• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。大分県大分市にある「ta-na」は、シンプルで温か味のある器が揃う器屋さん。店主の隈純子さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    アイデアを出し合った、遊び心ある空間

    モノトーンでまとめられたシックな店内。そこに、全国から選りすぐられた作家の器と、上質でこだわりある洋服を並べる「ta-na(ターナ)」。その巧みなセレクトで、地元を中心に器好き・洋服好きから多くの支持を集めるお店です。

    画像: 2010年にオープンし、3年前に現在の地へ移転。壁の印象的な鏡は、ステンドガラス作家、山﨑まどかさんの作品

    2010年にオープンし、3年前に現在の地へ移転。壁の印象的な鏡は、ステンドガラス作家、山﨑まどかさんの作品

    画像: テーブルの器は、亀田大介さん、下岡由枝さん、石原ゆきえさんらのもの。木の盆と皿は、豊田豪史さん作

    テーブルの器は、亀田大介さん、下岡由枝さん、石原ゆきえさんらのもの。木の盆と皿は、豊田豪史さん作

    店主の隈純子さんは、以前、洋服のお直しの店をひとりで切り盛り。するとあるとき、商売人だった父親から、「人を雇うなどして、もっときちんと店をやったら?」と促されます。また、時を同じくして、身近な人が突然の死を迎えることに。「人って、こんなにあっけなく亡くなることもあるんだ」と、身にしみて感じたといいます。

    「そのふたつをきっかけに、改めてこの先のことを考えたんです。お直しの仕事は、将来ずっと続けたいとは思えない。そしてそれまでは、『好きなことを仕事にしない方がいい』という言葉を半ば信じていた部分があって。でも、真剣に考えて出した答えは、『本当に好きなことをして生きていきたい』というものでした」

    画像: 隈さんが設計図を描き、制作してもらった棚。左官職人さんが家具用セメントで仕上げたものだとか

    隈さんが設計図を描き、制作してもらった棚。左官職人さんが家具用セメントで仕上げたものだとか

    それでも、「お直しの店を一気にやめる勇気はなくて」、補正の仕事を続けつつ、店の半分ほどのスペースで、器やバッグ、生活雑貨などの作家作品を扱う「ta-na」を始めます。すると、不安をよそにお客さんは順調に増えていき、2年ほどで「ta-na」に専念できるようになりました。

    画像: 持ち手のデザインがユニークなマグカップは、石原ゆきえさん作

    持ち手のデザインがユニークなマグカップは、石原ゆきえさん作

    ただ問題は、お店が手狭だったこと。日もあまり入らない物件だったため、「いつか、もっと広い、日が差し込む場所で、器も洋服もたっぷり見てもらえたら」というのが隈さんの夢だったそう。そして、そんな夢をも無理なく実現できたのには、息子さんの存在がありました。

    「息子は、デザインや映像制作の会社を経営していて。それで、『ta-na』と合併し、両方がひとつの建物に入居できるようにしてくれたんです。息子のおかげで、念願が叶いました」

    画像: 柱のような形をした棚は、息子さんのアイデアから誕生。オブジェや洋服をディスプレイしています

    柱のような形をした棚は、息子さんのアイデアから誕生。オブジェや洋服をディスプレイしています

    隈さんは、お直しの仕事をしていただけに、洋服にも深い愛情を抱きます。「高品質で手触り抜群。ずっと昔から好きで着ていました」と話す「エヴァムエヴァ」、細部までこだわりを感じる「テンハンドクラフテッドモダン」などのブランドを扱います。

    ほかにも、「マタン エ エトアル」のスキンケア類や香りのものも。日々の暮らしの質を高め、小さな幸せをくれるアイテムが勢ぞろい。選ぶ楽しさが尽きません。

    自分の好きにぴたりとくる器を

    そんな隈さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、福岡県うきは市で制作する、山口和宏(やまぐち・かずひろ)さんの器です。

    画像: 手彫りの跡が美しい「四角皿」は定番人気の品。経年変化も楽しめます。材はクルミで、ミツロウワックス仕上げ

    手彫りの跡が美しい「四角皿」は定番人気の品。経年変化も楽しめます。材はクルミで、ミツロウワックス仕上げ

    「山口さんはとてもお若く見えますが、60歳代後半と大ベテラン。優しくて穏やか、それでいてユーモアもある素敵な方ですね。ある程度までは機械を使って形をつくりますが、そこからは手作業。ノミでていねいに削った跡が、とても味わい深いです。

    山口さんの器は、ぽってりとした厚めのフォルムが魅力です。ご自身も、『安心感があるでしょう?』と仰っていて、厚めにこだわっていますね。木皿は、トーストをのせると、蒸気を吸ってくれるので、サクサクのまま食べられます。揚げ物も同様、油を吸収するので、ベタベタせずおいしく食べられますよ。

