産地が生む、魅力あふれるつくり手を発信
焼き物の産地として、器好きから注目を集める栃木県益子町。その益子町きっての人気店が、今回ご紹介する「pejite(ペジテ)益子」です。職人がていねいに手入れを施した美しい日本の古家具をメインに、益子を中心とする作家の器、こだわりのあるメイドインジャパンの洋服が、米蔵を改装したノスタルジックな店内に並びます。
店を営むのは、益子町の隣町で生まれ育った仁平透さん。「ペジテ」をオープンする5年前には、日本各地から探し集めた希少な古家具を、リーズナブルな価格で扱う「仁平古家具店」をスタートさせています。
「若い頃、欧米のアンティークに憧れはあったものの高価で手が届かなかったんです。一方、日本の古家具も好きで、“素朴な感じがむしろいい”と感じていました。そして当時は、日本の古家具はリサイクルショップで安く手に入って。それを自分で水洗いしたり、修理するのが楽しくて、ますます日本のものに夢中になりました」
そうして、“古いものでも、手の届く範囲で楽しめることを伝えたくて”始めたのが、「仁平古家具店」でした。
そんな「仁平古家具店」に比べて、「ペジテ」で扱う古家具は、“貴重でお高め路線”。
「長くやっていると、どうしても安くは売れない、なかなか出合えない一級品にも目がいくようになって。それを扱う場所として、『ペジテ』をつくろうと考えたんです」
ただ、日本の古道具は、当時はいまよりずっとニッチな世界。そこで、古道具に関心ある人を増やすことを使命として仕事に取り組もうと考えます。そこで、多くの層が好み、古い物の魅力を知ってもらえるアイテムは何かと考えたところ、頭に浮かんだのが器でした。
「アンティークの家具は、現代の工業製品の家具とは違って、手仕事なんです。それに対して、作家さんの器も手仕事だから、相性がいい。たとえば100年前の食器棚に作家の器を並べると、とてもしっくりくるんですよね」
「ペジテ」に置かれる器のラインアップは、地元作家のものが中心。でも、最初からそういう意図はなかったのだとか。
「『ペジテ』を準備しているとき、もちろん益子の作家も扱う予定でしたが、“お高めの古家具を売るなら、それにあわせて全国から一流のつくり手のものを集めなければ”、そんな考えが多少なりともあったんです。でも店を始めてすぐ、その考えは変わりました」
というのも、益子には、個人作家を中心に窯元も含め、400~500ほどの“焼き物屋さん”が存在。「そのなかには、おもしろいものをつくる作家さんが大勢いる。有名無名問わず、そんな地元作家を知ってもらうことこそ、ここで器を売る意味があるんじゃないか」、そんな風に感じたのだとか。
そうして「ペジテ」には、仁平さんが発掘した、まだ名の知られていない地元のつくり手の器が多く並ぶようになりました。産地ならではのパワーを秘め、自由な発想によってつくられる新鮮味ある器が、訪ねる人を魅了しています。
つくり手の喜びを原動力に
そんな仁平さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、栃木県益子町で作陶する、落合重智(おちあい・しげとも)さんの器です。
「落合さんは、益子の原土と灰釉をつかって、作品づくりをされる地元の作家さんです。作品に派手さはありませんが、素朴な雰囲気がたまらなくよくて。これほどシンプルな作風にもかかわらず、人を惹きつける力があるのが、落合さんの持ち味かと思います。また、慎ましやかだからこそ、料理がすごく映えるというのもありますね。
この『マグカップ』は、ベージュ色の灰釉がやさし気な印象。使い心地もよく、使えば使うほどよさを感じ、愛着がわいてきます。落合さんは、けして口数が多くない、朴訥でやさしさにあふれるお人柄。まさに器そのものという方ですね」
お次は、栃木県益子町で作陶する、木村颯太(きむら・そうた)さんの器です。
「木村さんも地元の作家さんで、窯元の家で生まれ育ちました。おじい様は土瓶づくりの名手として有名な方ですね。木村さんはまだ20代で、作陶歴は長くはないものの、受け継がれたDNAのせいか、質の高いものをつくられます。
最近は、こういった炭化焼成の器を手がけているのですが、炭化による表情がプリミティブな雰囲気で、どんな料理を盛っても映えます。たとえば、野菜のシンプルなおかずを、お皿の中央に高さを出して盛る、そんな使い方もいいですね。
木村さんは僕が発掘したというより、自ら売り込みに来てくれました。一年ほど前のことですが、当時はまだ学生さんで。ありがたいことに、『いつか作品を置いてもらいたい』と目標にしてくれていたそうです。意欲的で探求心があり、今後どう変化しいくのか楽しみですね」
最後は、ペジテのオリジナルブランド「汲古(きゅうこ)」の器です。
「『汲古』はうちのオリジナルブランドで、自社工房の職人が制作をしています。僕の自宅がもともと陶芸家さんの家で、母屋の横に立派な工房があり、ガス窯も使える状態で残っていて。その工房を活用しています。
“こんな器あったらいいね”という形を、まずは僕が簡単なスケッチでおこし、色なんかを工房の職人と相談して決めました。釉薬はこの2色のほかに、白・灰・生成が混ざる『粉雪KONAYUKI』、飴釉の『飴AME』、濃淡のある赤の『胞子HOUSHI』がありますが、想った色を出すのが難しくて。
でも、地元の焼き物屋さんに相談すると、『この釉薬にこの釉薬を足すと、こんな感じの色でるよ』『この土使うといいんじゃない』とかって、アドバイスしてくれるんです。益子の人って、いい方が多くて。それに、陶芸家を目指したり陶芸を仕事にしたいという若者も多く、工房で働いてくれたり。恵まれた環境ですね」
仁平さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「先ほどもお話したように、発掘する目線で選んでいる部分はありますね。だから、うちで初めて取り扱いが始まった作家さんも多く、そこから他店と取り引きが決まったりも。器で食べていける後押しというか、そういう人と人とのつきあいを大切にしたいですし、つくり手の喜ぶ声が、自分のやりがいにもつながっています。
器自体でいうと、基準はありますが言葉にはし難くて。シャープでスタイリッシュなものも、昔ながらの野暮ったいものも、作風ごとにそれぞれよさがあって、どれも好きです。ただ、同じシャープでも惹かれるのとそうでないのがあり、そこはグッとくるかどうかですね」
「ペジテ」は、2018年、東京・青山に2号店をオープン。大通りから少し入った路地に建つマンションの一画にありますが、街中とは思えない閑静な立地です。益子店に比べこぢんまりしつつも、同じ空気を感じられる心地よいスポット。ぜひ気軽に立ち寄ってみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/佐藤信宏 取材・文/諸根文奈>
pejite 益子
0285-81-5494
11:00~18:00
木休
栃木県芳賀郡益子町益子973-6
最寄り駅:真岡鐵道真岡線「益子駅」より徒歩8分ほど
https://www.pejite-mashiko.com/top/
https://www.instagram.com/pejite_mashiko/
◆松屋銀座にて開催の「銀座・手仕事直売所」に、「pejite」と「汲古」が出展予定(9月10日~9月16日)
◆上田隆之さんの個展を開催予定(9月14日~9月23日)*pejite青山にて開催
◆平田直人さんの個展を開催予定(9月21日~9月29日)*pejite益子にて開催