旅先で出合った、心揺さぶる器を
「“器屋を”というよりは、サロン的スペースをつくりたいとずっと思っていました。なにせ、学生時代の卒論テーマが『サロン』だったくらいで(笑)。人の手でつくられた、心動かされる物と人が出合える場をつくりたかったんです」
そう話すのは、フリーでインテリアデザインの仕事をしつつ、「gllery, あるゐは」を営む大室友子さん。人生初の就職は、就職氷河期で思い通りにいかなかったものの、やがて小さなアパレルメーカーに転職。デザイナーと二人三脚で、企画や広報などをなんでもこなす毎日を送ったそう。
その後は、手に職をつけたいと、インテリアデザインを勉強。デザイン事務所や照明会社で働いた後に独立し、数年を経てお店のオープンに漕ぎ着けました。しかしそれは、自身の店を持つことを決めてから、15年もの年月を経てのこと。
「その15年間、気持ちがブレブレで、夢が叶う気がしなかった」という大室さん。でも、その原動力となっていたのが、つくり手の存在だったとも話します。
「国内や海外に旅行に出かけると、器やオブジェなんかの作家をつい探してしまうんです。個人旅行なのに、『買い付けか』ってツッコミたくなるほど、買い込んで(笑)。そんな旅先で見つけた、“いい作品をつくるのに、埋もれてしまっている作家”の手助けをしたいと、いつも考えていました」
店に並ぶのは、器のほかインテリア小物、アクセサリーなど。作家の多くは、旅先で発見した人であり、それはオープン後も変わりません。「作家にお願いするのは勇気がいるので、アツい気持ちが必要で。SNSなどで見つけるより、偶然の方が思い入れが増すんです」と話します。
絵画の展示も頻繁に行うため、インテリア好きやアート好きなど、いろいろな人が訪れるのも「gllery, あるゐは」ならでは。人の手が生んだ心をときめかす物と人とを繋ぐ、とっておきの場になっています。
一生を供にしたい、つくり手の器を
そんな大室さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、石川県金沢市で作陶する、マイケル・ケリーさんの器です。
「マイケル・ケリーさんは、ニューヨーク州生まれですが、金沢美術工芸大学で学び、金沢で作陶されています。器に限らず手を動かすことが好きで、なにかとDIYしたり、金継に挑戦されたり。探求心旺盛で、器の技法も貪欲に研究されています。
九谷焼の磁器土を使いつつ、染付とベトナムの安南手(あんなんて)の手法を組み合わせるのが特徴。さらにいうと象嵌技法もミックスされていて。安南手だけですと、全体的に滲んだ絵付けになりますが、象嵌技法の部分は線が濃く出ていて、独特ですね。
和の雰囲気にアジアンテイスト、ヨーロッパアンティークの佇まいもあり、ミクスチャーな感じがたまりません。また、これは透光性磁器といって、光にかざすと透けるんです。カップは、飲み物の色が透けてきれいですよ。ランプシェードも愛らしく、おすすめです」
お次は、大阪市で制作する、nora glassworks(ノラ・グラスワークス)さんの器です。
「nora glassworksは、ガラス作家、甲田彩恵さんによるブランド。吹きガラスで制作され、気泡を閉じ込めるスタイルが特徴です。グレーやパープルなどの色ガラスも手がけていて、そちらもとても可愛いのですが、クリアが私のいち押し。店でも人気があります。
というのも、気泡の美しさが最も際立つのがクリアなんです。気泡がまるで星座みたいで。『contour glass』はnoraさんの代表作で、持ちやすく、ほどよい厚みで安定感もあり、毎日使いにぴったりです。飲み口が少し外側を向いていて、唇への当たりも心地いいですね。
noraさんの作品は、プロダクト寄りというか。デザイナー的な感覚をお持ちで、作品カタログを制作されていたり、新シリーズをつくる際も、しっかり練ってから制作されるんです。だからこそ、このグラスのような究極の形が生まれるんじゃないかと思います」
最後は、茨城県笠間市で作陶する、稲吉善光(いなよし・よしみつ)さんの器です。
「稲吉さんの器には、10年ほど前に旅先で出合いました。器を扱うお店で見つけたのですが、衝撃を受けて、夢中で買って帰って。稲吉さんは、手を多くかけ、ていねいに時間をかけて制作されています。
『山砂釉プレート』は、昔から制作されているもので、土味たっぷりの表情が印象的です。『錆白皿』は、『自分なりの白の器をつくりたい』と長年試行錯誤され、3年ほど前に完成させたのもの。ざらっとしつつもなめらかで、稲吉さんにしか出せない絶妙な質感です。
稲吉さんの作品は、質感と造形のバランスがすごくて。質感はまるで土と石の中間のようですが、造形はオブジェ的な魅力があります。でもご本人は、真摯に器と向き合い、あくまで日々の食卓のために制作されているにも関わらず、そういう魅力があるのは不思議ですね」
大室さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「まずは好きであるのが前提ですが、その作家さんの作風がどう変わっていっても、もしくはたとえ作風が変わらなくても、ずっとその方の作品を見続けていたいと思えるかどうかです。揺るぎない何かを、その方に感じられるかということですね。
私は、いいなと思ってもすぐにお声がけできない性格で。店を持ってからは、スピード勝負も否めなくなり、半年ほどで声がけしていますが、店で扱う作家は、見つけてから声がけまで10年以上かかった方もざらなんです。でも、その間もずっと変わらず好きでいて。
器は、一緒に生きていくもの。なので、ずっと供にいたいと思える作品であり、つくり手であってほしいと思っていて、そういう視点を大事にしています」
渋めのシンプルな器に混ざって、目を引くのは、絵付けや柄物の器たち。そのひとつが、昨年、久々に訪れたというベトナムで買い付けたビンテージのソンベ焼です。大量生産の現行品とは違い、手描きで絵付けされていた時代のもの。
また、リスボンの作家、Anna Westerlundさんの柄物の器は、明るく美しい色彩を放ちます。日々の生活にスパイスをプラスする、こんな器に出合えるのも楽しみのひとつ。ぜひ手にとってみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/大室友子 取材・文/諸根文奈>
gllery, あるゐは
06-7493-6702
12:00~17:00
不定休 ※営業日はInstagramにてお知らせしています
大阪市北区天満3-3-15
最寄り駅:大阪メトロ谷町線「天満橋駅」より徒歩8分ほど、JR「大阪天満宮駅」より徒歩9分ほど
https://www.gallery-aruiha.com/
https://www.instagram.com/gallery_aruiha_
◆船串篤司さんの個展を開催予定(11月15日~11月23日)
◆光井威善さん(ガラス)の個展を開催予定(2025年3月予定)