    最近、山口さんの工房に喫茶を併設した『jingoro』という場所ができました。喫茶は娘さんが切り盛りされていますが、『木の道具に慣れ親しんでほしい』との想いから、山口さんの器でデザートがサーブされています。作品の販売もありますし、ぜひ足を運んでみてください」

    お次は、大分県別府市で作陶する、亀田文(かめた・ふみ)さんの器です。

    画像: ぽってりとした釉薬が施された「白釉花形オーバルリム尺皿」は、花形のリムが愛らしい

    ぽってりとした釉薬が施された「白釉花形オーバルリム尺皿」は、花形のリムが愛らしい

    「文さんは、亀田大介さんの奥さまで、夫婦揃って陶芸家さんです。型成形の技法で、白磁を中心に制作されていますが、ヨーロッパのアンティークを思わせるフォルムに魅了されますね。色は白のほか、グレーや『さくらベージュ』という淡いピンクの器もつくられます。

    こちらのお皿は、長いところが30cmほどもある大皿。洋食はもちろん、意外と和や中華などいろんな料理と相性がいいんです。使いやすく、うちでは頻繁に食卓に登場しますよ。印象的なフォルムなので、テーブルに出すとぱっと華やぎます。

    先日、新作が届いたのですが、貫入が全体に入った、より古めかしさを醸し出す作品で。これまでとは違ったイメージですが、新作の感じもすごく好きですね。また、銀彩の燭台も手掛けられ、そちらも人気があります。文さんは、おっとりとして物静か、また女性らしい方で、私とは正反対です(笑)」

    最後は、群馬県榛東村で制作する、中村智美(なかむら・ともみ)さんの器です。

    画像: アンティーク感ある佇まいの『片口さん 直径100mm 深』。「ドレッシングやソースをつくり、食卓にそのまま出しても素敵です」と隈さん

    アンティーク感ある佇まいの『片口さん 直径100mm 深』。「ドレッシングやソースをつくり、食卓にそのまま出しても素敵です」と隈さん

    「大好きな金工家さんで、10年以上のおつきあいになります。この『片口さん』は、ステンレス素材の片口の器。お豆腐、きんぴらやお浸し、サラダや果物など、ありきたりのものでもおいしく見せてくれますよ。

    おじい様とお父様が鉄工所を営まれていて、中村さんはそこで制作されています。驚くことに、全工程のほとんどが手作業。打ち込んで成形するのはもちろん、鉄の板を切るのも手作業なので、切り跡にも味わいがあって。量産のステンレス製品は薬で光沢を出しますが、あえて薬は使わずくすんだ表情にされています。そんなところにも惹かれますね。

    また、鉄製のフライパンもおつくりになり、とても人気があります。耐久性が増すようにと、継ぎ目のない一体型にしたこだわりのフライパン。愛らしい形にも魅了されます」

    画像: 手前のポットは山本拓也さん、白の皿は亀田 文さん作。アルミのトレーは、イイホシユミコさんのもの

    手前のポットは山本拓也さん、白の皿は亀田 文さん作。アルミのトレーは、イイホシユミコさんのもの

    隈さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「有名無名に関係なく、選ぶときは直感です。自分で見て、心の底から好きだと思えるもの。惹かれるのは、経年変化があるものやフォルムが美しいもの。また、形だったりテクスチャーだったり、どこかに古めかしさを感じられるものにも惹かれます。

    お店にはモノトーンの器が多いですが、色味のあるものも嫌いではなくて。ただ、古びた趣のある色味が好きです。たとえばグリーンならきれいめではなく、渋めのグリーンですね」

    画像: 親子仲よく、建物の2階に「ta-na」が、3階に息子さんの会社が入居しています

    親子仲よく、建物の2階に「ta-na」が、3階に息子さんの会社が入居しています

    店を始めるにあたり声をかけたのは、それまで個人的に交流のあったつくり手たちだったといいます。展示会に何度か足を運び、顔を覚えてもらった器作家、SNSで知り合い仲よくなったバッグ作家など。そんな風に軽やかに関係を深められたのは、飾らない人柄の隈さんだったからに違いありません。

    気さくな店主と一生つきあえる器が出迎える「ta-na」で、ぜひお買い物を楽しんでみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/隈 純子 取材・文/諸根文奈>

    ta-na
    097-532-1988
    11:00~17:00
    水休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
    大分県大分市浜町北10組 CORNER Bldg.2F
    最寄り駅:JR「大分駅」より車で5分ほど
    https://www.ta-na.jp/
    https://www.instagram.com/ta_na_oita/
    ◆冬の暮らし展 *器、照明、リースなどこの季節に合うアイテムを販売(12月7日~クリスマス前までを予定)
    ◆中村智美さん(金工)の個展を開催予定(2025年3月予定)



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