材を生かしたシンプルな料理に定評がある。『私の梅仕事』『四季を味わう 私の「木の実」料理』(ともに扶桑社)ほか、著書多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです