「60歳からはやりたい放題」こそが最高の生き方

日本人の死因の1位は男女ともに「がん」です。つまり、確率論から言えば、いかにがんを防ぐのかが長生きの秘訣になるということです。

がんの最大の危険因子はストレスで、ストレスをためやすい人ほど免疫力が下がり、がんを発症しやすいという説が有力です。だとしたら、そのストレスをできるだけためないようにすることが、結果として長生きにつながるのだと私は思っています。

ただ、ストレスはないほうがいいとわかっていても、現役でバリバリ働いたり、子育てに奮闘したりしているときは、それを減らそうとしてもなかなか難しいというのが実情でしょう。

嫌なことだって我慢しなくてはならないことも多いですし、上司の顔色を窺ったり、苦手なママ友とだって付き合ったりせざるを得ないので、ほとんどの人はこれまで多くのストレスと闘いながら日々生きてきたのだと思います。

けれども、仕事や子育ての第一線からは解放される60歳以降なら、自分の心がけ次第でストレスをうんと遠ざける生活を送ることは決して難しくはありません。

それがまさに、これまで繰り返しお話ししてきた、好きなことだけをして嫌なことはやらない、という「やりたい放題」の生活です。

つまり、「60歳からはやりたい放題」は、うつを遠ざけて第2の人生を充実させ、さらには長生きをもたらすことも期待できる、最高の生き方なのです。

60歳を過ぎたら“今この瞬間”を楽しむ

日本に限らず、世の中の教育とかしつけというのは、「アリとキリギリス」の寓話が象徴するような、今楽しんでばかりいるとあとで酷い目に遭う、今我慢すればあとでいいことがある、という精神が貫かれています。

若い頃、例えば受験生などであれば、そう言える部分もあるのかもしれませんが、60歳を過ぎてまでこの精神を貫くなんてことはとてもバカバカしいことだと私は思います。

こう言っては身も蓋もないですが、歳を重ねるほど、未来の可能性は目減りするわけで、60歳にとっての10年後、20年後というのは、思いがけず転倒して体の自由が利かなくなったり、すっかりボケてしまったり、最悪死んでしまったりしている可能性だってそれなりにあるわけで、「あとでいいことがある」可能性が確実に保証されているわけではありません。

「いいこと」を先延ばしにして大事に取っておくことにメリットがあるのは、せいぜい10代、20代、ギリギリ30代くらいまでの話であって、年齢を重ねるほど下手に取っておいたことでかえって酷い目に遭う可能性は高くなるのです。

だからこそ、60歳を過ぎたら「アリとキリギリス」の話なんかは忘れて、今この瞬間を楽しむ活動をしたほうが絶対にいいというのが、私がさまざまな本で繰り返し主張している高齢者の生き方のセオリーです。

和田秀樹（わだ・ひでき）
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』（幻冬舎）、『70歳が老化の分かれ道』（詩想社）、『60歳からはやりたい放題』『90歳の幸福論』『60歳からはやりたい放題［実践編］』『医者という病』（扶桑社）など著書多数。